第42話 グロリーアに報告

 アルムス王国のテレッサ村に戻り、グロリーアの家に行く。そこでグロリーア本人に討伐完了の報告をした。いつも通りにのんびりとダイニングで茶と菓子をいただくというスタイルだが、ただし今回だけは「討伐終わった」という淡々としたものではだめだ。何かが違うことを伝えなければいけない。


「終わったは終わったんだけど……今までと違うんだよね」

「今までと」

「うん。最初はただの直感だったけど」


 それは本当だ。神獣族としての勘だった。


「対面してあれって思ったよ。熊なんだけどさ。耳と尻尾は狐だったんだよね。流石に色は茶色だったけど、形が本当にそうだった」

「こんな感じっすかね」


 ソーニャがサラサラと描いていく。相変わらずリアルに描くと上手い人だ。


「そうそう。そんな感じ」


 絵を見たグロリーアの顔が反応している。眉間に皺が寄っている。あまりよくない奴だろう。


「それと甘ったるい匂いしましたわよね」


 思い出したくもないのか、カエウダーラは苦虫を嚙み潰したような顔になっている。私も同じ気持ちだと、つい声に力を入れてしまう。


「そう! それめっちゃ鼻に来るんだよね!」

「分かりやすく言いますと……あれですわね。同じ空間に嫌いな芳香剤の香りが蔓延して

る奴ですわ」


 かなり的確なものだろう。ただしこの世界で通じるかどうかは別の話である。


「私とソーニャは分かるけど、それ……グロリーアは分からないと思うよ」

「じゃあどう表現すればよろしいですの?」

「それは……」

 

 思わず私は視線を下にする。どう伝えるのか。世界が異なっているための問題がここで浮上してきた。比喩表現はできるだけ避けておき、事実だけを伝えるしかないだろう。


「もう率直に言うよ。不快感があったのは確かだよ。私は元から鼻がいいからってのもあるけど、カエウダーラですら嫌だった。あと何て言うか。作られたって感じのものだった」


 グロリーアの顔が険しくなっているように見える。


「戦闘面では何か感じたことは」

「大したことありませんでしたわね。我慢さえすれば、どうとでもなりましたもの」


 動きがおおざっぱで、封じることが出来れば、あとは私達のペースで行けていた。苦戦というものはなかった。不自然な点はただ一つ。


「そういえば首ちょんぱした時、おかしかったんだよね」

「具体的には」

「熊から狐の頭に変わってた。理由はさっぱりだけど、可能性としてはあれかな。幻覚症状が出てたとか?」


 グロリーアが数枚の紙を見比べている。何か思い当たる節があるのかもしれない。そう感じているのか、私達の視線はグロリーアに集まっていく。


「睨めっこ状態っすね」

「そんで悩み始めてるね」

「どこかに行きましたわね」


 資料らしき紙や本を持っていったり、どこかに戻したり。見比べて、ギュッと目を瞑って考え事をして。その繰り返しだった。


「そう……いうことか」


 グロリーアが納得した。ちょうどいい頃合いだろう。えいやっと彼にデコピンをしておく。


「あで。うわ!?」


 驚かせてしまった。過集中気味だったのか、完全に私達の存在を忘れていたみたいだ。


「結論を教えてくださいませ」

「学のない私でも理解出来る範囲で」


 グロリーアが出したものはどういったものか。今後のためにも出来る限り、理解しておきたい。気を引き締めて、聞いていきたい。

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