第23話 獣と魔力の関係性

 野外でのご飯は手早く。というわけで調理開始である。こういう時は家庭と違い、お上品にやる必要がなく、雑で問題無し。だいぶお気楽である。屋根布の下で根菜を包丁で切って、煮込んでスープにする。肉は薄く切って、フライパンで焼いていく。そこまで時間はかからない。三十分程度で済む。


「あっつ」


 皿に盛ったり、調理台を囲うように椅子を設置したりした後、夕食をいただく。長期保存用の堅いパンをスープに浸して、食べていく形だ。


「気になってたんだけどさ。討伐対象は八体の獣なんだよね」


 片手で焼いた肉を口に入れながら、グロリーアの依頼要請と資料の紙を膝の上に置く。ターゲットとなる獣達を狩る時が来た。ここで疑問を解消しておきたい。


「世界を滅ぼすかもしれないっていう、私達狩人のターゲットのキメラより遥かにタチが悪いって言う奴の。でもさ。七体しか詳しいの載ってないのは何で? 八体目いないんじゃないの?」


 「おとぎ話のレベルの資料ばかりなのか。偉い抽象的だな」という感想ばかりの中で、おかしいと思う点だった。グロリーアは痛いとこ突かれたと言わんばかりの表情をする。目線が合っていないのも良い証拠だ。


「そのまだ確証がなくって」

「今更ですわよ。曖昧な記述ばかりを載せてる時点で」


 ……本当にカエウダーラは容赦ない。


「仕方ないだろ。資料を引用したらこうなるんだから」


 グロリーアは用意した茶を一気飲みする。自棄になっている気がしなくもない。


「ああもう分かったよ。話すよ。八体目は確かにいるんだよ。肉体らしき場所の把握も出来ている。けどもぬけの殻だ。魂がないんだよ。これで君たちが信じるかい?」


 魂と肉体。確かに私達にとって、確証のないものだ。何故私達は思考する。死後はどこに行く。これはもう哲学の領域で、科学ですらまだ証明が出来ていない。完全に世界のルールが異なっているからこそ、意見がぶつかる奴だろう。どう答えたらよいのだろうか。普通は悶々と悩むものだが、グロリーアは反応を気にせずに言い続ける。


「それにだ。八体目に関する文献が見つかっていないんだ。魔力の波長からして、七体と同じなんだけどね。この辺りは調査が必要だから待って欲しい。とりあえず八体目の話はここでお終いだ。今一番厄介なものを話題として出そうか」


 確かに八体目に関しては真っ白なままだった。あれは本当にそれらしきものを見つけていないみたいだ。流石にずっとこれを話すわけにはいかない。私達は一体目を狩るために来ているのだ。だからこそ、すぐに切り替える。


「ここは獅子がいる。かなりデカいってのもヤバいし、炎を口から出せるんだよね」


 科学者が生み出した合成獣のキメラより厄介だろう。そもそも魔獣自体が面倒なものばかりだった。動物の遺伝子を組み合わせて凶暴化した方がまだ可愛らしいと思える日が来るとは……予想外である。


「すぐに接近戦は危険となると……遠くから撃って能力を見るしかないよね」


 皮の厚さが不明で、特殊な守りがある可能性も否定できないので、遠くから確認しておきたい。カエウダーラも似た考えなのか、縦に頷いている。


「ですわね。魔法弾と。あとはレーザー銃も」


 レーザー銃。弾ではなく電力を使うもので、次弾装填という概念がない。最初は軍事行動の補助程度だったが、覇権国家の争いの時には物を破壊するレベルに至ってしまったヤバイ代物だ。合成獣を倒す手段の一つになってしまっているので、何とも言えない部分もあるが。


「うん。そっちの使用も考えとか」


 しまった。グロリーアとタファが置いてけぼりになっていた。


「レーザーというのは」


 さあて。どうしようか。科学という考えではなく、魔法という考えで世界の研究をしている者達だ。頭を捻ってどうにか説明をしてみるしかない。


「簡単に言うと、光を集めて撃つ兵器だね。音がないし、匂いがない。人を確実に殺せるし、分厚い物を破壊することだって出来る」


 グロリーアとタファがごそごそやり始めてると思ったら、実験の準備を始めていた。食事中だというのに、子供のように土で山を作る。完成したら、タファが細い銅板を頂上に刺す。


「つまりはこういうことだね」


 小さい魔法陣が複数重なっている。光が増幅し、集束して、光の線が放った。小さいがレーザーだ。当たった銅板に小さい穴。見た目の割に火力がえぐかった。


「無属性。いや。今だと光属性になるのかな。魔法名はブラスター。僕より世代が上の魔術師が編み出した。流石に実用性が乏しいから積極的には使わないんだけど、君たちの場合はかなりの破壊力を持つみたいだね。というか何でジョニー君に見せなかった?」


 初めてグロリーアが怖いと感じた。目が笑っていない。


「しょうがないですわよ。レーザー銃の構造がだいぶ特殊過ぎですもの」


 カエウダーラがレーザー銃を鞄から出した。見た目は狙撃銃と似ている。しかし巨大な昆虫を元にしているのか、緑色の軽い素材で出来ている。電池のカートリッジを抜いているので、うっかり発射するような事故は起きない。


「あー確かにこれはうん」


 ひと通り見たグロリーアは納得してくれた。ずっとレーザーのことばかり話していた感覚になっていたので、話を元に戻しておく。


「あとは狙撃銃も使う形だよ」

「どれが一番効くかで変わりますわね。援助等もある形となると」


 遠距離以外、何も共通点がないのでこうなってしまう。更に最悪ケースを想定した話になってくる。自分で考えたことを口に出す。


「最悪ケースとしては何があるんだろ。私達としちゃ銃弾が通じないになるけど、術師の加護が効かないとか?」

「君たちの立場ならそうなるだろうね。僕達術師からしたら、大量の魔力を喰うことが最悪なパターンだ。神々が魔力を持たない眷属の子孫に頼むところに引っ掛かってね」


 グロリーアが真剣な顔で言った。魔力を喰うとはどういうことなのだろう。


「魔力を喰うってどういう意味」

「ああ。言葉通りさ。魔力を吸収して、自分の糧とするんだ。いるにはいるよ。小さい魔獣は大気の魔力を吸収してるわけだし。だがあれはどこまで喰っていくのかが疑問だ」

「魔力はどこにでもあるって感じですわね。もう少し教えてくださる?」

「分かった」


 カエウダーラの要望でちょっとした講義が始まった。今更だが魔力というものを知るのだ。


「魔力はどこにでもある。空気。水。大地。火。これらを私達の世界ではマナと呼んでいる。地域によって濃さはあれど、余程の事がない限りは増減しない。魔法を使う時もマナを消費してるけど、微々たるものですぐに数値戻るし」


 便利なものだと思う。滅多に増えたり減ったりしないというものは科学者からしたら、涎が出るのではないか?


「そしてだ。私達が持つ魔力、オド。これは体内から製造されるもので……解明されていない所の方が多いかな。オドを奪うという前例はあるし、大魔術師の家系が滅んだことも考えると……今回はこっちのパターンだろう。さて。明日に備えて、もう寝ようか」


 食事が終わり、私達はテントの寝袋に入る。正直今からというか到着した時点で撃つべきだと考えていた。しかし資料の方では眠っている間、実体を持たないらしく、物理攻撃も魔法攻撃も効かないと書かれていた。そして奴らの死は核となる石を砕く必要がある。こんなのありかと思ってしまうが、これが私達のターゲットなのだ。

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