第7章 四体目の獣と違和感

第40話 相棒と打ち合わせ

 ちょっとした小遣い稼ぎを何度か行った後、四体目が覚醒しそうだという報せが届いた。アルムス王国より南にある大陸の一国。紛争地域らしいが、滅びの獣のエリア内ということもあり、とても静かだ。転移地点の小屋から出ると、緑色の葉で生い茂っていた。熱帯地域らしく、ムシムシとした暑さがある。


「よくもまあ……皆さん、こういったところに手を出しませんわね」


 カエウダーラが感心してしまう理由は分からなくもない。広大な土地と資源。本来なら偉い奴らなら喉から手が出るほど、欲しくなるはずなのだ。そのはずだが、一度も手を出していない。南のバカンスの時、グロリーアから聞いていたとはいえ、数百年単位で放置していたのは事実だ。人々がいくら遺してきた文でも持たない。実際、頑丈な岩に刻んでも忘れ、海岸付近に家を建てたせいで災害に巻き込まれたケースなんて腐る程ある。彼らの記憶力に拍手したい。


「同感」


 恐らくだが、彼らは本能で避けている。私達と違い、彼らは魔力を持つ。根こそぎ吸い尽くす性質を持っているからこそ、何も出来ずに朽ち果てていく。滅びの獣がいつ生まれたかはさっぱり分からないが、遺伝的にそう……させているのかもしれない。


「狩人のお二方だね。この奥に奴がいる。今の内に移動しながら準備を」

「ありがとう」


 魔術で見張っていたエルフの男に軽く礼を言ったら、彼はすぐにここから離れていった。この判断は正しいだろう。何が起こるかなんて分からない。今までとは違うと感じ取っていたのが大きい。


「それじゃ。簡単に作戦の確認をしておこうか」


 考え込むことは悪いことではない。しかし、私達は狩るために来ているのだ。気持ちを切り替えていく。同時に奴がいる奥へ奥へと進んで行く。


「伝承によると、見た目は熊っぽい奴だね。特性とか見てる限りは。大きさはさっぱりだね」

「それでも今までの獣は家よりも大きいのは間違いないですわね」


 何故か獣とは思えないほどの大きさばかりだったと今更ながら思う。合成獣でもないのにどうやってデカくなる。いや。召喚したが最も正確だろうとグロリーアが言っていたはずだ。最初から殺す気でやったのだろう。


「うん。それでも所詮は獣でしかないよ。弱点とかが」

「ええ。タフだから時間がかかりますけど」


 無敵ではない。弱点というか、隙さえあれば対処が可能だ。特殊な能力ではなく、知恵と技術を駆使して倒す。それが私達のやり方だ。


「爆竹。目潰しスプレー。この二つで隙を作らせようか」


 大きい音は苦手だが、これは仕方のないことだ。私が我慢さえしていればいい。そして目潰しスプレーに関しては、私達が持って来ていたものだ。使う機会はないだろうと思っていたが、まさかこの機会だとは思ってもみなかった。他にも道具はいくつもある。考えてみると、使い道はあるのかもしれない。


「あなたの拳で倒せませんの?」


 ここでカエウダーラが無茶苦茶なことを言いだした。冷静な顔で言われると、戸惑うに決まっている。


「無茶苦茶だね!?」


 獣の大きさにもよるが、私は素手で倒した時もある。師匠が言うには「道具はすぐに用意出来ない。己の身体が最大の武器である」らしい。要するに自分自身が剣となり、槍となれ。そういうことである。とはいえ、いくら何でも相手が悪過ぎる。拳でやるにはキツイ。


「出来そうにないと」

「当たり前だよ! やれてたら最初っからやってるよ!」


 カエウダーラよ。今更ではないか。そういう思いで突っ込みを入れてみた。反応を見てみる限り、納得しているみたいだ。たまに冗談かガチか、分かりづらい時があるので、困りものである。彼女のジョークは。


「それもそうですわね。熊っぽいというお話でしたから、出来るかなと。それで狙撃銃でやりますの?」

「ううん。レーザーでお願い」

「分かりましたわ。それと」

「ちょ!?」


 折り畳み式の長槍を投げ渡される。いきなりはやめて欲しかった。


「あなたも二丁拳銃お持ちですけど、最悪の場合はそれをお使いになってくださいな」

「あー……ありがとう。大事に使うよ」


 威圧が怖い。壊れてもいいから使えという圧を感じる。そういえばと私は筒が太く短い銃を取り出す。事前に受け取ったものだ。ソーニャが作ったねばねばしたものが噴出するもので、力で対処が出来るほど甘いものではない。


「あ。そうだ。これも持ってて」

「ソーニャが作ったものですわね。分かりましたわ」


 カエウダーラに渡す。今回は私が前衛、カエウダーラが後衛と務める形だ。四体目の討伐。何かが違う狩りになるだろう。苦戦する可能性もあり得るだろう。

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