第8章 獣を召喚した者

第44話 学者仲間のザッサ

 報告をしてから月日が経った。私達はアルムス王国から見て、西の大陸にいた。船や馬を使うと、数か月単位でかかるのだろうなと思う。空間転移。ソーニャが「この技術をお持ち帰りしたいっす」と本音が漏れるほどのものだ。


 渋みがあり、落ち着きのある焦げ茶色のレンガで作り上げた建物。ベージュ色の細い街灯。定期的に行われる外の市場を通りながら、私達は目的地に向かっている。


「それであなたのお知り合いが何を見つけたのです?」


 カエウダーラの質問で、私は思考を本題に切り替えていく。グロリーアと同じ考古学者のザッサとやらが何かを見つけたらしい。それで私達は遠いところまで移動することになったのだ。


「滅びの獣を召喚した魔術師に関することだよ。押し付けられたという手記が決め手となったらしい」


 グロリーアが答えてくれた。思ったことをそのまま口に出す。


「意外だった。面倒だから貰った感しかなかったよそれ」

「ですわね。多分あの店主に伝えたら、マジかって顔になりますわよ」

「あー……目に浮かぶ」


 トドリムで会った店の店主の顔をすぐに頭の中で浮かぶことが出来た。いらないから押し付けると言ったはずが、学者の研究の手がかりになる。正直私ですら予想外だった。


「意外なとこがってのはよくあるよ」


 グロリーアが苦笑いをしながら、呼び鈴を鳴らす。目的地に辿り着いたみたいだ。家の前に花壇があり、ピンク色の花が咲き誇っている。馬のような陶器があり、洒落が好きな主なのだと分かる。


「おー。よう来た。二人は初めましてだねぇ。ザッサと言いますぅ。よろしく」


 ザッサという男が顔を出す。頬にそばかすがある素朴な三十路近い、短く切りそろえた金髪エルフの男性と言ったところか。翻訳機器がなかったら、全く聞き取れない訛り具合だ。


「久しぃなー。まさか女性を連れて来るとは思わなかったぁよ。いつもの精霊の女の子だもんねぇ。で。どっちが本命よ?」


 他の人がグロリーアを揶揄うことなんて何度も見たことがある。しかし本命どうこうの質問をしてきた人は初めてである。


「知ってて質問するか。君は。言ったろ。必要だから召喚しただけって」

「まあそうなんだけどさ。その割に顔真っ赤」

「うるっさいな!」


 普通にグロリーアは頬を赤くしていた。弄られまくりである。ヤケクソで否定しても、効果が余計に無くなることを分かっているのだろうか。現に家の主が涙出るレベルで笑っている。


「あっはっは。やっぱおもしろ。入って入って。茶でも飲んで色々と話そう」


 というわけで私達は中に入る。絵画が好きなのか、壁に飾っている。べたべたした感じのものは油性の絵具のものだろう。三角や四角が入り混じり、理解が難しいものだ。その他に靴箱の上に、弦楽器を持つ熊の人形がある。目の前に階段があり、その奥に部屋がある形だろう。


「お客様が来たのねー」


 一階の奥からのんびりとした女性の声が聞こえてきた。


「来たよぉ。お茶よろしくー」


 ザッサは大きい声で女性に頼んでいた。階段を上がり、二つの部屋がある。右にある部屋に入っていく。シンプルなものだ。予め説明するためにセッティングされたものだろう。ホワイトボードのようなものを窓際に置き、その前にテーブルと椅子がある。両端には本棚があり、ぎゅうぎゅうに本を詰めている。


「これ間近の発表会で出すつもりかい?」


 まだ準備中だったらしく、私達はザッサのぺたぺたと何かを貼る作業をしている様子を見る。学者関連の知り合いらしさが出ている質問がグロリーアの口から出ている。


「うーん。ちょいと後だねぇ。絶対おっちゃん達が攻めてきそう」


 ザッサとしてはまだ後が良いらしい。おっちゃん達というのは面倒な匂いしかない。


「だろうね。ゴハウブのお爺さん、目を光らせてさ」


 グロリーアがごほんと咳払いをする。真似する気満々だ。


「この辺りの詳細を聞かせて欲しいんだが。どうだね。ザッサ君」


 いつもより低めの声だ。笑いのツボがはまったのか、ザッサがゲラゲラと笑う。


「似てるぅ。さいっこー!」


 急に笑うことを止めて、何故か私達の方を見る。スッと行動を止めて欲しくなかった。続けていた方がまだマシだった。


「ごめんねぇ。これ完全に身内ネタだぁ」


 ザッサは舌を出す。これから重い話をするとは思えないほどの軽いムードで良いのだろうか。

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