第58話 グロリーアと魔術師の酒の交わし

 神獣族とアプカル族の末裔である彼女達が全ての滅びの獣を討伐した後、僕……グロリーアは大忙しだった。報告とかそういうのが仕事だったからね。それはある程度予期していたことさ。講演会したり、お偉いさんに書類を出したり。落ち着いたのは冬から春の間だったね。


 どこかの居酒屋。いや。パブという名称が正式だったな。久しぶりに数少ない魔術師の友人と共に酒を交わす。発表とか調査とかで忙しい人ばっかだったからね。たまにはっちゃけたい。とりあえず酒の癖が悪いから、ほどほどにするけど。そう思いながら、僕は王都アルムスフの中にある大通りのとあるパブに入っていく。木で出来た内装だから暖かみと柔らかさがある。夕方の時間だからか、労働終わりの男達が群がっている。


「こっちですぅ」


 むさ苦しい男ばかりのパブの中に場違いな女性フルルを見つける。黄土色の髪のご令嬢みたいな人がここにいていいのかな。本当に。


「ああ。席を取ってくれてありがとうございます。フルルさん」


 フルルは四人テーブルにいる。彼女以外誰もいないとなると、僕自身は早めに到着したのだろう。


「他の皆さんが来るまで待ちましょう」


 だからフルルの提案通り、僕は静かに待った。残り二人は特に用事があるわけではない。そういうこともあって、すぐ入って来た。にこにこと笑う背中まであるストレート系金髪の女性と、肩まである金髪の美男子。雰囲気が似ているのも双子だからだ。女性の方がジョイスで、男性の方はジョーン。ちょっとややこしいけど、性格と魔法は正反対だから分かりやすい。


「おっす! 久しぶりだな! グロリーア!」


 ジョイスの元気な声が店内に響く。どんだけデカい声量を出してたんだい。その一方でジョーンは静かにしている。


「ああ。元気そうだね。二人とも」


 何はともあれこれで参加メンバーが揃った。酒を頼んで、木と木がぶつかる乾杯の音で始まる。最初は魔術師らしく、魔法に関する話をしていた……はずなんだ。どうしてかな。どんどんズレていくんだよな。酒か。酒が悪いんだろうね。フルルと僕が酔っぱらって、外でド派手にやらかしたこともあったし。今回はまだマシだけど。


「お。チョコもおつまみに入ってる」


 それで二度目の注文。ジョイスの台詞に困惑してしまう僕だ。だってこういうとこでチョコがあるとは思わないでしょ。輸入物で高価だって話があるし。嘘だろって思ってメニュー見たけど、マジで載ってる。数量限定なのはしょうがないか。というかこの貼り付け具合は間違いなく、普段は取り扱っていない奴だろ。


「限定ものですよね」

「ええ。どっかの国じゃ、宗教のトップの恋愛絡みで今日は世話になった人に何か送ったり、告白したりするんだって」

「まあ! 素敵!」


 女性らしい会話というか、恋愛絡みになると彼女達でも盛り上がるものらしい。魔法学校でも恋愛の話はあるみたいだけど、短い在籍だった僕には縁がない。


「女性といえば、グロリーア」


 おっと。ここでジョーンが話しかけて来るか。


「ん」

「ともに仕事をしたという方、確か女性だったよね」


 予想外のことが来た。これは嫌な予感がする。


「どっちが好みだったわけ」


 ジョーン。君はそこまで女性関連に興味あるわけじゃなかったよね。何故この酒場で聞くんだい。お陰でむせたじゃないか。あ。よく見たら目がとろんとしているし、頬が赤くなっている。呑むペースが早いと思ったらこれだ。知らない間に酔っぱらっていやがった。


「どっちがって言われてもね。仕事の仲間ってだけだし」

「ふーん?」


 無難に答えても効果なし。ふざけるな。くそ。こういう時に限って、フルルとジョイスが興味持つし。誤魔化しても意味はない。大体こういうの考えたことないんだよ! なけなしだけど言うしか!


「理解力がある人。精神的に強い人。こんな感じかな」


 あ。これなんというか。狩人の彼女達の印象そのままだ。ちょっと変人っぽいとこはあって、善人だけど弁えていて。それでいて自分を出せる。僕にはない強さを持っている。なんていうか、憧れみたいなの、感じていたのかもしれない。付き合いは短かったから何も感じていないと思い込んでいたっぽい。やっぱり僕はまだまだ未熟だ。自分の気持ちすら気付いていないのだからね。


「げ」


 僕の顔にも何か出ていたのか、三人がニタリと笑っている。獲物を狙い定めている感じしかない。今夜は無事に帰る事、出来るかな……。

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