第20話 不運のミロスロフ
ザーザーと雨が降り始めた。
「降ってきちゃったわね。早くしてくれないかしら?」
鳥屋の前で待ちくたびれているティナは言った。
ステファン、アンネ、ホセ、イヴァンと共に、
鳥屋が鳥車の準備を終えるのを待っているところだ。
「待たせやがるぜ。」
アンネはビンを空にしながら言う。
「この後も買い出しの予定がありますからね。」
ステファンも同調する。
と、
「降ってきましたか…。
不運ですね。」
すぐ背後で男性の声がした。
ティナが
頭から
ステファンと同じくらい
「(
ティナはそのまま鳥屋のほうに向き直ろうとした。
「せっかく天気予報通りに雨が降ってきてくださったというのに、
勇者も聖女もいないほうなんて。」
真っ赤な
その
ティナは固まった。
「(…何ですって?)」
「せっかくですから、この不運を
せっかくですからね。」
真っ赤な
雨で
ズッ…!
周囲の通行人とティナ達の体が、わずかに地面へと
いや、そうではない。
クツの底が無くなったのだ。
ジュワワワワ…。
「
真っ赤な
「キャアアアア…!」
「ぐわああああ…!」
あちこちで悲鳴が上がる。
クツどころか足の裏まで
「くッ…!」
ティナ達は
「あ、ぐぅ…!」
着地と同時に足の裏に激痛が走る。
まるで焼けるようだ。
「すぐに見せろ!」
アンネが急いで手をかざし、
みるみる激痛が収まってきた。
だが、
「地面に降った雨を強力な酸に変えたのね…。
なんて
ティナは
関係の無い通行人達が何人も巻き
ほとんどの者は、もう足首近くまで無くなって、動けない。
酸に変わった雨が、地面すらもどんどん
「ホセさんとイヴァンさん!セレス達を探してきて!
急いで!」
ティナが
ビシュ!
ステファンが真っ赤な
ガキン!
「
ティナも風の
ガキガキン!
真っ赤な
「申し
私、
不運ですから、
不運ですからね。」
ミロスロフと名乗った真っ赤な
「かなりマズいわね…。」
「私が何とかするしかないか…!」
言いながら、ティナはフワリと空を飛び、ミロスロフに向かって行く。
「ロベルティナ
ステファンが
「
ティナが
ジュワワワワ…。
ミロスロフの真っ赤な
みるみるその上半身があらわになっていく。
「強力な酸が
ズバズバ!
ミロスロフの胸が大きく
「そうですよね?
そう来ますよね?
『酸があるんだから、
って。
ああ。不運だ。」
言いながらミロスロフは、自分の傷口からこぼれる青い血を、
そっと両手ですくい上げた。
「ですが、せっかくですから、あなたにもこの不運を分けて差し上げましょう。
せっかくですからね。」
ビシャッ!とミロスロフが自分の血を投げつける。
「うそ。」
ジュワワワワ…。
「いやああああ…!」
酸をまともに浴びたティナは、ぐらりと体勢を
「
ジュッジュッジュッジュッ…ザババババ…!
ステファンだ。
ティナが
ギリギリでスライディングしてキャッチすると、
「
ぬうん!」
とアンネに向かって放り投げる。
「ナイスだ!」
ガッ!とぶつかりながらティナを受け止めたアンネは、すぐに
だが、
「うああああ…!」
ティナは
ティナの顔が、まるで火傷を負ったように、ただれていく。
「くっ…!ダメだ!
まず酸を何とかしろ!
そいつを
アンネが
「でもあなた、
ミロスロフはステファンを右手で指差すと肩をすくめながら首をかしげ、
再び地面に両手を当てた。
と、
ステファンが一歩前進した。
さらに一歩前進した。
「ぐうぅ…。」
ステファンは歯を食いしばる。
さらにもう一歩前進した。
「何する気ですか?あなた。」
ミロスロフが言い終わると同時に、
ゴッ!
ステファンの右ストレートがミロスロフの顔面に
「…面白いですね。」
ミロスロフが地面に両手を当てたまま正面に向き直る。
ゴッ!
今度はステファンの左ストレートだ。
「…受けて立ちましょう。」
ミロスロフは再び正面を向く。
ゴッ!
「…でもヒザまで
ゴッ!
「…私とあなた、どっちが先に死ぬでしょうね?」
ゴッ!
「…ほら。」
ゴッ!
「…もう太ももだ。」
ゴッ!
「…そうやって仲間の身代わりになるなんて。」
ゴッ!
「…
ゴッ!
「…ヒーローのつもりなんでしょうけど。」
ゴッ!
「…どちらかというと。」
ゴッ!
「…ロウソクみたいですよ。あなた。」
ゴッ!
「…アハハハハ!」
ゴッ!
「…ああ。なんて不運な人生だ。」
ゴッ!
ゴッ!
ゴッ!
「おっ!」
ティナの火傷のようにただれていた
「でかした!解除された…ぞ。」
ピクリとも動かなくなったステファンは、
上半身だけで雨に打たれていた。
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