エクストラ!

第57話 肉体言語で罰を

 私達の先祖が住んでいた世界で滅びの獣を討伐。元の世界に戻って来た後に報酬を受け取った。数か月にも及ぶ仕事だったからか、贅沢さえしなければ生活出来る金額がネットバンキングに振り込まれていた。その他に最新の透明マントもあった。そこは妥当だろうと感じている。


「で。いつ殴りに行きます?」


 問題はカエウダーラが言う通り、いつ偉い奴らのところに殴り込みに行くのかだ。暴力行為はだめだろうという批判を浴びないため、ツェイ会長同意の元で行う。普通に良い笑顔で許可を出してくれた。


 それでも通信でやり取りをすると傍受される可能性があるので、私の生まれ故郷である田舎の実家で作戦会議をしている途中である。ガスコンロとテーブルが合体した台で熱いお茶を飲みながらということもあってか、のんびりとした雰囲気の中に物騒な言葉が出るという奇妙なことになっている。


 私は頭を動かしていく。狩人の協会の偉い人というのは何人もいる。今回グロリーアと接触した奴は二人。どちらもエルフェン族で偉い連中の中では比較的若い。日焼けしている黒髪の細マッチョの男と、真っ白な肌で銀に近い色の髪の男。見た目があまりにも違うのは出身地が異なるからだとか。気が合うのか、ペアで組んで仕事をしていたらしい。狩りをしながら高等教育を受けた身で、管理者としても優秀という話を聞いた。それを踏まえるとかなり忙しい。コンタクトを取るのですら難しいだろう。


「ん?」


 震える音が耳に届く。通信端末に連絡が入ったようだ。それはカエウダーラも同じだった。互いに通信端末の画面に触れる。ドーフェ・アライン。ルルベ・ルッツィア。あの若い方のお偉いさんのコンビの名前だ。


「あら。例のお二方ですわね」

「あ。そっちにも入ってたんだ」


 カエウダーラと同じ内容なのかもしれない。そう思いながら、連絡内容を見ていく。報告書について詳しく聞かせてくれというのが大まかな内容だ。対応できる日時の中から選ぶ形だ。


目的は仕事と大差ないかもしれないが、これはチャンスとなる。まさか殴り込みにいける機会が出てくるとは予想外だった。触れていない左手に力が入るものだ。


「まさかあちらからお誘いが来るとは思いもしませんでしたわ」


 カエウダーラを見たら、獲物を狙うような表情をしていた。多分私も似たようなものなのだろう。とりあえず彼らに返信をしてから数日後、狩人協会の会議室に赴くことになった。建物に入り、受付の人に偉い奴らの名を伝える。帽子を被った人みたいな感じの案内用のロボットが来てくれて、それに付いて行く形だ。エレベーターに乗り、会議室がたくさんあるフロアに。その中の一つの引き戸式のドアの前へ。


「アライン様。ルッツィア様。例の狩人二人をお連れいたしました」


 抑揚のない機械独特の声でメッセージを言った後、ロボットは自分の持ち場に戻って行った。すぐにドアが勝手に開く。大都市が見える眩しい光景。その前に丸いテーブルといくつもの背もたれのない回る椅子が置かれている。


「やあ待っていたよ。好きな席に座ってくれ」


 日焼けしている黒髪細マッチョのエルフェン野郎アライン、真っ白肌の銀髪っぽいルッツィアが爽やかな笑顔で出迎えてくれた。野外で活動する予定がないのか、カジュアルオフィススタイルとやらの格好をしている。


途中までは乗ってやろう。これも仕事の一環であることぐらい、私達も理解している。だから彼らの問いにはきっちり答えていく。


「……これで質疑応答は終了とするよ」


 体感として三十分程度か。それぐらいで仕事が終わった。アラインが薄いタブレット端末を片付けているから間違いないはずだ。


「この後お昼に行こうかと思うんだけど。どうかな」


 時間としてはあと少しでランチタイムだ。ルッツィアの誘いに乗る女性が大多数だろう。数年前雑誌でイケメン狩人として特集されていたぐらいだから。ただし……私達には通用するとは限らない。


「いえ。ご遠慮しておきます」


 さあ。ここからが本番だ。私とカエウダーラは立ち上がる。彼らは察したのか、すぐに退室しようとする。ドアの近くの暗号キーを押すことで開く仕組みなのだが、今は出来なくしている。協力者であるツェイ会長の管理下となった証だ。


「なるほどね。ツェイ会長も噛んでいたわけか」


 アラインは理解したように言った。焦っている表情を私達に見せている。


「そう言えば別世界からの依頼の報告、大会議の後だったね。事後報告って奴の。しかも実質拒否権ない依頼っていうパターンだったわけで。うん。そりゃ。殴りに行くよね」


 ルッツィアが力弱い笑みをする。そうだ。本来は狩人に依頼するためにはいくつものステップを踏まなければいけない。緊急の依頼があったとしても、最短で三日ほどかかる。更に受けるかどうかの判断は狩人達に委ねられている。


しかし滅びの獣の討伐依頼の時、尋常じゃないほどの早さで手続きが終わった。しかも別世界で依頼内容を聞くため、拒否権なんてものはなかった。もし私とカエウダーラじゃなかったら。いや。そういう想像はしても意味がない。


「だろうね。あの時会長が黙ってたのも分かるよ」


 アラインが両手で構える。なるほど。無抵抗というわけではないみたいだ。


「けどそう簡単にやられるわけにはいかない」


 それでも経験はこっちの方が上だ。アラインの背後を取ることから始まる。流石に彼も前線に立つ者でもある。そう簡単にやられはしないだろう。ほら。すぐに真正面に向こうとする。反応速度は見事なものだ。しかし。


「げ」


 右手を掴み取って、引き込んでいく。私が右足を蹴ることでバランスを崩し、アラインは仰向けになる。あとは関節技を使うのみだ。右腕を両足で固定させて、力を入れておく。


「いだだだだ! ルルベ!」


 アラインが叫ぶ。助けを求める判断は正しい。しかし相手が悪かった。


「ごめん。俺も無理」


 カエウダーラの下敷きになっていた。どれだけ強くてもそう簡単に立ち上がることは出来ないだろう。


「ははは」


 天井から会長の笑い声。放送室から様子を見ていたのだろう。


「ドーフェ・アライン、ルルベ・ルッツィア。これこそ俺が考えた罰だ。初めてのケースだったから降格処分を出さなかったことに温情を感じるといい」


 会長にとって相談せず行動してしまったことがダメだった。そして私達の許可なく、実行してしまった。しかし向こう側の事情と初のケースということもあり、肉体言語という罰を下した。二度と同じ間違いを犯さない二人だからこそというのもある……かもしれない。まあとりあえずすっきりはした。やり返したので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る