第14話 特異変種の魚の討伐

 早朝。薄い雲に覆われているのでやや暗めだ。雨特有の匂いが感じないので、降ることはないだろう。誰も出歩かない時間帯に私達は村の東側にある湖に行く。漁と養殖がおこなわれているため、木で作った拠点がいくつもある。のんびりとした田舎風景と言った感じか。


「それじゃ、行ってきますわ」

「ちょ!?」


 小船の乗り場で槍を持ったカエウダーラが入水した。派手に水飛沫をあげないで欲しかった。髪の毛が濡れたではないか。グロリーアの方がもっと濡れているが気にしない。


「ねえ本当に大丈夫かい? 彼女一人に任せて」


 グロリーアは原理不明の魔法で自分自身を乾かしながら聞いてきた。私は魔法銃を鞄から取り出しながら、返答していく。


「昨日言ってたでしょ? 水中で自由に動けるって」


 伝承とかおとぎ話とかあっても、実際に単独行動となると心配になるのだろう。慣れている身としては大丈夫だろうと思っている。元々水中に関するキメラの討伐はアプカル族が主にやっていることだ。どれだけ科学技術が上がったとしても、コスト面を考えると直接アプカル族がやった方が安い。水中で呼吸が出来て、自由に動けるという特性が強すぎるのだ。


「だからこういうのはカエウダーラに任せちゃった方がいい」

「そう言っている割に銃の用意しちゃってるけど?」


 痛い所を突いてきた。


「念のためだよ。飛ぶ奴だっているから」


 本当のことだ。水面からジャンプする類だっている。その可能性を捨てないで、私はこうして銃を握っている。


「なるほどね。正直急ぎでやったことだから、君たちの世界を知っているわけじゃないけど、面倒なものがいるのはどこも同じってことが分かったよ」

「そういえば狩人だけ知ってる感じだったもんね」


 私は元々依頼の手続きをするつもりだったことを思い出す。グロリーアも思い出しているのか、苦笑いをしている。


「子孫の何人かがそっち就いてる程度だけどね。かなり有名な職種だったから、労力を使わずに知ることが出来たよ。聞かずに出来たぐらいだしね。ただ……その……うん」


 徐々に声が弱くなっていく。この機会だ。バシッと言っておくべきだろう。


「神様という上司に急かされてだっけ。いくら何でももうちょっと主張しようよ」

「あのね。神様はシャレにならないんだよ。大昔なんて世界の仕組みを気分で変える奴ゴロゴロいたんだよ!? ムリだって。もし逆らったらクビどころじゃない。処刑よりも酷いかもしれない」


 逆効果だった。寧ろ悪化している節がある。グロリーアの体全体が震えており、声まで影響が出ている。どこの独裁者だと突っ込みたいが、この世界だと神様がマジでいるみたいで、物語並みにシャレにならない奴がいるのだろう。


「ふーん」


 興味ない反応がうっかり態度に出てしまった。自称神様が出てこないのが悪いのだ。


「反応うっすい!」


 グロリーアにとってショックだったみたいだ。


「ごめん。だって会ったことないから」


 神様とやらが私達の前に現れないのが悪い。昔の時代なら信じられていたようだが、自然現象を説明することが出来る時代になってしまっている。天の神はいない。戦乙女がいない。何故なら地上の民の危機に駆けつけて来なかったからだ。そういう言葉を聞いたことがある。多分どこか違っているかもしれないが、どちらにせよ、私達は神様というものを信じちゃいないのだ。


「でもこういうのって私だけじゃないんだよね」

「というと」

「ほとんどが神様なんてものは存在しないと思ってるよ」


 そう言ったら、グロリーアは少し悲しそうな顔になった。もう少し別の言い方をすればよかったと後悔した。ここは色んな神様を信仰していて、平和に暮らしているところだ。どれだけ神様とやらに翻弄されても、似たようなものなのだろう。


「申し訳ないって思ってるだろ」


 バレていた。


「だってその反応してたからねー……え?」


 上がってくる水の流れの音が耳に届く。勢いがとんでもない。小さめなので私達がいるところより遠いことが分かる。何かが来ると確信し、マスケットみたいな魔法銃を座ったまま構える。グロリーアが戸惑っているが、無視である。


「なんで……撃つ体勢になって」


 グロリーアが最後まで言う事が出来なかった。派手な水柱が出来て、驚いてしまったからだ。水柱の上にいるのは昨夜見た絵の魚だ。出血しているが、カエウダーラが傷を付けたものだろう。だがまだ生きている。一般的な魚と大きく異なっていることが分かる。


「特異変種なだけあるね。硬い。でもまあ」


 カエウダーラの槍はあくまで対人戦用でしかない。高価格の物なら貫通ぐらい出来るが、メンテナンスで報酬があっという間になくなるから、普通の物を使っているらしい。トドメを刺す時は銃弾を使う派だ。水上に立ったカエウダーラはいつも通り右手で引き金を引く。


「うちらの銃弾に貫かれるけど」


 雪の飾りを付けている小型の拳銃スカディスノウ12。そして最も高火力であるオンドル41弾。分厚い鉄板を貫通させたと言われるぐらいヤバイものだ。実験レポートよりも更に薄い特異変種の魚だとどうなるかというと……言うまでもない。


「魔法銃を使わなくてもこれって……君たちの世界の技術こっわー」


 グロリーアがドン引くぐらい、硬かった特異変種の魚を貫通。臓器に当たったのか、出血量がえぐい。普通に血を浴びちゃったのか、カエウダーラが真っ赤になっている。テレッサ村に戻る前に落とさないと、小さい子が泣く。カエウダーラがお嬢様らしく笑うから余計に怖さが増し、タチが悪くなるのも問題か。


「お疲れ、我が相棒。報告前に流そうか。あと服も変えよう」


 とりあえず依頼達成したことを素直に喜ぼう。

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