第22話 無慈悲のゾーヤ

三日後。


昼頃ひるごろにセレス達一行は、

オルトエスト国の東寄りに位置するビウィス侯爵こうしゃく領、クプルの町に到着とうちゃくした。


「用心しよう…。」


ベリエッタが言い、セレス達は町の入り口で鳥車を降りる。


「宿は、町の北側だ。」


ベリエッタが、周囲を警戒けいかいしながら先導し始めた。




だが、何か様子がおかしい。


見渡みわたす限りの建物という建物が、こわれている。


屋根が無くなったり、窓が割れたり、かべくずれたりしているのだ。


「災害でもあったのか…?」


ミリアがつぶやくように言った。




そして、




ベリエッタが案内してくれた場所に、宿は無かった。


正確には、宿だったものの残骸ざんがいだけが残っていた。


近くでは、オルトエストの兵士達が建物の瓦礫がれき撤去てっきょする作業や、

町の住民であろうケガ人や遺体を運ぶ作業をしている。




「すまない。旅の者なんだが、ここで何があったんだ?」


ミリアが近くを通りがかった兵士にたずねる。


竜巻たつまきが起きたそうなんです。」


兵士が立ち止まって答える。


「現在オルトエストでは、国内の至るところで

 今回のように突発的とっぱつてき竜巻たつまき被害ひがいが起きていまして…。

 しかし、被害ひがいが起きているのは町ばかりなのです。

 町の周りにある森林や山なんかでは特に被害ひがいは起きておらず…。」


兵士は首をかしげている。




魔族まぞくの仕業でしょうか…?」


セレスがミリアに尋ねる。


「何とも言えないが…。

 とりあえず、フラン、アンネ。

 ケガ人の治癒ちゆをしてやってくれないか?」


ミリアがフランとアンネを振り返った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







翌日。


夜もけたころにセレス達は、ビウィス侯爵こうしゃく領とトルネオ国の間にある関所、

ティグルと呼ばれるとりで到着とうちゃくした。




セレス達が鳥車を降りて近づく。


ところがとりでの周りにはだれもいない。


門は固く閉ざされているようで、

たいまつの外灯だけがゆらゆらとらめいている。




「通行止めか?

 それにしても、だれもいないというのはみょうだな…。」


ミリアが言ったその時だった。




ゴキン!




何かが近くに落下してきた。




みんなは音のしたほうをり返る。




人だ。




手脚てあしが変な方向に曲がった兵士が、うつせにたおれている。




その下には赤い染みが広がっていく。




「キャアアアア…!」


フランが悲鳴を上げる。




「あんたが勇者かい?

 いい男なのにもったいないね…。

 次は、魔族まぞくに生まれ変われるようにいのっておくよ。」


上から女性の声が降ってきた。




セレス達は、武器を構えながら声のほうを見上げる。




とりで外壁がいへきの中ほどに、人影ひとかげが立っていた。




魔族まぞく老婆ろうばだ。




そしてその左腕ひだりうでには、いばらを模したような禍々まがまがしいがらの刻まれた、

赤銅色しゃくどういろをした腕輪うでわがある。




「あたしは、無慈悲ノルドンドのゾーヤ。

 でも覚えなくていいよ。

 どうせ死ぬからね。」


言うと同時にゾーヤの輪郭りんかくがボヤけ、激しく回転を始めた。


ギャギャギャギャギャ…!


ミシミシ…!


ゾーヤの立っていた外壁がいへきが音を立てる。


「(青い竜巻たつまき…!)」


そうセレスが思った瞬間しゅんかん、ミリアが動いた。


紅蓮の投擲槍クリムゾンジャベリン!」


ボッ!


ゾーヤが姿を変えた青い竜巻たつまきほのおやりが命中する。


だが、ほのおはすぐさま風に巻きまれるように、かき消された。


「風に火が効くわけないだろう。」


ゾーヤが竜巻たつまきのまま言う。


「ホセ!イヴァン!遠くへげろ!」


まだ鳥車を降りていなかったホセとイヴァンに、ミリアが指示を出す。




ビュオン!


「フッ!ハッ!」


ビュン!ビュン!


ベリエッタが外壁がいへきまで瞬間しゅんかん移動してゾーヤにりかかった。


だが、ゾーヤには全く効いていない。


「物理攻撃こうげき無駄むだだよ。」


ゾーヤが言う。


ギャギャギャ…!


「ぐっ…!」


ブワッ!


ベリエッタが竜巻たつまきのゾーヤに巻きまれた。


その直後、ベリエッタの体ははじき飛ばされたように宙をう。




ビュオン!


スタ!


ベリエッタはたまらず瞬間しゅんかん移動でもどって来た。




ギャギャギャ…!


ゾーヤがとりで外壁がいへきからこちらへ、すごいスピードで向かって来る。




と、

今度はティナが動いた。


竜巻トルネード!」


ブワワワッ!


小さな竜巻たつまきを巻き起こした。


ボウンッ!


ティナが巻き起こした竜巻たつまきがゾーヤにぶつかる。


が、ティナの竜巻たつまきはあっさりと消え去る。


ゾーヤの勢いは全く止まっていない。


「ヒヒヒ…。もっと強い風を起こしな。」


ゾーヤが笑う。


ギャギャギャ…!




セレスが左手を構える。


集中フォーカス!」


セレスの左手のひらから、ビシュッ!と光線が放たれ、ゾーヤに命中した。


「うっ!?」


ゾーヤはおどろいたような声を上げ、今度は上昇じょうしょうする。


ギャギャギャ…!




「光の魔力マナってのは厄介やっかいだね…。

 でも大して痛くないよ。」


ゾーヤがセレス達の頭上で言う。


「(たいまつの光しかないからか…!)」


そう思いながらセレスがミリアをり返ると、ミリアはうなずく。




と、

ゾーヤがとりでへ急降下した。


ギャギャギャ…!


バキバキ…!


メキメキ…!


とりで外壁がいへきがみるみる破壊はかいされていき、

その破片が激しくゾーヤの周りをい始める。


「う、うわああああ…!」


「ひい…!」


中にいるのであろう兵士達の声がひびいた。




ギャギャギャ…!


ガッ!


ドゴッ!


カンッ!


ゾーヤはとりでの破片を巻きんだまま、こちらへすごいスピードで向かってくる。


紅蓮の新星クリムゾンノヴァ!」


ミリアがさけびながら右手を頭上に向けると、

巨大きょだいほのおの球が爆発ばくはつするように出現した。


セレスがゾーヤへ向かって行き、両手でけんりかぶってさけぶ。


ジャッジ…!」


ズンッ!


セレスの左脇腹ひだりわきばらに破片が命中した。


「ぐあっ!?」


ガッ!


ドゴッ!


立て続けに左太もも、左側頭部にも破片が命中する。


勢いを殺されたセレスは、ブワッ!とゾーヤに巻きまれた。


「あっ…!?」


ギャギャギャ…!


そのままゾーヤは急激に上昇じょうしょうする。


ゴッ!


ガンッ!


ドッ!


ゾーヤに巻きまれたセレスに、次々ととりでの破片が命中してくる。


ギャギャギャ…!


セレスがゾーヤからはじき飛ばされるように、宙へと放り出された。




セレスの視界のはしに、とりでの屋上が見える。


「(マズい…!)」


ビュオオオオ…!と自分の体が高速で空気をけて行く音が聞こえ、

地面がぐんぐん近づいて来た。




「セレス兄!?」


フランがさけぶ。


減速ヘッドウィンド!」


ティナが、セレスの落下してくる位置に風を巻き起こした。


セレスの落下速度が、わずかにおそくなる。


ズガガガッ!


ベリエッタがぶつかるようにセレスをキャッチした。


「痛たた…!」


セレスは身体中、傷だらけだ。


ベリエッタもかすり傷を負う。




「今のがおくの手かい?

 じゃあ、もう打つ手なしってわけだ…。」


とりで外壁がいへき竜巻たつまきを解除したゾーヤが、

ニタニタと笑いながら言う。




「…セレス!」


ミリアがセレスをり返る。


セレスをフランが、

ベリエッタをアンネが治癒ちゆした。


セレスは立ち上がると、ミリアを見てうなずく。


「(もう一度やってみるしかない…!)」


セレスは、かたに担いでいたレイのたてを左手に構え、

ギュッとにぎりしめる。




ギャギャギャ…!


バキバキ…!


メキメキ…!


ゾーヤが再びとりでの破片を巻きみながら、こちらへ向かってきた。




竜巻たつまきの状態でもしゃべれるということは、

 竜巻たつまきの状態でも息をしとるということかのう?」


突然とつぜん、セレス達の背後で男性の声がした。


セレスがり返る。


ビュン!


その横を大きくて透明とうめいかたまりが通り過ぎた。


紺碧の球アズールスフィア。」


ザバン!


ザババババ…!


ボコボコ…!


竜巻たつまきのゾーヤが、大きな水のかたまりに包まれ、動きを止められる。


「ガボ!

 がはっ!

 ガボボ!

 おぼれさせようってことかい!?

 ガボガボ!

 そうはいかないよ!」


水に包まれた竜巻たつまきのゾーヤが苦しそうにさけぶと、

おそくなっていたその回転が再び加速し始めた。


竜巻たつまきの回転の真ん中に向かって、

水球の上部がどんどんくぼんでいく。


「ならば逆回転じゃ。

 紺碧の渦アズールボルテックス。」


ザババババ…!


水のかたまりが激しく回転を始める。


真ん中のくぼみが、今度はどんどん消えていった。




そして、




ガボガボガボガボ…!




ゾーヤが姿を現した。




魔力マナ切れのようじゃぞ?

 あるいは窒息ちっそくかのう?

 同じ老いぼれじゃが、こうはなりたくないわい。

 …あっ。

 トドメは任せたぞい。」


男性が言うと水のかたまりがバシャッ!とはじける。


ゾーヤが地面にドサリ!と落下した


ゴボゴボと水をきながらピクピクしている。




紅蓮の新星クリムゾンノヴァ!」


ミリアが再びさけびながら右手を頭上に向けると、

巨大きょだいほのおの球が爆発ばくはつするように出現した。


セレスがゾーヤへ向かって行き、けんり下ろしながらさけぶ。


断罪ジャッジメント!」


カッ!


かみなりが落ちたように一瞬いっしゅん辺りが明るくなり、次の瞬間しゅんかん


スパッ!


と切断音がひびく。




ゾーヤの首が飛んだ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「こんなところでお会いできるとは…。

 ナルグーシスへ向かわれるところですか?

 イガラシ殿どの。」


ミリアがその男性、マサゾウ・イガラシに声をかけた。


スキンヘッドに真っ白い眉毛まゆげと、同じく真っ白い口ひげとアゴひげ、

水色を基調としたローブに身を包み、

ねじれたような形状の木製のつえを持っている。


「そうそう。ちょうど向かうところだったんじゃよ。

 準備に手間取ってのう…。」


イガラシが地面にしたたった水を、

魔力マナでジャブジャブと次々にビンへめながら言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る