第13話 取り押さえた後は

 周りを気にしない主催者に呆れながらぼーっとしていたら、ほんの少しの違和感を目で捉えた。人の胴体だけだった。しかしこれは数秒足らずの現象である。これに気付けた奴は一人もいない。それでも十分だ。殺気を放っている元がそこだと分かっただけでも収穫である。


「待ちなさい」


 あとは直感でどうとでもなる。適当に当てて、手首っぽいところを無造作に掴む。振動で冷静さを失っていることが分かる。


「な」


 それがきっかけかは不明だが、全体を見ることが出来るようになっていた。周りも見ることが出来るようになったようで、騒がしくなっている。


「えーっと。どうしよ」


 ボロボロの布を頭に被せた少女こそ犯人のようだ。未遂だから犯人と言って良いか不明だが、そういうものは警察の連中に任せればいい。ただ肝心の人達がいない。彼女をどうしようか。


「何で?」

「何でって言われても」


 掴んだ方に短剣があった。運が良かった。さて。どう答えよう。一瞬感じたことを言えばいいのだが、恐らく私だけしか見えていなかった。嘘付け呼ばわりされそうで、それはそれで面倒なのだ。


「多分、彼女自身が変だと感じ取ったからだよ」


 グロリーアが静かに言った。まるで変だと最初から分かっていたように。


「僕も変だと思って、ちょっと仕掛けてみたけど」


 本当に分かっていて、何かをやったみたいだ。


「どうやらビンゴだったね」


 その微笑みで短剣を持つ少女は怯える。いや。理解できていないからこそ、怖く感じているのかもしれない。


「アンチマジックなんて使った感じしない。何したの!」


 だからか分からないが、少女は悲鳴に近い声をあげた。


「いやあの。そんな怖いことをしたつもりないんだよ。うん。ちょっと魔法を弄っただけだから」


 反応を見てショックを受けたのか、グロリーアはワタワタと答えた。シリアス気味だった雰囲気をぶち壊してしまうのか。普通にないだろう。真っ当な行動をとりそうな奴らがいなさそうなので、私から聞くしかないだろう。


「とりあえず主催者を殺しに来た理由は?」


 答える保証がない。それでもやっておくべきだ。そういうわけで質問してみたが、やはり少女は答える気がないみたいだ。


「駐在する騎士を呼びました」


 殺人未遂ということで、ロゼッタが騎士を呼んだらしい。あとは渡せばいいわけだが。


「こんの!」


 そう簡単にはいかないみたいだ。ぶんぶん振ってどうにか解こうとしている。短剣を手放した方が楽なのにということは……こちらが不利になるので敢えて言わない。


「ごめんあそばせ」


 暫くこのままかと思いきや、少女が急に倒れた。後ろにはカエウダーラ。手刀で気絶させた奴だろう。


「縛っておこっか。起きたら面倒だし」

「ですわね」


 執事が縄を持ってきてくれて、少女を縛ってくれた。その数分後に騎士が駆けつけていた。ひとまず形としては解決と言っていいだろう。ものすごく雑な背負い方だが、気を失って縛っている状態だ。仕方ないだろう。


「ねえ。グロリーアはいつから怪しいと思ってたわけ」


 私はその光景を眺めながら、グロリーアに聞いてみた。


「魔力の波がおかしかったからね。それをちょっと外部から刺激を与えてみただけさ」


 魔法のシステムはさっぱりだ。それでも乱れた時に何が起きるのかは想像が付く。


「それで胴体だけ見えてたの?」


 人の胴体だけ見えるという小さい子供なら絶対泣くシーンを思い出す。血が出ていないのでまだマシな分類ではあるが。


「あ。そういうのあったのか。なんで君が先に動いてるんだろと思ってたら」


 グロリーアは疑問を持ちながら発言していた。とはいえ、それを表に出していないのは、悟らせないためなのかもしれない。


「神獣族はそういうの敏感ですのよ。耳もいいし。鼻もいいし。目もいいし。確か五感と呼ばれるものはエルフェンより十倍以上も優れているという話がありますわ」


 カエウダーラが解説。身体能力の高さもそうだが、五感が優れている部分も神獣族の特徴だと言われている。


「君の場合は」

「水中での活動が自由に出来ますの。ああ。もちろん補助なしで」


 その代わり地上での活動は不得意だと言っている人が多かったりする。


「仲良く喋っている途中すまない」


 騎士とのやり取りが終わったのか、バートランド・ペイリャルが近づいてきた。ロゼッタも同行している。


「少し話がある。付いて来い」


 拒否権はないので、素直に従う。パーティー会場から離れ、住居の方にお邪魔することになった。白いソファとテーブルがある客室に入り、主催者と対面の形で着席する。それを確認した後、バートランド・ペイリャルが紙を出した。読んだグロリーアの眉が動く。


「特異変種か」

「ああ」


 文字はまだ読めないので、絵だけを見ることにする。鯉のような魚だ。歯のぎざぎざが不気味である。大きい角が特徴になるのかもしれない。


「本来は特異変種した場合、成長せずに勝手に死ぬんだが……何故か生き延びた。怪我を負った漁師が数人出ている。今後は生態系に悪影響を及ぼす可能性もあり得る」

「冒険者ギルドに依頼は出したのかい?」

「いや。今日被害の報告を受けたからな。まだ依頼申請の段階まで進んでいない」


 流石に被害報告を受けてすぐ出せるわけではない。依頼書類を受け付けたギルド側の審査もいる。


「因みにですが、パーティーの招待と関連性はありますの?」


 カエウダーラの質問にバートランド・ペイリャルは否定する。


「いや。元々周辺の貴族にお前たちの存在を宣伝するために開かれたものだ。本来はもう少し早めに登場する予定だったのだが、漁師の報告を受けていて遅れた。因みに暗殺紛いはしょっちゅうある。恨みを買うなんてざらだしな」


 企んでいると疑っていたが、そうでもないのか。


「遅いと思ったらそういうことでしたか。それともう少し護衛を付けさせていただきますよ」


 ロゼッタが納得した顔になっていた辺り、普段は早く主催者として現れていたのだろう。そして恨みどうこうで殺される危険性が常に付きまとっているようだ。ロゼッタはメイドだから、ずっと一緒にいるわけでもない。護衛の提案をしていた。


「ああ。頼む。お前たちのシルバーランクの認定は数日程度かかる。もし仕事を受けていないというのなら、どうだろうか。報酬はこれぐらい与えようと思うのだが」


 普通に承諾した。本当に仕事の予定なんてなかったためだ。そう言いたいのだが、正直に言ってしまうと、報酬が美味しすぎるというのが大きすぎる。金さえあれば何でも出来るというわけではないが、大抵のことが出来るのが真理なのだから。

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