第38話 魔力の価値観とは

 店の男が言うには、数年前に私達が今いる国は隣国と戦争したことがあるらしい。勝者となったため、自分達が有利になるように色々と要求したと言う。その中の一つとして、人員を寄越すことだった。所謂戦争捕虜という奴だろう。この辺りは不自然な点が見当たらない。正直私達の世界にもあったことだからだ。


「今のところは一般的なものですわよね」

「この辺りはな」


 ここの世界でも大した差はなかった。


「続きだ。膨大な人数だったということもあってな。奴隷を扱う商売人が生まれたんだ」


 男は困ったように頭を乱暴にかく。


「こっからが問題だな。自分の方が魔力あるから。威張れるから。そんな理由でなる奴が多くてな。それだけじゃねえ。魔力量で価値観が変わるって考えが多いのもあったな」

「魔術師は魔力量とかが大事だとお聞きしましたわよ?」

「否定はしねえ。強力なもの。広範囲のもの。こういった類は膨大な魔力を前提としている。だが一般の生活だと使わねえ。そもそも魔法を使う機会なんてねえわけだしな。初歩的なものだけで十分さ」


 そうかもしれない。火を起こす。怪我をある程度治す。生活する分にはこれだけで十分だろう。全てを魔法で補うとなると、必要となる魔力量は相当なものになることぐらい、私にも理解していた。


「今よりももっと昔は魔力の量を重点的に置いてたらしいぜ。古代なんてもっとだってよ。そういりゃ親戚から難しいものをくれてたな。ちょっと待てよ」


 男がどこかに行く。さきほど「押し付けする気ですか。困ってたらどうするんですか」という部下らしい人の声が聞こえた……気がした。階段をのぼる音。何かを取りにいったことは分かっていたが、どういったものなのだろうか。


「あの」


 小さい男の子から声をかけられた。不安だということぐらい、表情を見て分かる。どうするつもりか。そう訴えているように見える。なので私は安心させるように言ってみる。


「大丈夫だよ。おじさんが何か持って来てるだけ」


 階段から降りてくる足音。何故か私達を気の毒がっているような部下の声。本当にあの人は何をするつもりなのだろうか。


「おーい。ただいま。これを持ってきた。読んでもよう分からんからあげるぜ」


 物凄く雑な理由で手記みたいなものをくれた。それを私達にあげたところで、役に立つ保証は一切ないにも関わらず。よほど面倒なものだと感じていたのだろう。


「押し付けですわねこれ」


 カエウダーラの文句に男は豪快に笑う。


「はっはっは。どうとでも言え。俺の頭じゃ限界だ。そもそも使い物にならん。それなら他人にくれてやった方が遥かにマシということだ。大昔なんてよう分からん」


 大昔。どれぐらい前になるかは不明だが、ひょっとすると。そう思って、私は彼に質問する。


「どれぐらい前なの」

「分かんねえ。けど遥か昔ってのは分かるぜ。なんつーか。彼奴が言うには神様が云々とか。滅びの獣と同じ時期だとか。そういりゃ噂で獣が目覚めたとかって聞いたな」


 ペラペラと手記を捲る。五つの大陸。七つの印は私達のターゲットである滅びの獣だろう。この辺りに関しては、グロリーアが見つけたものと重なっている。


「ただの趣味だとかで暇を見つけては探った奴だ。価値があるとも限らねえぜ? それとコイツもいらねえからあげるぜ」


 更に押し付けやがった。薄茶色の冊子。経過したことによる劣化が進んでいるように思える。黒い線が繋がっているように感じる不思議な文字。知識がないため、読むことが出来ない。思わず小さい男の子に視線を送ってしまったが、当たり前のように拒否されてしまった。当たり前だが、可愛くブンブンと頭を振っている。


「ごめ。なさい」

「あ。気にしないで」


 叩かれると思ったのだろう。男の子が怯えている。


「心配いらねえよ。お前を助けたのはこの二人だからな」


 店の男が男の子の頭を撫でる。手慣れている。既に子持ちなのかもしれない。あるいは離れた弟達を世話した経験があるのか。


「ところで二人はこの後どうするんだ。普段は」

「アルムスに戻るつもりだけど」

「ついでに言いますと、死と隣り合わせの依頼を引き受けることの方が多いですので、面倒は見れませんわね。助けておいてあれですけど」


 こういう時はカエウダーラがはっきりと言ってくれる。私としても助かる。しかしここで問題発生だ。助けたのはいいが、この小さい男の子をどうしようか。後先まで考えることを忘れてしまった自分が悪いのだが。


「なるほどな。分かった。坊主。俺の従業員として働いてくれねえか。飯と住居、これぐらいの確保は出来る。どうだ。来るか」


 あっさりと解決した。店の人に感謝を伝えてから、私達は店から出ていった。とりあえずこの押し付けられたものをグロリーアに預けよう。どんどん押し付けているが、仕方のないことだ。これは。

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