第35話 朝から酷い仕打ちです
最近アヤノは寝起きが良いらしい。
少し前までは何をしたって起きそうもなく、起こす為の対策を練らなければならなかったのに、ここ最近はスッと起き上がり2度寝をしなくなった。
ただ、寝起きは良くても、目覚めは悪く、朝はボーッとしてしまうらしいね。
今日はアヤノの家から学校までは電車で来たのだが、呆けて歩いていたので反対のホームへ行こうとしたり、学校の最寄り駅に着いたのに降りようとせず、そのまま突っ立ってたりとボーッとしている。
今もアヤノの奴は教室に着くなりダウンしてしまったからな。お嬢様が机に伏せって寝ている。コイツは本当にお嬢様っぽくない奴だな。
そう言う訳で寝起きは良くなったが、まだまだ朝は俺が起こしに行ってやらないと色々と心配なのである。
アヤノの朝の起動が早くなったので自ずと登校時間も早くなる。
まぁ早くなると言っても、そこまで劇的に変わった訳じゃない。俺からすると以前の登校時間より少しだけ早くなったって感じかな。
なので、ゆっくり席に着いてスマホを弄れる時間が出来る。
地味にスマホニュースを見るのが好きなんだよね。
ふぁーあ……。
かと言って俺の起床時間が変更した訳じゃなく、相変わらずの早起きなので眠たいのに変わりない。
「おはよ。せーんぱいっ」
大きな欠伸をしている途中、いつも朝の登校が早い水野が俺の席にやって来た。
「ふぅぁーよーす」
「あはは。おっきな欠伸だねー。夜更かしでもしてたの?」
「んにゃ……。どっちかで言うと早起きのせいだな……」
欠伸をして、軽く瞳から出てきた液体を指で擦りながら答える。
「早起き? 早起きしたのにこの時間なの?」
水野が困惑の声を出して聞いてくる。
「あー……。あれだよあれー。――早起きして朝の情報番組見ていると遅くなっちゃってな。あはは」
「ふーん……。そんな人初めて聞いたよー」
彼女の笑いに俺は苦笑いで返すと、水野は「ところで」と話を変えてニタニタされる。
「昨日のグラサンのお客さんってさ――南方くんの彼女だよね?」
彼女の言葉に後ろからドンという音が聞こえたが、それを掻き消すかの様に隣から「なぬ!?」という声が聞こえてきた。
「夏希……。朝からうるせーよ。つか、おはよう」
夏希は教室に来たばかりだったので鞄を机に置くと椅子をこちらに向けて座る。
「おはよう――なんて呑気に言ってる場合じゃないよ! 七瀬ちゃん! その話詳しく! 詳しく!」
朝からテンションの高い夏希が言うと水野が「うん」と楽しそうに語り出す。
「昨日南方くんとバイト一緒だったんだけど、すっごい、こーんな大きなグラサンしたお客さんが来てね」
そう言いながら手で巨大なグラサンを作る水野。
「そんなグラサン持ってる人いるのww」
夏希は草を生やしながら笑っているが大袈裟ではなく、まじでそれ位であった。
アヤノの奴、何処であんなグラサン買ったんだろうな……。
「凄かったんだよ。ホントに。――それでね、バイト終わりに店から出ると、そのお客さんをバイクの後ろに乗せて南方くんが帰ってるの見たんだよねー」
そう言いながら水野にまたニタニタ顔をされる。
「ね? あれって誰? ウチの学校の人? 他校? あ! でも大人っぽかったから大学生とか?」
「どうなんでぃ!? 涼太郎の旦那!?」
朝から女子2人に詰められる。しかも女子の大好物の恋バナで。こうなると何か答えないと彼女達は納得しないだろう。
ここで素直にアヤノと言っても別に良いんだけど……。それだとあのデカイグラサンしてたのがアヤノだとバレてしまい、今後アヤノのあだ名が『グラサン』になりかねないな。
それはちょっと可哀想だ。
「あれは……。あれだ。妹だよ」
「へ?」と女子2人は期待外れな声を重ねて漏らした。
「妹……さん?」
「妹だね」
「なんでぃ。妹かよ」
「妹だね」
あー。サユキー。すまないー。今彼女達の中でお前に新しい称号グラサンが与えられた。
ま、バッシュ買ってやっから許してクレヨン。
心の中で妹に軽く謝罪している所で水野が疑惑の顔をしながら言ってくる。
「でも、あれって兄妹って感じじゃ無かったよ?」
「七瀬ちゃん。それってぇのわ?」
「うん。何か密着具合が恋人っぽかったんだよね」
側から見るとそう見られるのか……。
「そ、そりゃバイク乗るんだから密着するだろ」
「えー? でも、そんなに密着するー? って感じだったけど?」
「振り落とされたら危ないからな。ギュッとしてもらわないと」
「まぁ……。バイクの後ろって危ないもんねー。ちゃんと密着しないと」
意外にも夏希からの援護射撃が入った。
流石はメカニック夏希。バイクの事も分かってらっしゃる。
「ふーん。そうなんだ……」
「そゆこと、そゆこと」
俺は夏希の言葉に頷いて言ってやる。
納得いってなさそうな顔をする水野。
その顔を見た夏希が「だったらさ」と話題変更の言葉を放つ。
「涼太郎くんの好みの女の子のタイプは?」
話題が変わった。変わったけど話の流れは変わらなかった。
「あ! 気になる。気になるー」
水野は楽しそうにノリノリで聞いてくる。
「な、何でいきなり好みのタイプの話になるんだよ」
「だってグラサンの人は涼太郎くんの妹な訳でしょ?」
「ま、まぁ。そうだな」
「で? それは彼女じゃなかったと」
「妹だな」
「だったらこのまま『違ったんだ。そうなんだー』で終わるのは流れ的にどうかと思いましてね」
「断ち切れよ、流れを」
「継続は力なり。さ、そんな事よりどういう子が好みなの?」
「いやー……。それは……」
俺が言うのを躊躇っていると、彼女達は勝手に2人の世界へ突入する。
「やっぱ清楚系が好きなんじゃね?」
「あ、分かる分かる。南方くんってザ・純情とか好きそうだよねー」
「見た目清楚で付き合ったけど」
「実は清楚系ビッチって事実を知って夜な夜な泣いてるとか?」
「典型的過ぎてワロタww」
「あははー。かわいー」
朝から酷い言われ様だ。
俺ってそんなイメージあるんだな……。
しかし的を射てるのがしゃくに触る。
「だあ! ちげーっての!」
とりあえず否定すると2人して「じゃあ教えてよ」と半ば強引に聞き出してくる。
このままある事ない事言われるのも嫌なので、とりあえず、好きなパーツでも答えてかわしていこう。
「そうだなぁ……。髪は――」
俺が答えようとする前に水野が割ってくる。
「ロングが好きそうだよね。南方くん」
「清楚系ビッチ好きだからなww」
「夏希! お前の笑い方はどうにかならんのか!」
「ぶっ。動揺しておる。なるほど、ロングが好きとな」
「やっぱロングか……」
水野は呟きながら自分の髪を触る。
「そういえば妹さんもロングヘアだったね」
サユキはロングヘアじゃなくてセミロングだ。と普通に答えそうになりギリギリ踏みとどまる。
自分で作った設定を崩すところであった。危ない危ない。
「ぶっ。シスコン発動かよ」
「いやいや、誰がロング好きだって言ったよ」
「違うの?」
このまま素直にロング好きと言うとまた変な事言われそうだ。それは鬱陶しい。
ポリポリと頭を掻いて答えてやる。
「ショートかな」
「野球の?」
「ショートストップじゃないわ! 何でいきなり野球のポジション言うんだよ。ショートヘア。短い髪の毛の人が好みだっての!」
「えー。意外」
「ショートヘアビッチが好きなのねww」
「お前腹立つな! 何で俺がビッチ好きの設定になってんだよ」
俺の言葉に嬉しそうに笑う。だめだ、今何言っても何の効力もない。好きな髪の毛もロングと答えようがショートと答えようがいじられる運命なのね今日は。じゃあ素直に答えておけば良かったよ。
「まぁその子に合った髪型なら何でも良いけどな」
本当はロングヘアの方が好きだけど。と心の中で付け足しておく。
そう考えると本当にアヤノってドストライクな見た目なんだよなぁ。とか思ったりする。
「出たー。典型的な無難回答」
「逃げだよね」
ホント好き勝手言ってくるなコイツら。
「んじゃお前らの――」
俺が言葉を発しようとするとチャイムが鳴り響いた。
「あっチャイム鳴っちゃった。じゃ、またね」
「ちょ!」
そそくさと席に戻る水野。
「さ、授業、授業」
椅子を元に戻して前を向きわざとらしい言葉を発している。
「――おい。夏希。散々いじったんだからお前の――」
「しっ! 授業始まるよ」
「おまっ!」
「しっ!」
コイツら――。
散々いじられたのにこの仕打ち……。
もう今日の授業はふて寝しよう……。
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