第19話 不自由のロジオン

ザーザーと雨が降り始めた。




一旦いったんこの広場をはなれるぞ!

 また無関係な通行人を巻きんでしまう可能性が高い!

 まずは、ティナ達と合流するんだ!」


ミリアが先に立って広場を東のほうへ走り出した。


ベリエッタ、フラン、レイがそれに続き、セレスも走り出す。


が、

ズリ!ズリ!ズリ!ズリ!…!


セレスは走っているはずだ。


なのに、前を走るレイからどんどん遠ざかっていく。


周りの景色も変わらない。


地面をろうとする足の裏がすべり、っても体が空中でもどっていくのだ。


前に進もうとしているのに、むしろ後退し始めた。


「(まただ!一体!?)」


ドタ!


セレスは背中側に転倒てんとうした。




「セレス!?」


レイが音に気づいてり返る。


セレスの体は仰向あおむけにたおれたまま、

どんどん頭のほうへとすべり始めた。


よろいかぶとが、雨でれ始めた路面をけずるように、

ガリガリ…!と音を立てる。


すべるセレスを見た通行人達は、びっくりして飛びのいていく。




「(バカな…!?どんどん加速して…!?)」




ゴッ!ゴンッ!ゴゴッ…!




何か大きな物が転がってくる音がした。




ゴガンッ!




セレスの体に、酒場で見かけるような大きなタルがぶつかってきた。




セレスはその下敷したじきになる。




「セレス!?大丈夫だいじょうぶか!?」


レイが、あしだけ見えているセレスにけ寄った。


ベリエッタとミリアもけつけて、タルを転がして救出する。


「うぅ…。」


セレスはうめいた。


「これは…。」


ミリアが険しい表情になる。


セレスの両腕りょううではおかしな方向へと曲がり、出血している。


ぶつかってきたタルから頭を守ろうとしたためだ。


「(タルに中身が入っていたら死んでいた…!)」


「セレス兄!?す、すぐ治すから!」


フランもけつけ、急いで治癒ちゆを開始する。




「ダメだ…。フラン…。げるんだ…。」


セレスがつぶやくように言った次の瞬間しゅんかん


ガリガリ…!


セレスの身体が再びすべり始めた。


「させるか!」


ガシッ!


レイがセレスの胴体どうたいに飛びついた。


だがセレスは止まらない。


「このっ…!」


ガシッ!


ミリアがセレスの左脚ひだりあしに飛びついた。


やはりセレスは止まらない。


「くっ…!」


ガシッ!


ベリエッタがセレスの右脚みぎあしに飛びついた。


ようやくセレスがわずかに減速する。


だが今度は、

ズガガガ…!ズガガガガ…!


という大きな音と、


「う…、うわああああ…!?」


という男性のさけび声。


「キュー!?キュー!?」


という鳴き声が広場からひびいてきた。




鳥車だ。


大型ワゴンタイプの鳥車が後ろ向きにすべって来た。




ガリガリガリガリ…!




ズガガガガガガガ…!




ゴ ド ン ッ !




「セ、セレス兄!?いやああああ…!」




フランの悲痛なさけび声がひびいた。




そして、




「おっと。

 自己紹介しょうかいするのをすっかり忘れてたぜ。

 オレは不自由アケプドルスのロジオン。」


タウンクライヤーの魔族まぞくが勝ちほこったように言う。


その左腕ひだりうでには、いばらを模したような禍々まがまがしいがらの刻まれた、

赤銅色しゃくどういろをした腕輪うでわがある。




「そうか。」


その背後でベリエッタが言った。




ドスン!




「あれ…?おかしいな…?

 まとめて死んだと…思ったのに…よ…。」


ベリエッタのけんで背中から胸をつらぬかれたロジオンはそう言うと、

そのまま動かなくなった。




そして、




セレスは生きていた。




フランによる治癒ちゆが間に合い、両腕りょううでの骨折も治っていた。




頭は少しぶつけたが、鳥車もすでに止まっている。




つぶされずに済んだのだ。




代わりにレイがつぶされたから。




「うわああああ…!?」


セレスはさけんだ。


すぐに立ち上がり、ミリアと共に懸命けんめいに鳥車をした。


ベリエッタもけつけ、鳥車をしのける。




レイの胴体どうたいは、よろいごとつぶされていた。




その口からは、おびただしい量の血をいている。




「レイ!?レイ!?」


セレスは、レイの上半身をき、さぶる。




「ダメだ!動かすな!

 よろいをすぐにがせろ!」


ミリアが叫び、セレスは急いでレイのよろいの留め具を外す。




「…セ…レス?」


レイがつぶやいた。




大丈夫だいじょうぶだ!

 フラン!急いで治癒ちゆしてくれ!」


セレスがさけぶ。


フランがけつけると、すぐさまレイに手をかざす。




「君と…旅が…できて…、幸せ…だった…よ…。」


レイが言う。




大丈夫だいじょうぶだ!フランがいるんだ!必ず助かる!大丈夫だいじょうぶだから!」


セレスがさけぶ。




フランは、なみだを流しはじめた。




「…フラン?」


セレスは、フランをり向いた。




フランは泣きながら、それでも、いつまでもいつまでも、手をかざし続けた。




雨も、いつまでもいつまでも、降り続けた。

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