第39話 古代の手記

大魔術師の×××と酒で呑んだことがある。奴は優秀で王に仕えるぐらいだ。たまたま相席になった。他愛もない話だったが、彼は酒に弱かったのだろう。頬を赤くし、目がとろんとして、あと少しで寝るのではと思う。


あれは本音だった。小さい声ながらも。


私は許さない。許さない。許さない。

魔力が少ない者を迫害することを許さない。

不平等であることを許さない。

差別することを許さない。


弱い人を助けたい。そういった思いから出てきたものだと当時は思っていた。

民を愛しているからこそ、発露してきたものだと感じていた。


優しい人ならば、きっと浮かぶものだった。かの有名な聖人アリステローゼも書物で嘆いていたし、施しをなさっていたことを知っている。彼も同じようなもの。そう信じていた。


しかし今思うとそれは違うものだった。あまりにも強い思いが捻じ曲げてしまったのだろうか。やってはいけないと理解をしていながら、やっていたことなのだろうか。


強力な魔術を使える者達が獣に喰われてしまった。その報告を受けた後、私は家族を連れて、王都の外にある村の小屋に避難した。行動が正しかったのか。或いは幸運だったのか。生き残ることが出来た。


村で過ごしてから時が経ち、私だけで王都へ向かった。悲惨だった。築かれていた壁が崩れていた。家の跡形がなかった。人々が引き裂かれたり、身体の一部がなくなっていたり、臓器が出ていたりと、見るだけで吐きそうになる光景もあった。


個人的な付き合いがあった別の大魔術師の家があるところまで行ってみた。建物が崩れていたので、瓦礫をどかせてみた。潰れているだけならまだ良かった。搾り取られたように身体が小枝のように細い。色が黒くなっている。


音がする。私は振り返る。見覚えのあるものだった。酒を交わし合った大魔術師×××だった。問いかけた。何が起きたのだと。×××が答える。全てを変えるにはこれしかなかったのだと。必要な犠牲だったと。

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