第12話 パーティーの主催者登場

パーティーというものは喋りや踊りが中心だと思っていた。貴族特有の情報交換。結婚関係の築き。そういったものをやっていくのにもってこいだと勝手に想像していた。まさかこの獣の耳と尻尾が原因で初対面の人と話せなくなっているとは誤算だった。ひょっとしたら、私達のご先祖は大戦争後にあった探索時代でもあったのだろうか。相棒のカエウダーラがいるし、冒険者の顔見知りがいるだけマシだが、それでも辛い。


「こうなるだろうと思ってましたが……辛いですわね」


 カエウダーラも似たようなものだ。ヒレ耳という特徴だけで私と似たような状況になっている。


「上流社会にいる輩はあなた達をよく知っているわけではないですからね。日にちが経っていないのも大きいでしょう。それにおとぎ話に出てきた存在となると、躊躇するものなんですよ。あ。これ食べます?」


 メイドのロゼッタが言った通りなのだろう。私達が来て数日程度しか経っていない。効率重視で仕事をこなしてきたとはいえ、シルバーランク寸前まで行っている時点で恐ろしく感じるだろう。


「いただきますわ。圧倒的な力。あるいは異端の見た目。これだけで差別が助長する。歴史がそれを教えてくれますもの。どんなに技術や仕組みが変わっていても、根本的な部分は変わらないですわね」


 ロゼッタが持ってきてくれた根菜を焼いたものはカエウダーラがフォークを使っていただく。いつもどおり優雅に、上品に食べているが、やや気落ちしている。


「おい。あの人やっべえ」

「分かる。ちょっと違うとこあるけど……デカい」

「ほほお。お前も分かるか」

「ああ。同士よ」


小声を捉えたので、男同士の会話を聞いてみたが、カエウダーラに関しては差別どうこうではないだろう。ゲスイ会話で察した。最低な目で眺めているだけであることを。


「おっと。ここで失礼いたします。坊ちゃまを迎えにいかないといけないので」


 また魔法を使ったのか、ロゼッタは瞬時にどこかに行ってしまった。それと同時にキャサリンがこちらにやって来る。


「キャサリン、坊ちゃまというのはどういった方なのですの?」


 相棒が良い所を突く。私自身も気になっていたことだ。


「私も気になるかな」


 キャサリンは一口赤くて丸い根菜を入れて、噛んでごくりと飲み込んで答える。


「バートランド・ペイリャル。去年、15歳という若い年齢でロードになった男だよ。ほれ。来た来た」


 楽しそうに笑った。貴族の仕組みはさっぱり知らないが、偉い人物であることには変わらない。


「来たぞ。バートランド・ペイリャルが」

「ああ。去年になったんだよな」


会場全体が騒がしくなる。皆の注目は入り口に行っているみたいなので、私もそこを見ていく。ロゼッタが案内しているような形だ。誰かが入って来る。本当に若いニンゲンだ。体を見ている限り、まだ成長途中だろう。明るい栗色の短い髪。眉毛が短め。キラキラしたニンゲンというよりか、伝統を重視するような渋み好みの男と言った感じか。


「お。おい。なんでこっちに」

「動けよ馬鹿!」


 参加している人達が避けていく。まるでバートランド・ペイリャルが通るのだと言わんばかりの道が出来ていく。……今一瞬、目が合った。


「あなたがバートランド・ペイリャルですね。このようなパーティーにお招きいただき、ありがとうございます」


 お嬢様のカエウダーラが動き、にこやかに挨拶している。手慣れている感が伝わってくる。庶民の私と大違いである。さて。バートランド・ペイリャルは。


「こちらこそ、パーティーに参加してくれてありがとう」


 普通に応じていた。やや雰囲気が柔らかくなっている。それはともかく、この殺気はどこから発しているのだろうか。警戒するような仕草をしてはいけない。今は彼と喋る必要がある。彼の台詞を聞く必要がある。


「アプカル族。神獣族。数百年前にいなくなった者の末裔達よ。辺境の村テレッサへ。王国アルムスへ。ようこそ。心から歓迎する。言葉を贈るのが遅くなり、申し訳なかった」


 謝罪する必要なんてなかったが、まさかやるとは思ってもみなかった。頭を下げる行為をしているからか、私達は動揺している。


「上げてください。お気になさらず。私達が挨拶し忘れていたのが悪いですし」


 それでもカエウダーラは対応した。凄いと思う。バートランド・ペイリャルはホッとした表情になり、顔を上げた。


「お気遣い感謝する」


 彼は参加している皆に向く。主催者をして何かを言うつもりなのか。


「よく聞け」


 声は大きくない。それでも注目を集めるには十分だったのか、参加者全員が彼を見ている。


「この者達は確かに見た目が異なっている。だが数百年前までここにいた住人の子孫だ。何故現れたのかは……どうせグロリーアの研究成果だろうが」


 グロリーアが小声で「酷いよ」と泣きそうに言っているがスルーだ。というか、顔見知りなのは確定だろう。


「これも何かの縁だ。彼女達を特別な者としてではなく、冒険者として接して欲しい。以上だ。失礼する」


 貴族たちが口を開けている。妙なものを見るような目になっている者もいる。正直同じ立場だったら、戸惑っていることだろう。演説のようなことをしたバートランド・ペイリャルは奥の方に行こうとしている。己を貫き通すタイプのようだ。周りの反応を一切見ていなかった。この辺りは見習わないといけないのかもしれない。そう思った私であった。

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