第45話 禁術と魂

 準備が終わったとのことなので、話が始まった。召喚術に関する知識があまりないので、そこから始まっていく。


「召喚自体は媒介となる物と召喚の呪文と魔法陣があれば、簡単に出来るものだよ。古代と現代と形式が違ってたから、あの黒い石が召喚に関するものだと気付くまで時間がかかったけどね」


 グロリーアが解説してくれた。彼著書のものには黒い石が謎だと記されていたが、依頼を受けた時点では分かっていた。どれぐらい前に書いたかは分からないが、時間がかかったこと自体、本当のことだろう。


「魔術師は召喚獣を使おうとしないっすよね。消耗する魔力量の割に合わない。コスパ最低の魔法とも言える代物とも言えるっすね」


 ソーニャの台詞で何となく理解した。簡単ではあるが、割に合わないのが召喚術という魔法なのだと。コスパという言葉はこの世界にないみたいだが、グロリーアとザッサは何となく理解していることだろう。


「それが古代と現代の力量の差とも言えるかな。僕だって正直、古代の魔術師相手にやれるかっていうと……無理」


 グロリーアが力のない笑いをした。どれだけ古代の魔術師がヤバかったのか、凄く気になるところだが、既にいない存在だ。気にしない方針にしておくべきだろう。


「それに禁術もミックスされているからこそってのも大きいよ」


 カエウダーラはホワイトボードみたいなものをじっと見る。私もそれに合わせてみる。たくさんの紙が貼られており、空白が少ない。紙を見てみると、素人が理解できるような内容ではないことが分かる。


「ごめんくださいまし。禁術の解説も欲しいですわ」


 カエウダーラがすぐ言ってくれた。ありがたい。


「簡単に言うと倫理的にやっちゃいけない類だね」


 ザッサが言葉通りに、簡単に教えてくれた。倫理的。理解出来なくもないが、互いに価値観が異なっているので、解釈が正しいとも限らない。


「その倫理的にやっちゃいけない類を教えて頂けません?」


 いつものようにカエウダーラに先を越されてしまった。ザッサはうーんと腕を組んで悩む仕草をする。当たり前だ。曖昧なことを説明するのにかなりの労力を使うのだから。


「色々と時間かかるから、簡単に言っておこうかなぁ。他の命を糧にするってのが魔術師の世界ではアウトなんだよ。正確に言うと魂を使うことだねぇ。それ無くなったら、死の世界に行けなくなるわけだしぃ」


 ピンと来るような、来ないような解答だった。どう捉えておけばいいのだろうか。


「肉体と魂は密接な関係にあると言い伝えられているからね。実際、フルルも見えてるわけだしね」


 グロリーアが付け加えてくれた。凄まじい速度で捲る音が聞こえると思ったら、隣でソーニャが分厚い本を読んでいた。速読、或るいは斜め読みとも言うものだ。


「ふーん。善悪関係なく、魂は死の世界に行く。記憶と感情と知識を消し、新しい生命へ変えていく。死の神はそれを担っていると言い伝えられている。なるほど。蓄積していたデータを消去して、初期化していくようなもんすね」


 ソーニャなりにかみ砕いているようだが、私にとって理解しづらいものである。それでも確かにアウトなのだろうと分かってしまう。サイクルが回らないというのは、神にとって困ることだからだ。それに……やられた側としてはたまったものではないだろう。


「生贄というのは古代ではよくあったことっすけど、それよりも酷いって解釈でいいんすよね」


 因みに生贄は私達の星でもあったことだ。あまりにも雪が強い時、身寄りがなく、穢れていない少年少女を池や湖に投げ捨てる。そういった生贄の習慣があったとされていたらしい。ほとんど記事から得た知識なので、合っているかどうかは不明だが。


「そういう解釈で間違いないよぉ」


 階段を上がる音。ザッサと共に住んでいる女性が何かを持って来てくれたのだろう。


「入るよー」

「うん。入ってぇ」


 ドアを開け、素朴でおっとりめなエルフの女性が入ってくる。お茶と焼き菓子を用意してくれた。


「あ。どうぞ」


 女性がうずうずと尻尾を触りたがっていたので、許可を出してみた。そっと触れられる感覚。数秒だったが、満足したらしく、彼女は一階に行ってしまった。何がしたかった。


「それじゃ。続きを行っとこぉ」


 ザッサによって、緩く再開する。


「召喚した獣を強化というか改造する時に材料が必要でねぇ。ま。その時に魂も使ったってわけだよ。七体もいるわけだから、犠牲者は三桁はいるんじゃないかな?」


 予想以上に多い。七体も召喚したとなると、そういう換算になってしまうのだろう。大体の人は躊躇する。それでも科学者も倫理を外して、様々な負の遺産を生み出した。そういった奴らと何が同じで、何が違うのだろう。

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