第43話 グロリーアの結論

 グロリーアが資料の整理をしながら説明をしてくれる。


「まず結論から言わせてもらうよ。滅びの獣がくっ付いた可能性が高いってことだね」


 合成獣に似た何かだと感じていたことは間違っていなかったみたいだ。熊をベースに何かを付けたものだった。その辺りはカエウダーラも同感だったように思える。そしてグロリーアからはどう感じ取ったのか。ここが大事だろう。


「私達は熊ともう一つって見解なんだけど、そっちはどう考えてるわけ」

「同じだよ。特徴からして東の大陸の山頂のとこだ」


 グロリーアから資料を渡されたので、私達はそれを見てみる。黄色の毛皮の狐。今までの獣よりだいぶ小ぶりだ。伝承などの記述から甘い匂いで誘惑をする能力を持つだろうと書かれている。


「まだ行っていないところですわね。根拠はありますの?」

「反応がなくなったんだよ。このグラフを見てくれ」


 一枚の紙。線グラフが記されている。日によって下がる時もあったみたいだが、全体を通してみると、上昇傾向にあった……はずだったのだろう。丁度私達が熊のような滅びの獣と戦っている時から、数値がゼロになっている。


「そしてこっちが戦場となったところのグラフだ」


 私達がいた場所のグラフも出されていた。予想された線より遥か上。ありえない角度で上がっていることが理解出来る。


「数字とかを見ていると、合計した数字そのまま足してる感じっすよね」

「ええ」


 ソーニャが気付いたことをカエウダーラは同感だったみたいだ。


「そうだ。二人とも、あの黒い石に不自然なとこはなかったかい?」


 グロリーアが思い出したように聞いてきた。言っていなかったと思いながら、私が答えていく。


「今までで一番大きかったよ。手のひらサイズだったのが、両手で持てるぐらいになってた」


 このぐらいだと両手で示してみる。


「召喚獣の合体技術に近いね」


 合成するような技術はこちらの世界にもあるみたいだ。


「召喚の系統だとよくあるみたいっすね。近距離ばっかっすけど」


 事前に色々と調べていたのか、ソーニャが教えてくれた。ほとんどの前例は近い距離での合成。あれだけの長距離となると、かなり異端であることが分かる。


「今回はあれだけの距離でもやれてた。かなりの腕前だろうね。それをやった魔術師が誰かは不明だが、この手記で大魔術の誰かがやったのだと分かるよ」


 グロリーアは何かをテーブルの上に置く。この間店主から押し付けられた古い手記だ。私達にとって使えない代物だが、グロリーアにとって有用なものだった。というか読めたこと自体、驚きである。


「え。解読出来たんだ」

「ああ。ある程度の知識があったからね。名前が分かればもっと良かったけど」


 手記を改めて見る。年が重なっていることもあり、湿気などでインクがダメになっている。滲み過ぎていて、原型が分からない状態だ。


「あとはそうだね。不明な点を洗いざらい調べてみたわけなんだが。関連性とかは消えてるからね。燃えたりしてるわけだから。そう簡単に出ないのが現実さ」

「歴史あるあるですわね。古いものって燃えて消えますもの」


 そう言いながら、うんうんとカエウダーラは頷く。


「ごほん。ここで疑問が出てくるわけだ」


 グロリーアが強引に話を戻していく。


「そうだろうとか可能性が高いとかで推測しているわけだが、魔術師をしてるからといって、寿命が延びるわけではない。長生きしてる割合は多かったと思うが、それでも身体は周りと変わらないからね」

「なるほど。この日記の年代としてはかなり古いってことっすよね。で。どれぐらい前なんすか」

「ああ。古代文明が滅んだ年に近い」


 質問したソーニャの戸惑いが私に伝わってくる。


「今から約千年前のことだね。寿命を延ばしたところで、まず生きられない年数だと思う」


 グロリーアが更に言っていく。科学と同じく、魔法があったとしても、限界があるものらしい。


「限界があるのはどこも同じということですのね。現実的なのはその魔術師の子孫でしょう」

「カエウダーラ、それは違う」


 意外だった。グロリーアがカエウダーラの考えを否定した。


「あれ。違うんすか」


 私もソーニャも、子孫が維持しているものだと考えていた。彼の考えを聞かなくてはいけない。


「あれだけの高難易度のものだと、子孫でも維持は難しいよ。それに手が離れて四年で徐々に劣化していくんだ。どれだけ優れた古代の魔法でも同じさ」

「でも普通生きられないっすよね」

「その通りさ。だから色々と探してるわけなんだけど」


 グロリーアの声が徐々に小さくなっていく。これで何となく感じ取る事が出来た。


「手がかり、見つかっていないんだね」


 彼は小さく頷いた。


「そうだね。けど君達が懸命に戦ってくれる間に、僕はやれるだけのことをやっておきたい。待ってて欲しい」


 それでも私は彼が真実を追いかけてくれると信じている。真剣な瞳を見て、そう確信した。

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