第15話 審査の結果

 討伐完了という報告をし、バートランド・ペイリャルから報酬をたんまりと受け取った。金貨12枚。冒険者でも基本見かけない金貨を初めて貰った。ずっしりと重い。


「金を寄越せごらあ!」


 さあてグロリーアの家に戻ろうかと思った矢先、チンピラみたいなやつらに襲われた。ペイリャル家の敷地前だったので、メイドのロゼッタちゃんが対応。


「あべふ」


 穏やかなやり取りではなく、殴りで解決していた。顔を主に殴っていたからか、腫れで酷いことになっている。


「たまに金目当てで来る強盗いるからな。たく。あ。お二人さんはギルド来てください」


 引き取りに来た駐在の騎士の台詞で察した。シルバーランクへの昇格に関することだと。すぐに冒険者ギルドに向かって、受付のところに行く。


「おめでとうございます! 審査を突破して、シルバーランクに昇格です!」


 事務員の祝福の言葉と共に「ぱんぱかぱーん」という意味の分からない音。一つの段階へ進められた喜びと正体不明の音による困惑。中々カオスである。主犯は分かっている。せいっと拳で頭を叩く。


「あいた。よく分かったね」


 痛そうなフリをしない、しゃがみ込んでいるダスティン。此奴が主犯だ。多分というか、絶対魔法を使ったよなと思う。


「ダスティンさん?」


 事務員の笑顔が怖い。怒りが混ざっている。それを見たダスティンは静かに退散した。


「ごほん。それでは説明を始めましょうか」


 咳払いをして誤魔化しやがった。


「シルバーランクというのは他国への移動を手短にするために作られたものです。実力も大事ですが、他者との連携が可能かどうか。国際問題を起こさないか。この辺りを基準に判断していきます。なのでアルムス王国の冒険者の代表であることを自覚してください」


 冒険者は遺跡探索等、国家機密に関わる仕事を請け負うこともあるという話だ。その辺りも関連しているのだろう。


「その分、シルバーランクになると、このようなものが受けられますよ」


 受けられるメリットが書かれた紙を受け取る。少しずつ読めるようになってきたが、読む速さはだいぶゆっくりめである。グロリーアが開発した眼鏡を使用する。


「おお」


宿が安くなるのは良いことだ。それに武器のメンテナンスの費用が軽減されるのも大きい。


「こちらのシルバーランクの証明を提示することで利用できます。積極的に活用しちゃってください!」


 銀色のカードを受け取る。カードの蔵と化した財布に入れておけば大丈夫だろう。


「よお。シルバーランク取れたんだって?」


 後ろから力強い女性の声。キャサリンだ。


「お。キャサリン」

「おう。せっかくだし、ぱーっとやろうかと思ってな」


 ぱーっとやる。つまりは宴会を行おうぜ。そういうことだ。しかしテレッサ村に武器屋や服屋など生活や仕事に必要なものを取り扱う店があっても、飲食店のような娯楽系の類がなかったはずだ。やれる場所なんてないと思う。


「いやでも宴会やれる店なんてなかったと思うけど」

「まあ王都じゃないからな。だが絶好の場所をギルドが持ってるじゃねえか。最悪ペイリャル家の坊ちゃまに頼み込めばいい話だしよ」


 ギルド所有の土地を借りての宴会はありだろう。訓練などで使う人が多いので納得がいく。だが貴族のバートランド・ペイリャルに頼み込んで良いのだろうか。


「あの……貴族に頼むってやっていいんですか?」


 そう突っ込んでみたら、何故か事務員が代わりに答える。


「普通はしません。ただそのまあ……バートランド様が幼い時に色々と世話した方なので」


 意外な経歴である。お偉い人の子供の世話は大体決まったシッターを雇う。この世界もそういうパターンが多い。だから知っている人が世話をしたなんて想像もしなかったのだ。


「随分昔の話さ。けど、そういうことで、私は坊ちゃまに対して強く出れるってわけだ。大体使ってない土地もあるから、坊ちゃま自身気にしちゃいないけどな」

「へー?」

「とりあえず私が頼み込むから待っとけ。許可貰ったら、グロリーアのとこに行くからよ」


 珍しい人だと思いながら、この時は素直にグロリーアの家に戻って行った。報告をしないといけないので。そして夕方前に上機嫌なキャサリンがやって来て、許可を貰ったぜということで……ペイリャル家が持つ敷地に移動である。


「ここだよ」


 キャサリンの案内で着いた所は花畑だった。ピンク色。紫色。黄色。見た者を楽しませるものである。その奥に白いパラソルとテーブルがある。そこにメイドのロゼッタがいる。


「ウォルファ様。カエウダーラ様。シルバーランク昇格おめでとうございます」


 ご丁寧に挨拶してくれた。雰囲気がだいぶ上品だし、静かな感じだ。酒を呑んで騒ぐような類ではないだろう。


「たまにはこういうのもいいだろ。こっちの方が美味しい物を堪能できるからな」


 キャサリンが楽しそうに笑う。それもそうだと同意して、私達は静かなディナーを頂いたのだった。

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