第24話 騒乱のヴァレンチ―と後悔のラヴレンチー

「う、うおおおお…!」


とりでの兵士達が隊列を組んで、ガイコツ達に前進する。


紺碧の圧アズールプレス!」


イガラシが水のかたまりを、その兵士達の前方でザバァーン!と炸裂さくれつさせた。


とりでの門に殺到さっとうしていたガイコツ達は、

波打ち際で転がる貝殻かいがらのように、

ガコガコ…!と音を立てながらし流されていく。




「フランシスカじょう!アンネじょう

 浄化じょうか魔力マナをぶつけるんじゃ!

 解呪かいじゅの要領じゃ!

 ワシは解呪かいじゅはできんでな!」


とフランとアンネをり返りながら、イガラシがさけんだ。


「任しとけ!」


アンネが前方にダダダッ!と走り出す。


フランもそれに続く。


立ち上がり始めたガイコツの一体にアンネが近づき、


浄化パージ!」


さけびながら手をかざす。


パァン!


とガイコツの体がはじけるようにくずれた。


「よし!効いとるぞ!」


イガラシが再び水を集め始める。


浄化パージ!」


浄化パージ!」


フランとアンネが立ち上がるガイコツを次々と浄化じょうかしていく。


紅蓮の投擲槍クリムゾンジャベリン!」


風刃ウィンドブレード!」


ミリアとティナはフランとアンネがらしたガイコツを再び転倒てんとうさせる。


集中フォーカス!…ダメか!?」


セレスの左手のひらから、ビシュッ!と光線が放たれたが、

ガイコツは特にリアクションも無くケロリとしている。


魔族まぞくの肉体ならともかく、骨にはアミュラス魔力マナも効果が無いらしい。


セレス、ベリエッタはけんで、とりでの兵士達はやりでガイコツを転倒てんとうさせる。


「しかし、十や二十という数じゃありませんよ!

 この戦法で行くのは無理があるのでは!?」


ミリアが前方をのぞむように見渡みわたしながらさけぶ。


ガイコツはとりでの外のずっと向こうまでウジャウジャと列を成している。


「ワシも目が悪いからよく見えとらんが、分かっとるよ!

 これは時間かせぎじゃ!

 今、空気と地面からも水を集めとるでな!」


イガラシが再び紺碧の圧アズールプレスでガイコツをし流しながら答える。


「なるほど!

 ならば、もう少し頑張がんばるとしましょう!」


ミリアがうなずいた。


「キャア!」


フランが再び悲鳴を上げた。


門の外でやられていた、このとりで魔族まぞくの兵士達だ。


すでに死んでいたらしいかれらも、操られて血を流しながら門に向かってきた。


「危ない!」


ガキィン!


兵士に気を取られたフランに向けられたガイコツのけんを、

かろうじてセレスが防ぐ。


一旦いったん下がろう!」


ベリエッタもけつけ、三人は後方へ下がる。


「本体の魔族まぞくの位置さえ分かれば私が奇襲きしゅうをかけられる!

 勇者殿どの、聖女殿どのとりでの上階へ向かうぞ!」


ベリエッタが言い、三人は共に階段をダダダッ!とけ上った。




「…なっ!?」


上階に到着とうちゃくした三人の目に衝撃的しょうげきてきな光景が飛びんできた。


とりでかべ大砲たいほう砲弾ほうだんが、いくつもめりんでいる。


このとりでから大砲たいほうっていた側の兵士達は、

くずれたとりでかべはさまれたりケガをしたりして、

ほとんどが動けなくなっていた。


「敵軍にも大砲たいほうがあるのか!?」


セレスとベリエッタがとりでの外を、

とりでかべに空いた砲門ほうもんくずれたかべから見渡みわたす。


きりがあって全部は見えないが、数は多いな…。

 だが大砲たいほうなんて見当たらないぞ…?」


ベリエッタがつぶやいた。


門から見えていたガイコツ達は、本当に一部だったようだ。


とりでの北側には、大きな円形をえがくようにガイコツ達がひしめいている。


その数は百や二百では足りない。


だが確かに、大砲たいほうはおろか弓のような飛び道具も持っていないように見える。


「ベリエッタさん!あの円の真ん中!

 二人ほどちがよろいを着ているのがいますよ!」


セレスが指差す。


暗いのでハッキリとは見えないが、

銀色のよろいを着たガイコツ達がえがく銀と白の円の中心で、

青っぽい色がチラチラ見えているのだ。


「敵軍には大砲たいほうはありません…。

 ですが、こちらがったたまを止め、

 それどころか音もなくち返して来るんです…。」


フランに治癒ちゆされた近くの兵士が言った。


「アンデッドを操っているのとは別の試練トライアルか…?

 うかつに近づくのは得策ではなさそうだ…。」


ベリエッタが下を向いてフゥー…とため息をついた。


「…だが、私は行くぞ。」


スッとベリエッタが立ち上がり、左手をガイコツ達の円の中心に向けた。


「…えっ?」


セレスとフランが言った瞬間しゅんかん


ビュオン!


ベリエッタの姿が消える。




ガキィン!




ガイコツの円の中心でベリエッタが青いよろいの片方にけんり下ろしていた。


が、よく目をらすと、

ベリエッタがけんり下ろしたほうはガイコツだ。


もう一人の青いよろい魔族まぞく


つまり、こっちが本体なのだろう。


と、

ズガガガガ…!


ベリエッタの体が一気にガイコツの円の外までき飛ばされた。


巻きまれたガイコツ達もガコガコ…!と音を立てながらき飛ぶ。


「ベリエッタさん!?」


セレスとフランがさけぶ。


ビュオン!


ベリエッタは、再びガイコツの円の中心に移動した。


ズガガガガ…!


ベリエッタが、今度はガイコツの円の反対側に吹き飛ぶ。


「ベリエッタさん!」


ビュオン!


スタッ!


ベリエッタがもどって来た。


「ぐぅ…。」


ベリエッタは上半身のどこかを負傷したらしく、よろい隙間すきまから血を流している。


「ベリエッタさん!?大丈夫!?」


フランがすぐに治癒ちゆを開始する。


「すまない、助かる…。」


ベリエッタがフランを見て言い、続けてセレスのほうを振り返ると、


「敵のもう一つの能力が分かった…。

 下の階に報告に行こう…。

 聖女殿どのはここで兵士達の治癒ちゆを頼む…。」


と言った。




セレスは傷を治癒ちゆされたベリエッタと共に、

今度は階段をダダダッ!とけ下りる。




紺碧の洪水アズールフラッド!」


階段を下った二人の前に巨大きょだいな水のかたまりかんでいた。


「ここに石けんを一つ、と。」


イガラシが白い石けんを水のかたまりにポチャンと投げ入れる。


「おいおい、ジジイ!

 まさか、

 『石けんでアンデッドを浄化じょうかする。』

 なんて言い出す気か!?」


とアンネが最後の兵士の死体のほうのアンデッドを浄化パージしながら悪態をつく。


「残るはガイコツだけじゃな!?

 まあ下がって見とれい!」


イガラシが言い、


「ミリア殿どの、火のほうは任せるぞい!」


とミリアのほうを振り返りながら言うと、

水のかたまりは、ザブーン!とガイコツ達を包みうずを巻いた。


先ほどとはちがい、し流すのではなく、

本当にザブザブと石けん水で洗うような感じだ。


「承知しました!」


ミリアはうなずくと、


「ティナ、ラジュマス湖のことを覚えているかい!?

 あの時のように、私の後方から風をかせてくれ!」


とティナにさけぶ。


「分かったわ!」


ティナもうなずき、ミリアの後方へけ寄ってつえを構えた。


「準備いいぞい!」


イガラシが言うと、石けん水は左右に分かれて行く。


取り残されたガイコツ達は、石けん水でツルツルすべって転倒てんとうしている。


ティナがブワッと風を巻き起こした。


「文字通り、死屍ししむち打つようで悪いが、

 まとめて消えてもらうぞ!」


ミリアが言い、右手をガイコツ達に向けて構える。


紅蓮の火葬クリムゾンクリメイション!」


ボオオオオ…!


激しいほのおが、転倒てんとうしたガイコツ達を焼き始めた。


と、

バァン!バァン!…!とガイコツ達が、次々にはじけるようにくだけ散っていく。


先ほどの浄化パージによるものとはちがい、

各部の骨そのものが粉々にくだけ散っているのだ。


「どうなっているんですか…?」


セレスが思わずたずねる。


「骨っていうものは、均一な構造じゃない。

 中央に骨髄こつずいという血液を作る組織があって、

 そこに血液を循環じゅんかんさせる血管が通るための穴も空いているんだ。

 水が骨髄こつずい充満じゅうまんした状態で一気に高温にしてしまえば、

 水蒸気の圧力でくだけ散るというわけさ。」


ミリアが左手の人差し指をピンと立てた。


「ただの水だと表面張力が強くて、うまく染みまんから、

 石けん水にしたというわけじゃよ。」


イガラシも左手の人差し指をピンと立てる。




と、

門の前にそのままになっていた丸太がググッ…と動いた。


「おや?熱で変形を始めたかな?」


ミリアが言うと、


「いかん!下がれ!」


ベリエッタがさけぶ。


次の瞬間しゅんかん


ガ ズ ゥ ン !


丸太が、セレスとベリエッタのいる位置まで一気にんできた。


「…ッ!」


セレスとベリエッタは思わず飛びのく。


「がはっ!」


魔族まぞくの兵士達が、二人ほど巻きまれた。


ミリア、ティナ、アンネ、イガラシは無事だ。


「どうなっとるんじゃ…?」


転倒てんとうしたイガラシが立ち上がりながら言う。


「敵の能力は、青いよろいを来た魔族まぞくのほうがアンデッドの操作!

 青いよろいのガイコツのほうは、念動力のようなものなんだ!」


ベリエッタが叫んだ。


「その通りさ!」


いつの間にか門の近くまで来ていた、青いよろい魔族まぞくさけんだ。


「パパは騒乱ネイレンのヴァレンチ―、

 ぼく後悔イウティエルのラヴレンチ―さ!」


ラヴレンチ―と名乗った魔族まぞくが続ける。


ヴァレンチ―という名前らしい青いよろいのガイコツは、

周りに落ちていた他のガイコツ達のけんを、

カラン!カラン!…!と念動力で集め、

二本、三本、四本、…、と自分の周りにフワフワとかせ始めた。


「なるほどのう…。

 念動力で水と火も回避かいひしたというわけかな…?」


イガラシが青いよろいの二人を目を細くしながら見つめる。


「そういうことさ!」


ビュ!ビュ!


ラヴレンチ―が言うと同時に、

ヴァレンチ―がかせたけんをミリアとイガラシへ飛ばしてきた。


ダダッ!と、セレスとベリエッタがミリアとイガラシの前に飛び出し、

ガキィン!ガキィン!

と飛ばされたけんたたき落とす。


紅蓮の火葬クリムゾンクリメイション!」


ミリアがラヴレンチ―とヴァレンチ―の二人に向けて右手をかざしてさけび、

ティナとミリアが風と火を放つ。


ボオオオオ…!


「おっと!」


二人は、フワリと後方へ下がってほのおを回避する。


「チッ!」


ミリアが舌打ちした。


「危ない危ない…。

 でもこんな風に、パパの騒乱ネイレン試練トライアルで空を飛んでしまえば、

 水も火も当たらな…!」


ラヴレンチ―が言いながら、

今度はヴァレンチ―と共にフワリとかび上がったかと思うと、

ザブン!と石けん水に頭からんだ。


すでにイガラシが二人の頭上に石けん水を移動させていたのだ。


ミリアの紅蓮の火葬クリムゾンクリメイションは、陽動である。


「ガボガボ…!ぷはーっ!ゲホッゲホッ…!」


ギュンと二人が石けん水の下へすべるように移動してけ出した。


が、二人が出てきた瞬間しゅんかんに、セレスが左手をかざす。


目潰しフラッシュ!」


カッ!


セレスの左手から強烈きょうれつな光が放たれた。


「ぐわっ!」


二人は顔を背ける。


紅蓮の火葬クリムゾンクリメイション!」


ボオオオオ…!


再びティナとミリアが風と火を放った。


バァン!


ガイコツのヴァレンチ―がはじけ飛んだ。


周りにいていたけんもカランカラン…!と音を立てて地面に落下する。


ラヴレンチ―は、火が当たる直前に左のほうの地面へズザザザ…!と移動していた。


「痛てて…!はっ!?

 パパ!?」


ラヴレンチ―が上半身だけを何とか起こして、

弾け飛んだヴァレンチ―のほうをり返る。


「やられる直前に

 『息子だけでも。』

 とがしたのか…。

 泣かせるな。

 だが…。」


ミリアが言うと、


ビュオン!


スパッ!


ベリエッタが瞬間しゅんかん移動してラヴレンチ―の背後に周り、

その首を切り落とした。




「しかし…、アンデッドになっても特異技能ギフトが使えるし…、

 目で物を見とるんじゃのう…。

 幽体ゆうたいということかのう…。

 おくが深いのう…。」


イガラシがアゴひげをなでながら、つぶやくように言った。

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