第11話 パーティー参加

ソルが沈み、明るい空から暗い空に切り替わっていく。私達はパーティー会場であるペイリャル家に行く。ガラでもなく、難しい思考を漂っていた。


 貴族というものは昔あった身分でしかない。良くも悪くも科学技術。それによる産業革命。あるいは資本主義。これらの台頭で古い制度を破壊した。身分だって同じことだ。上手く適応出来た貴族もいたが、考えが凝り固まった貴族はどんどん堕ちていく。まだ生まれていない時代だから、「ああそうなんだ」ぐらいの認識しかないが。


 時代の流れがあったからこそ、今の私達の星は貴族の子孫がいても、かつてのあり方ではない。もしずっと昔のままだったらどうなっていたのだろう。書物によると、庶民の管理を行い、私腹を肥やす者もいたのだとか。大体は高い身分でも裕福になるなんてことがなかったらしい。この世界がどういう仕組みかはさっぱりだが、田舎となると苦労するだろうと予想する。


「そのはずなんだけど……結構金持ってるっぽいよね」

「ですわね」


 入り口で招待状を見せて入る許可をもらい、敷地に入ってみると案外広かった。田舎特有のものだと納得できる。問題は施設などだろうか。やたらと大きい白い建物が気になる。宿舎でもない。住居でもない。


「あれはパーティー用に建設したものだよ」


 聞き覚えのある力強い女性の声。振り返ってみると、青色のドレスを着たキャサリンがいた。肩を出し、比較的露出度が高めのものだ。そっちの方が好みなので羨ましいが、サイズの問題があっての苦肉の策だろう。


「テレッサ村で大きい宴会を出来るようにしたという話さ。ま。上の世界はそういったものも大事だというし、必要経費なんだろうよ。行こうか」


 黒と白という典型的な執事の格好をした男二人が入り口にいた。ぺこりとお辞儀をし、代わりに開けてくれる。慣れないものだが、突っ込むしかない。いざ。参らん。


 煌びやかだった。浮いたガラスのシャンデリアが輝いている。黄金の器がいくつもテーブルの上に置かれている。肉。果物。いくつもの層を重ねたパイ。質素なグロリーアのご飯よりも遥かに豪勢なものだった。


「ようこそ。急な誘いに応じてくださり、ありがとうございます」


目の前にいる執事の格好の男がにこにことした顔で接してきている。ほんの少しだけ違和感があるが、注目すべきところは銀盆の上に細いグラスだろう。ぽつぽつと泡が出たオレンジ色で、ひんやりとしてそうな飲み物。この独特な匂いはアルコール、つまりは酒だ。人工的な甘ったるい匂いが気になる。医療施設特有のものが混ざっている。


「ウォル、こっちに来なさいな」


 カエウダーラの手招きがあったので、それに応じる。壁際に行き、飲み物を出してくれる執事から離れる。


「なに」


カエウダーラは耳元に小声で言ってくる。


「パーティーでそのしかめ面はよくありませんでしてよ」


 表情でガッツリと指摘をくらってしまった。そこまで出ていたのかという驚きもあるが、最初から受けるとは思ってもみなかったことだ。とりあえず、感じたことを言っておこう。招待状が来た時点から疑ってきたことなのだから。


「いやだって。なんか変な匂いしたんだけど」


 よくもまあ。相棒は笑顔から変えずに出来るよなと思う。ポーカーフェイスが上手いから、カジノなどの賭け事に強いことを知っていたが、ここまでやれるとは。


「どういう」

「甘ったるい感じの。その中に病院の匂いもある」

「とりあえず酒弱いどうこうで断りなさいな。ここでトラブルを起こすわけにはいきませんわ」

「そうする」


 場慣れしているカエウダーラに敵わない。無難な答えで切り抜けることで亀裂を走らせないようにする知恵は流石だ。


「すみません。酒弱いので別の物を」


 執事が笑った。あのやり取りは聞こえないようにやったので、耳に届くことがないはずだ。


「この魔力。ねえ。君、結構性格悪いよね」


 突然ダスティンが訳の分からないことを言いだしたので、執事を観察してみる。靄がかかっている。匂いが少しずつ変わってきている。これは一体。


「ペイリャル家最強メイド、ロゼッタちゃん」


 私よりも小さい、銀髪青眼の少女が真の姿らしい。白いエプロンに黒いワンピース。質素なデザインだ。メイドというものを知っているわけではないが、古い時代のメイドはそういうものなのだと感じさせる。


「まさか。お坊ちゃんより良い子だと自負しております」


 可愛く反論している。正直こういう時の方が信用できない。


「はいはい。そうだね。で。何でこういう催ししたわけ」


 ダスティンよ。直球すぎやしないか。答えるわけがないだろう。誰もがこう思ったはずだ。


「お坊ちゃんがおっしゃっていました。おとぎ話でしかない者達が現れた。ならばこの目でしかと見ておきたいと。あとはアルムス王国全土に発信をする目的もあるかと」


 普通に答えていた。真っ当な目的で開いたみたいだが、パーティーのような催しをする必要が果たして……あるのだろうか。


「表向きはそうだと捉えておくよ」


 ダスティンも表向きの目的を理解した上で、更に何かあると考えているみたいだ。他の皆も似たような感じだろう。


「それで構いません」


 あの様子だとメイドのロゼッタは気にしていない。いつものことだと慣れている。


「色々と試してしまったことに関して、お詫び申し上げます。新しい物をお持ちしますね」


 体の向きを私達に合わせたと思ったら、謝罪をしてきた。新しい飲み物を持って来てくれるみたいだ。


「お願いします」


 ぺこりとお辞儀をしたロゼッタは姿を消した。音がなく、目で捉えられない。これは体術の領域を超えている。密猟者が使ったものと同じく魔法だが、レベルが違うだろう。


「瞬時空間移動の魔法だね」


 赤髪のエルフの優男の声が答えてくれた。間違いない。グロリーアだ。パーティー会場なので正装を着ている。本性とかを知らなかったら、異性が黄色い歓声をあげることだろう。それぐらい似合っている。


「あれぐらいになるとかなり難しいものだけど、彼女は才能があった。力もあった。だから最強メイドなんだよ」


 なるほどと思ったら、ロゼッタがいつの間にか戻ってきていた。銀盆に飲み物を持って来てくれている。お茶の類だ。


「お待たせしました。アイスブレンドティーです。どうぞ。お楽しみくださいませ」


 表の目的が判明した今、私達は裏の目的を探る必要がある。楽しんでいるフリをして、様子を見ていこう。

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