第23話 トルネオにて

「なるほど…。

 ブランパーダ夫妻が亡くなったのは聞いておったが、

 まさかそのご子息とご息女が次の勇者と聖女になるとはのう…。」


ガタガタとれる鳥車の中でイガラシが言い、

セレスとフランに向かって頭を下げた。


セレスとフランもそろって頭を下げる。


ミリアが現在までに分かっている情報を、イガラシに共有しているところだ。




ホセに運転を任せている鳥車の中には、

セレス、フラン、ミリア、イガラシが座っている。


外の警戒けいかいはホセのとなりにいるティナの役目だ。


前方のイヴァンの鳥車のほうでは、同じくベリエッタが外を警戒けいかいしてくれている。




「それと、クーデターを起こした魔族まぞくの関係者はスドリャク教徒で、

 特異技能ギフトに似た試練トライアルという能力を使うんです。

 うで赤銅色しゃくどういろ腕輪うでわをしているのが特徴とくちょうで、

 腕輪うでわにはいばらのような模様が入っています。」


ミリアが説明する。


試練トライアルかあ…。

 聞いたことはあるのう…。」


イガラシが、うんうんうなずく。


「今のところ道中でおそってきたスドリャク教徒は全員たおしたんですが、

 一人だけ能力は分かっているのに、まだ戦っていない女魔族まぞくがいます。

 その女魔族まぞくの能力は、おそらく魅了みりょうのろいです。」


ミリアが言うと、


「ふうむ…。そいつはまた厄介やっかいじゃなあ…。」


イガラシはついたつえに両手を乗せると、考えむようにその上にアゴを当てた。


「あとは、鎮圧ちんあつ軍がやられたという火の能力の使い手、

 あるいは兵器があるようですね。

 …そんなところでしょうか。今ある情報は。」


ミリアがうでを組む。


「その情報はワシも聞いておるよ。

 おそらくは、それも敵の試練トライアルということじゃろう…。」


イガラシもうでを組んだ。


「しかし、数千という規模の軍を焼くというのは並大抵なみたいていの能力ではないのでは?」


セレスが疑問を口にする。


「ふうむ…。

 じゃが火の能力というのは特異技能ギフトの中でもありふれたほうじゃろう?

 おそらく試練トライアルにおいても同じじゃよ。

 つまり、複数の能力者が同時に攻撃こうげきしてきた可能性が考えられる。」


イガラシが右手の人差し指を立てる。


「それにナルグーシスの王宮の周りは地形もよくないからのう。

 山や谷に囲まれておって、野営する場所は限られとる。

 まとまって待機していた軍をそれこそ一網打尽いちもうだじんにするには打ってつけじゃよ。」


イガラシが右手の中指も立てた。


「しかし…、攻撃こうげきされたタイミングが

 『夜明けと共に』

 という点が気になるところなんじゃよなあ…。

 魔族まぞくじゃったら夜のうちに攻撃こうげきしそうなものなんじゃが…。」


イガラシは再びつえに両手を乗せると、考えむようにその上にアゴを当てる。


「まあ、ここであれこれなやんでいても仕方がないでしょう。

 現場に行ってみるのが一番かと。」


今度はミリアが人差し指を立てる。


「あっ…。

 それなんじゃが、ちょっと寄り道してもいいかのう?

 と言っても、トルネオの北東にあるウェロム侯爵こうしゃく領の中じゃから、

 大して遠回りにはならんと思うんじゃが…。」


イガラシが申し訳なさそうに言う。


「何かあるんですか?」


ミリアがたずねる。


「ウェロム侯爵こうしゃく領のシュテフという町に、

 鎮圧ちんあつ軍の生き残りが集められとるそうじゃ。

 情報が得られるかもしれんし、ケガ人の治癒ちゆもしてやりたい。

 せっかく奇跡サザーニアの聖女様もおるしのう。」


イガラシがフランのほうを見ながら言った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







四日後。


正午を過ぎたころ、セレス達はシュテフの町に到着とうちゃくした。




だが、町はひどい有様だ。


人族と魔族まぞくの混合したグループと、

魔族まぞくだけのグループが対立しているらしい。


手に手にけんやりたて、弓などを持ち、激しく争っている。


中には特異技能ギフト試練トライアルの使い手もいるらしく、

火や風や水や土の能力が使われているようだ。


建物はほとんどがこわされたり燃やされたりしているし、

至る所に血のあとや死体がある。


おそらく、魔族まぞくだけのグループの多くはスドリャク教徒なのだろう。




「ホセ、イヴァン、鳥車に乗って町の外れまではなれていろ。」


ミリアが二人に指示を出すと、


「出番だぞ。

 アミュラスの勇者様。」


今度はセレスをり返って言った。




セレスは近くにある民家のくずれた外壁がいへきに、

タタッ!と登る。


そして争っているグループのほうをり返ると、

出来る限りの大声でさけんだ。




「 ち ゅ ー も ー く ! ! ! 」




争っていた二つのグループがバッ!とセレスのほうを見る。




「 我 は アミュラス の 勇 者 ! ! !

  争 い を 止 め よ ! ! ! 」


セレスは続けてそうさけぶと、左手をかざす。


「 目 潰 しフラッシュ ! ! ! 」


カッ!


セレスの左手から強烈きょうれつな光が放たれた。




「ひ、ひええええー!」


げろ!」


「お助けー!」


ドドドドド…!


人族と魔族まぞくの混合したグループと、魔族まぞくだけのグループの両方から、

魔族まぞく一斉いっせいげ出した。




残された人族はポカーンとしている。




「(おかしいな…。スドリャク教徒だけげると思ったのに…。)」


セレスもポカーンとした。




「よっ。いいぞ。勇者様。」


ミリアがパチパチ…と拍手はくしゅをする。


「すみません…。スドリャク教徒だけがしたかったのですが…。」


セレスは外壁がいへきからスタッ!と降りながらずかしそうに言う。


「いや。ひとまず止まったし、あれで問題ないよ。

 まだ争っているやつらがいそうだから、もう何か所かたのんだぞ。」


ミリアが言い、残された人族のグループのほうへと歩き出した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







結局、セレスは同じことを町の中で十回ほどり返した。


その間にミリア達は人族のグループから鎮圧ちんあつ軍の居場所を聞き出し、

フラン、アンネ、イガラシが鎮圧ちんあつ軍や住民の治癒ちゆを行った。




「ありがとうございます!

 アミュラスの勇者、奇跡サザーニアの聖女!」


治癒ちゆされた人族達と魔族まぞく達は口々にそう言った。


「(ニブロセルでもそうだったけど、

  フランが感謝されているのを見ると自分のことのようにうれしいな。)」


とセレスは思った。




「…やはりめぼしい情報は無いな。」


情報収集に行っていたミリアが、セレス達のところへもどってくると言った。


「生き残った鎮圧ちんあつ軍のほとんどは、当時テントの中に居た者達のようだ。

 外で悲鳴が聞こえて、あわてて飛び起きたらすでに火の海だったらしい。」


そう言うとミリアはかたをすくめる。


「やはり、現場に行ってみるしかないか…。」


イガラシがアゴひげをなでながら言う。


「それしかないでしょう。

 このままウェロム侯爵こうしゃく領の北にある、

 ジョコネンという関所を目指しましょう。」


ミリアはそう言うと、みんなを町の外のほうへとうながした。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







翌日。


日が暮れたころ

セレス達の視界にウェロム侯爵こうしゃく領とナルグーシスの境にある関所、

ジョコネンというとりでが見えてきた。




だが、何やら様子がおかしい。


とりでの北側、ナルグーシスに面しているほうが、とてもさわがしいのだ。


ドゴォン…!ドゴォン…!と、

大砲たいほうっているような音まで聞こえている。


セレス達は顔を見合わせ、

念のため鳥車を降りつつ、急いでとりでへと向かった。




とりでの門の中でいそがしそうに何かを運んでいた魔族まぞくの兵士達の一人が、


「止まれ!

 このとりでは現在、攻撃こうげきを受けている!

 急いで引き返すんだ!」


と、とりでに近づくセレス達に気づいてさけんだ。


援護えんごします!」


セレスがさけび、セレス達は構わずにとりでへと走る。




「いや、危険だ!引き返すんだ!」


兵士が再びさけぶが、


ぼくアミュラスの勇者です!」


とセレスがさけぶと、兵士はぎょっとしたように目を見開いた。


「私は火の賢者けんじゃだ!」


「ワシは水の賢者けんじゃ!」


「私は奇跡サザーニアの聖女!」


ミリア、イガラシ、フランも口々にさけぶ。


「いやいやいやいや…。

 …え?…本当に?」


門の前までやってきたセレス達に、兵士は半信半疑という表情をする。


「敵はナルグーシスのクーデター軍か?

 我々はその鎮圧ちんあつに向かうところさ。

 向かってきているのは何人ぐらいなんだ?」


ミリアがたずねる。


すると兵士は、


「いえ、クーデター軍なのかすら分からないんです!

 大量のアンデッドなんですよ!」


と悲鳴のような声を出す。


「アンデッドだと?」


ミリアが言ったその時だった。




バゴォンッ!




セレス達がいるのと反対側、

ナルグーシスに面したほうの門に何か重いものが激しくぶつかった。


「…まさか!

 外のみんながやられてしまったのか!?」


門の中に居る兵士達がザワつく。




バゴォンッ!




再び何かが激しくぶつかる。


門のかんぬきと留め金がメキメキ…と変形し始める。


「マズい!

 破られるぞ!」


門の中にいる兵士達が隊列を組んでやりたてを構える。




バゴォンッ!




ザバザバ…!


イガラシが次々と持っていたビンから水を地面に注ぎ始め、


みんなも構えるんじゃ。」


つえを構えつつセレス達をり返る。




バゴォンッ!




セレスとベリエッタはけんを構え、

ミリアとティナもつえを構えた。


フランは後方に下がる。


アンネはグイと自分のビンの酒を飲む。




バゴォンッ!


バキィッ!


ガコォンッ!


門が破壊はかいされた。




門にぶつかっていたのは大きな丸太だ。




「キャア!」


フランとティナが同時に悲鳴を上げた。




丸太を持ち上げているのは、ガイコツ。


けんやり、銀色のたてを持ち、同じく銀色のよろいかぶとで武装した、

無数のガイコツがカタカタ…と動いている。




「そういえば、魔界まかいのほうは火葬かそうの文化だったな。」


ミリアが呟くように言った。

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