第3章 王都散策、ガンスミス

第16話 王都到着

 シルバーランクを獲得し、ディナーと楽しんだ翌日。私達はアルムス王国の中枢とも言える王都アルムスフに到着した。本来は馬車と汽車を用いての移動で、五日ほどかかるらしい。しかしグロリーアは空間転移を長距離でも出来るらしく、数秒で着いてしまったのだ。今のところ実感がない。橙色の土で出来た壁と本棚の部屋で外の様子が見えないためだ。


「王都到着だよ。ああ。向かいの部屋からなら外見れるよ」


 というわけで私達は別の部屋に移動し、木窓を開ける。風が入って来る。顔を出してみると、二階から眺めている形であることが分かる。


「これが王都」


 建物がたくさん並んでいる。土や木で出来たもの。エルフェンの古い時代にあったものと似ている。一方で高い建物が見当たらない。城っぽいところのみだし、それでもアールヴヘイムのタワーより小さい。あれは山と同じぐらいの高さまであったものだから、比べるのもどうかと思っているが。


「おーい。ガンスミスがいるところに案内するよ。付いて来て」


 そうだった。私達は仕事で来ているだけだった。そう思いながら、グロリーアに付いて行く。朝の時間帯でも早い。だからか物凄く静かだ。小道。大通り。曲がって。くねくねして。古い時代の都の道は複雑になりやすい。これも典型的なものだろう。案内人がいなかったら、確実に迷子になっていた。


「ここだ。ガンスミスの中でも腕が立つ」


 テレッサ村の武器屋にも魔法銃やマスケットがあった。知り合いから譲り受けて、商品として出していただけに過ぎない。というのがグロリーアの言葉である。確かにメンテナンスすらも断っていた。ただ技術が違うからというわけではなく、元から専門が異なっていたからだろう。この世界のガンスミス、どういうものなのだろうか。


 看板すらない。白くて細い建物の三階建て。グロリーアがノックした。呼び鈴すらないからだ。さて。どういう人が出てくる。そう思って前方を注意していたわけなのだが……分単位で過ぎている気がする。出る気配がない。


「ねえ。出る感じ一切ないんだけど」

「奇遇ですわね。私も」


 カエウダーラもこれだ。というわけでこうである。具体的に言うと刃物で脅す。


「なんで物騒な手段を取るわけ!?」


 グロリーアはひぃと悲鳴をあげる。朝なので声は控えめである。


「だって出ないし」

「予約したから応じると思うんだけどな。あー……またいつものあれか。参った。しょうがない。あれをやろう」


 細い針二本が光る。グロリーアが袖をまいている辺り、気合十分である。やりたいことは分かった。犯罪行為だろう。それは。


「これ……見回りの騎士に見られたらお終いだよね」

「そうですわね」


 人が全くいないので、鍵開け行為がバレバレだ。もしも見回りがいたら、速攻で逮捕されてしまうだろう。


「よーし」


 開けてしまった。グロリーアは特に気にせずに侵入している。仕方ないので私達も中に入る。飾り気のない部屋だ。壁にマスケットや魔法銃が飾っている。


「おーい。ジョニー君」


 グロリーアがどこかに行く。階段を上る足の音から、上の階に行っている。


「あれ。何でグロリーアが。あ。やっべ」


 男の声。誰かは分からないが、ガンスミス本人だろう。というか素で忘れていやがった。


「ウォル。様子は」

「多分ガンスミス本人、私達が来ることを忘れてた」

「それはそれでどうなんです?」

「同感だよ」


 もう少し様子を耳で伺う。


「とりあえず君臭いし、水浴びしてきたらどうだい。あと服も変えてくれ」

「はーい」


 グロリーアがまともなことを指摘した。ジョニーとやらは素直に受け入れている。下る足の音。グロリーアが一階に戻って来た。


「暫く時間がかかるだろうし、周辺散策して来たらどうだい。匂いがきついし、顔向けできない状態でさ」


 どれだけ酷い状態なのだろうか。準備がかかるとか余程のことがない限り、ないことだと思う。


「どんだけヤバイの」

「結構ヤバイよ。来ると伝えた時はまだ大丈夫だったみたいだけど、最近発注が凄く来たとかで引き籠ってたみたいだ。人前で出ないとなると、彼奴水浴びとか忘れるからね。だから結構臭い。神獣族である君なら気絶ものさ」


 だいぶ酷かった。エルフのグロリーアがキツイと判断した時点で、鼻が利く私はもっとキツイだろう。それに人前気にせずとなると……互いにやりづらいはずだ。


「分かった。一時間あればいける?」

「助かるよ」


 そんなわけで私とカエウダーラは王都散策に出向くことになった。観光スポットとかは分からないが、適当にブラブラするだけの散策だ。仕事道具である銃は必要のないものだろう。軽いものだけで十分だ。


「それじゃ行ってきまーす」


 私達にとって古い時代の産物みたいな王都に何があるのだろうか。そう思いながら、歩き始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る