第42話 お嬢様と共に目撃してしまいました
期末テストも無事? 終えて、長く感じた梅雨の季節は去り、待ち焦がれた夏本番。
空は快晴。スカイブルーが何処までも続いており、雲1つない夏の空。
セミの鳴き声は騒音レベルでうるさいし、夏の太陽は地上を焦がすかの様だが、これこそが夏。うるさくない、暑くない夏など夏じゃない。でも熱中症対策はしっかりと、塩分補給と水分補給は小まめにね。
梅雨のジメジメした季節より俺は好きだぜ夏。
夏といえば、海に山。プールにキャンプ。夏祭りに花火大会。その他にもイベント盛り沢山。
そしてなんと言っても我等学生の特権である夏休み。
来ました超大型連休。
去年はそのほとんどを生贄に諭吉様を召喚した。そしてその諭吉様が今の忍びたんになったのである。
今年は別に欲しい物は特にはないかな……。あるとしても結局給料が入って買いに行けてないバイクの部品位なので無理にバイトに入る必要もない。
「涼太郎くんやーい」
我が校の終業式が終わり、後は通知表を貰う儀式を教室で終われば夏休みとなる教室内。
テストが終わり、元の席に戻って来た隣の夏希が声をかけてくる。
「ん?」
「夏休みになってしやいましたぜ。いつバイクを夏希色に染められるんですかい?」
「いやいや、触らすかよ」
「約束したじゃないですかい」
「やっぱり断ったろ」
「そんなぁ……。あっしもワイゼットエフ弄りたいですぜぇ」
「親父のトゥデイでも弄ってろよ」
「原付飽きましたぜぇ」
「ほんじゃ折角の夏休みなんだし、バイトでもして免許取って買えば良いだろ」
「折角の夏休みなのにバイクオンリーはちょっと……。はぁ……。涼太郎くんは良いですなぁ。バイクに乗って海にでもツーリングですかい」
夏希の発言に「海……」と後ろから言葉が漏れてきた。
それを夏希が拾い上げる。
「波北さんは夏休み海行くの?」
「今はまだ予定はない」
何とも意味を含んだ答え方である。
「だってさ」
「なんで俺を見る?」
「ここは涼太郎の旦那がビシッと波北さんをワイゼットエフで連れて行くシーンでしょ」
「な、何で俺が?」
そう言うと夏希は不服そうな顔をして俺を見た後に、普通の表情に戻してアヤノを見る。
「波北さんも涼太郎くんと行きたいでしょ?」
「べ、別に……」
アヤノの発言に「じれったい2人でやんすねぇ」と小さく言いながら、やれやれと言わんばかりな顔をしてくる。
「ま、夏休み後が楽しみでさー」
含みのある顔で言ってくるのを俺はシカトしておいた。
通知表が配布されて無事に夏休みを迎える事が出来た。
ほとんどの生徒が出て行った教室内。
皆今日は一段と早いので、俺はその波に乗り遅れてしまう。特に夏希が早かった。何か用事でもあったのだろうか。
しかし、乗り遅れたところで何がある訳でもなし、教室をいつも通りのスピードで出ようと席を立つと後ろから声をかけられる。
「リョータロー。この後ちょっと良い?」
「ん?」
アヤノが直接声をかけてくる。
「ああ……」
俺は周りを見渡して、改めて教室内に人が少ないのを確認する。
「もしかしてバイトの事か?」
別に周りに人がいてようが、いまいがイヤらしい話じゃないので関係ないのだが、なんとなく周りを確認して気持ち小声で聞いてしまう。
「そう」
「俺も話をしておきたいと思ったから丁度良かった」
「それじゃいつもの場所で」
「自販機のとこ?」
尋ねるとコクリと頷く。
「うーん……。別にそこでも良いんだけどさ。腹減らない?」
今日は終業式だったので昼までの学校。その為、お腹が空いていた。
「減った。それじゃあ私の家?」
「いやー……。今日母さん、アヤノの家行ってないんだよな……。だったら俺が昼飯作るって事になるよな?」
「当然」
「だろー? 今から作るのはぶっちゃけだりぃと言うか……。腹が保たないというか……」
「職務放棄?」
「やっべ……。アヤノのくせに正論言われた」
「それ、どういう意味?」
眉を潜めて睨んでくる。
「あー、あははー。いやーあれだよ! そう! ファミレスとか行かない?」
誤魔化す為に咄嗟に脳内に浮かんだ場所を提案すると予想外にも食いついてきた。
「ファミレス?」
「そそ。ファミレス。ほら何となーく仕事の話ってファミレスでやってるイメージあるからさ」
漫画家の人と編集者の人とか、お笑い芸人のコンビやトリオの方々とか、ファミレスでご飯食べながら話をもんでいるイメージがある。
「それにお財布にも優しいし」
「ファミレス……。未知の領域」
やっぱり行った事無かったか。
「なら、どう? ファミレスデビューしてみるか?」
そう聞くと拳を作るアヤノ。
「チャレンジしてみる価値はある」
「ファミレスってそういう所じゃないけど……。そんじゃ決まりだな。腹減ったし行こーぜ」
「り」
アヤノの短い返事を聞いて俺達は自然と一緒に教室を出た。
そういえば教室には何度も一緒に入る事はあっても、出て行くのは初めてだな。
♦︎
「――あ……」
昇降口にてアヤノがいきなり声を漏らした。
そして鞄を開けて中を確認する。
「どした?」
「筆箱忘れた」
「ありゃ。ま、良いんじゃない? 夏休みだし。課題とかは家のやつで代用できるっしょ」
「ダメ。筆箱の中にはお気に入りのヌタローペンが入っている。あれを夏休み中置いておく訳にはいかない」
「そ。なら、いてらー」
手を振ると予想外の返答をされる。
「リョータロー行ってきて」
「なっ!? んで俺!?」
「仕事」
「いや、流石に誰もいない教室の女子の席の中を漁るとか犯罪だろ」
そう言うとアヤノは「確かに」と納得してくれる。
「リョータローがやると犯罪」
「俺じゃなくても犯罪だわ」
「仕方ない。それじゃあ一緒に行こう」
「なんで? どうしてその結論に至った? 無駄じゃない? 2人して階段上がるの無駄じゃない?」
「私だけ疲れるのは不平等」
「えー……。くそだるいやん。1人で行けよー」
「仕事はしんどいもの」
「おめぇが仕事語るんじゃねーよ。――ったく。もー。さっさと行くぞ」
そう言うとアヤノはスタスタと歩きだす。
まぁ大した階段数じゃないし、別に良いんだけど、やっぱりだるいわな。階段を上がるの。
階段を上がって我が教室に向かっている途中、前を歩いていたアヤノが俺達の隣の教室の中を見た後に立ち止まる。
「ストップ」
「どしたよー?」
「しっ!」
人差し指を口に持っていき、静かにする様に注意される。
意味が分からないので俺も中を除いて見ると、そこには男子生徒と女生徒がいた。
反射的に俺達は壁に張り付き、そぉーっと中を覗く。
「告白……」
「っぽいな」
よく見てみると女生徒は我がクラスのアイドル水野 七瀬。男子生徒は――確か……。結構イケメンの名前なんだっけ? まぁそれなりに女子に人気な男子だ。
「おいおい。こんな覗き見するのも失礼なんじゃない?」
「そんな事言いながらリョータロー楽しそう」
「ま、まぁ否定は出来ないな。こんなん超激レアな展開だからさ」
「人の告白を覗き見するなんて変態だね」
「ブーメランって知ってる?」
「しっ! バレる」
理不尽である。
だが、まぁうるさくするのも告白する人からすると失礼だ。
いや、覗き見る事自体が究極の失礼だけど。
しかし、内容までは聞こえてこない。どちらから呼び出して告白しようとしているのか……。まぁ十中八九男子からだろうけど。
そんな事を思っていると俺の予想がピタリ的中する。
男子生徒が手を差し伸ばした。
「いったあああああ」とテンションを上げつつ声は押し殺して叫ぶ。
さぁ気になる答えは? 何て期待していると一瞬で決着がついた。それは書いて字の如く、瞬きを1回しただけであった。
答えはノー。
水野は頭を下げて断りを入れた。
「ああああ……」とテンションを下げつつ声を押し殺して落胆する。
仕方ない。恋愛というのはお互いの同意がなければ成り立たない、まさしく運命という言葉がピッタリなものだ。
そこそこ女子に人気な彼と水野に縁が無かった。ただ、それだけである。
これを機に――って……。
あかんあかん! そこそこ女子に人気の男子生徒が逆上して水野の肩に手を置いて揺すっている。
これあかんパターンのヤツや! クズ男パターンのやつやん!
くっそ、何であんな奴を若干応援してしまったんだ……。
いや、そんな後悔より、これは水野を助けに行かないといけないパターンだな。
よっしゃ。待ってろ水野。
おんどりゃ! ウチの後輩になにさらしとんじゃわれっ!
『俺の女に手を出すな』
俺がイメトレしている間にイケメンの透き通る様な声が聞こえてきた。
気が付くと、水野の手を社交ダンスの様に引いている超絶イケメンの風見 蓮がいた。
その後、何やら1言2言やりとりを交わすとそこそこイケメンはその場を脱兎の様に逃げて行った。
蓮くんかっけー。もうこんなん水野ベタ惚れだろ。メロメロだろ。
君は我がクラスのイケメン、いや、我が校のイケメン、いやいや、全人類のイケメンで良いよ。
君がNo.1のイケメンだよ
「まるで王道の少女漫画」
「やっぱ王道が1番だな」
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