第22話 本格的な依頼遂行開始

 銃のメンテナンスを終えた二日後にはアルムス王国から出る羽目になった。グロリーアの協力者から「ある獣の目覚めが近い」という報告を受けたためだ。私達は最悪の最短三十日を目安に動いていたとはいえ、これは完全に予想外だった。いくら何でも早すぎる。


 その獣がいる国はアルムスがある大陸の最南端、ジャングルだらけのエコード・ラ・フォードである。グロリーアの転移魔法で短縮しまくったので、一日足らずで最南端の国に到着した。本来は術師の彼を休ませないといけないのだが、何せ時間が迫っているため、休みなしである。


「相変わらず蒸し暑い!」


 そのお陰で叫ぶグロリーアがリタイアしそうだ。無理もない。長い蔦。木々。生い茂っている草。これらはまだいい。問題は夕暮れになったにも関わらず、この暑さと湿気だ。むわむわした感じは誰だって嫌なものだ。


「まあまあここはそういうとこなのさ。おひさー」


 上の方から声がすると思い、見上げてみる。木の枝に動物パーカーのエルフの男の子がいた。暑い地域なのか、上着のパーカー服の裾が短く、へそが見える。ズボンも短めだし、素足だ。


「僕はタファ。これでもグロリーアより年上のエルフさ」


 シュタッと華麗に降りて、自己紹介をしてくれた。幼い少年の容姿だが、グロリーアよりも年上らしい。正直信じたくない。


「あ。信じてないでしょ」


 驚いたことに気に入らなかったのか、タファは頬を膨らませて不機嫌な感じを示す。その辺りが余計に子供っぽく見えると思う。


「そりゃ誰だって間違えるさ。アンチエイジングの効果だろ。だいぶ違ってたからね。うん。年上に見えるぐらい老けてたというか」


 グロリーアの台詞からして、若返る何かを施した結果なのだろう。というかいくら何でも効果出過ぎだ。


「昔の話は勘弁してくれ。さて。雑談はここまでにしておいて」


 切り替えたタファは私達をまっすぐ見る。


「神獣族とアプカル族の末裔。ようこそ。キャンプ地へ案内するよ」


 タファの案内でキャンプ地へ到着。水場がある良い場所だった。水場の近くに緑色のテントが四つ。布と木の棒で作った屋根布の下に調理場。確かにここで寝泊まりして、活動を行っていることが分かる。


「こっちに入って入って」


 四つのテントの内の一つに入る。頭が痛くなるものだった。テーブルに置かれている透明の小石から何かが浮かび上がっている。辿ってみるとオレンジ色の数の変化やグラフなどが宙に浮いていた。私の苦手なものばかりだ。一方でグロリーアはヘトヘトモードから仕事モードに切り替えている。恐ろしい。


「反応がどんどん高くなってるね。というか僕が来た時は二分の一ぐらいの数値じゃなかったかい?」


 すぐに分かる辺り、グロリーアの頭は疲れていても回るみたいだ。


「それねー。最近グングン上がっちゃってさ。だから君たちを呼んだわけなんだけど」


 術者同士で勝手に話を進めないで欲しい。状況を一から説明して欲しい。私は言葉にする。


「ちょっとたんま」

「ウォル、ここは私にお任せを」


 データに強いカエウダーラが出てくれる。これはありがたいので、素直に承諾しよう。


「分かった。任せた」

「このグラフやあなた達の反応を見る限り、予想通りの数値の上がり方というわけではないという解釈でよろしいのかしら?」


 おっと。グロリーアが信じられないという顔になった。


「なんで魔術師じゃなくて戦闘狂なのにこういうの強いわけ?」


 ほとんどの人はグロリーアと似たような反応をする。戦闘狂ではあるが、カエウダーラは数学分野に長けているのだ。データ分析だって出来る。戦闘となると集中できるわけではない。視野が広いわけではない。この二つが理由で戦闘時、指揮等は他の者に任せている。


「こういうのが得意なんだよ。戦闘狂でインパクト持ってかれるけども」


 本当は軽くカエウダーラのことを話しておきたい。しかし話の本筋がずれてしまうので、ここでは控えておく。


「それで。カエウダーラの解釈は合ってるんだよね」

「合ってるよ。僕達が予想してたのは……ちょっと分かりづらいから色付けるけど、この青い線は予想してた奴。その上というか、異常な上がりっぷりが捉えたものだよ」


 タファの人差し指が指揮者のように動き、グラフにある下のオレンジ色の線が青い線へと変わる。こうやって説明を聞いて、グラフを見てみると確かに異常だ。途中から予想より上がり方が違う。今の線がペースを変えずに上がっていったら、右の角をぶっちぎることが分かる。


「このままだと三日。いえ。もっと早めていったら明日の昼ですわね」


 カエウダーラの予測は正直嘘だろと思いたい。しかし可能性が高いことを私でさえ理解していた。タファが静かに笑う。


「やっぱそう思う? だから君たちを呼んだのさ」


 いつだって現実の展開は予想を裏切る。シルバーランクを早めに取っておいて正解だったと感じる。


「さて。君達のターゲットである獣について、食べながら語るとしよう。お腹が空いては戦えないしね」


 グロリーアがウインクして提案した。のんびりしている暇はない。しかし食べたり、休んだりすることも大事だ。狩人は身体も大事な資本なのだから。

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