4次会 中間試験
大会は隔週の週末に行われる。
長いスパンで、厳正に審査をするためとのことだった。
そのおかげで経験のあまりない南部さんの練習期間が取れて助かったりもしている。
ただ、その間にも学生として勉強しなければならない。現実からは逃げてはいけなかった。
そう、夏休み前に待っている中間試験が目前まで迫ってきていた。
そんな中で、今日も推し活部は部室でひたすら練習をしていた。
「……はぁはぁ。ちょっと休憩」
ファーストステージの1つ目の演目、”ロック”が終わり、次の演目の”ポップ”に向けての練習を行っている。
大会1日目が終わってから、茜さんは憑き物が落ちたようにすっきりした顔をしていた。
以前にも増して、笑顔が輝いていた。
元気の溢れる茜さんに付き合わされて、南部さんはかなり疲れ気味だった。
「……はぁはぁ。疲れました……」
そんな中、僕と部長は先週の大会の写真の整理をしていた。
報告書の作成のためもあるが、趣味のようになってきていた。
「この写真見てよ。茜氏のロック最高だったね! 写真からでも魂の叫びが伝わってくるよ」
「これも見てください! 二階堂さんも良いですよ」
「おぉ! 良いね良いね! 引き延ばしてポスターみたいにして、部室に貼ろうよ」
僕と部長のやり取りを聞いて、茜さんもパソコンを覗き込んで来た。
「……おいおい、やめろ! 消せ消せ! 二階堂なんて消せ!」
茜さんは少しはにかみながらマウスを操作しようと掴みに来る。
「これもダメ、これもダメ、これなんか、とってもダメ!」
茜さんは楽しそうな顔をして、二階堂さんの写真を次々に見ていっていた。
「えぇ、良いじゃん。大会終わった後、二人とも仲直りしてたじゃん。意気投合して帰りにラーメン食べてたでしょ」
「……何で知ってるんだよ! 見てたなら忘れろー!!」
「本当は仲が良いんですね、二階堂さんと。二人とも気が合いそうですもん」
「ダメだ! あいつは私とポジション被るから!! 仲なんて良くないー!!」
茜さんは、消せ消せと言いながら、二階堂さんの写真を眺めて楽しんでいた。
大会の思い出話に花を咲かせていると、白小路さんからため息が聞こえてきた。
「……もうすぐ、中間試験かぁ……」
白小路さんは思ったよりも深刻そうであった。
付箋のいっぱい貼られた教科書を必死に目で追って、隅から隅まで覚えようとしていた。
「あれ? 白小路さんは成績良くないんですか?」
「藤木は初めてかもしれないけど、この学校テストがすごく難しいんだよ」
「そうなんですか……」
「甘くみてると、大量の赤点取っちゃうよ」
白小路さんの必死さを見ると、ちょっと不味い気がしてきた。
僕はあまり勉強ができる方じゃ無かったのだが、推し活部に入ってからはここでの活動が楽し過ぎて、自主勉強を全然していなかった。
2年生の人達も同じく部活動をしていたのだが、白小路さん程必死ではなさそうなため、気になって聞いてみた。
「……そういえば、皆さんって成績良いんですか?」
茜さんがパソコンの写真を見つめながら答えてくれた。
「ちゃんと勉強もしてるよ。クロなんかは、意外と成績良いんだよな。記憶力が良くて、細かい事まで覚えて」
「いや、泡波さんの方が成績上位だから」
「私は友達がいないから勉強してるだけ……。1人で勉強するととても捗る」
最後、泡波さんの触れてはいけない部分に触れてしまった気がする……。
泡波さんの発言を聞いて、白小路さんが不安な様子になっていた。
「……友達。そしたらレイは、私と一緒に勉強するようになったら成績落ちるの?」
「……そんなことない。大丈夫。……そもそも私はシロちゃんことを友達よりもずっと大切に思って……」
「良かったー! じゃあ一緒に勉強しよう! 私達は親友だよね! 勉強教えて!」
「……勉強はいいけど、もっと親密度が上の関係……女同士だけど……」
か細い声はさらに小さくなって、泡波さんは赤くなっている。
幸せそうなので深くは気にしないでおこう……。
同じ学年の南部さんのことが気になったので聞いてみた。
「南部さんは、成績良いんですか?」
「……ふふふ。よくぞ聞いてくれました。藤木君。私も頭良いからこの高校に入学できたのですよ!」
確かに、この高校は県内では偏差値が高い方だと思うが、南部さんみたいなタイプの人を他に見たことが無かった。
クラスの人達はもう少し知的というか、まともというか、話していても伝わるというか……。
南部さんな、あまり頭が良さそうには見えなかった……。
「私にかかれば、余裕ですよ! どんと来なさい!」
南部さんは胸を張って、すごく自信ありげだった。
そんなに勉強ができるのだろうか?
「南部氏、そう思っていると痛い目見るからね。うちの高校のテスト初めてでしょ? 入試受かったからって怠けてないで、ちゃんと勉強するといいよ。僕は1年生の最初のテスト、推し活しすぎて赤点取ってたからね」
なんでも知っているような部長が赤点を取るとは、かなり難しいのかもしれない。
南部さんは振付の覚えは良い方とは思うが、どうしても頭が良いようには見えなかった。南部さんの性格的なものだろうか。
人の事は気にしてられないな。僕も勉強しないといけない。最近推し活部のことで頭がいっぱいだったからな……。
◇
清酒祭以降、学校内での南部さんの認知度が上がり、話ができる友達も増えたようだった。それまでは推し活部ということで、オタクだというように見られて少し浮いていたようだった。けれど、頑張って踊る姿や、女子人気があまり無い酒姫部と戦ってる事が、思っているよりも好印象だったようだ。酒姫コンテストで2位という結果を残せたことも良い方向に働いていた。
女子の友達に囲まれた南部さんはテストの話題になっていた。
「南部さん、数学のテストできた?」
「数学ですか? 最初の方の問題は完璧ですよ! うしろの方の問題は、ちょっとわからなかったくらいです!」
……なんだろう、とても不安になる回答。
簡単な問題が最初にあったけど、それだけ出来たのだろうか?
本当に勉強できる人なのだろうか?
「難しかったもんねー。私次の英語のテスト全然勉強してないんだよねー」
「私もです! 全然勉強してないです!」
南部さんの事だから、本当に全然勉強してないやつだ……。
「藤木、テストできたか?」
「いや、数学だけ全然できてないんだ……」
「まずいじゃん! 赤点取ると補修授業があるらしいぜ? それも、数学って。お前の苦手な白州先生が補習担当だぞ? 全学年担当らしい」
「それって、マジですか……」
やってしまったかもしれない。
数学だけ重点的に勉強しておけばよかった。
けど、気づいた頃には後の祭りだな。
――ガラガラガラ。
次の試験のために、試験を担当する先生が教室のドアを開けて入ってきた。
次の担当は山崎先生だった。
「はーい、次のテスト始めるぞー。みんな席に着けー」
友達同士で集まっていた人達は、自分の席に戻っていった。
山崎先生はテスト用紙を配る準備を始めた。
席順にテスト用紙を配るため、人数を数え始めた。
「……あ、このクラスは推し活部の藤木と南部がいるのか。2人はこっそりカンニングすることを許可する」
「嘘! いいんですか?!」
南部さんが席を嬉しそうに席を立ち上がった。
……いや、南部さん、ダメに決まってます。
案の定、クラスの人達からは山崎先生へのブーイングが起こった。
「ははは、冗談だ。赤点取って、補習にならないようにな! 全国品評会も控えてるんだから、練習に時間割けるように頑張ってくれ。じゃあテスト配るぞー。みんな教科書しまえー」
既に一教科赤点候補があるのだが、どうにか他の教科は頑張ろう……。
「カンニングはダメですよねー……、けど、英語得意なんで大丈夫です!」
……南部さんの態度には、不安しか無かった……。
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