第18話 キャスデラックにて

翌日。


セレス達とテオドロ船長をふくめた乗組員の一行と、

先に流れ着いていた一行は、

村の造船所近くの海岸に集合していた。




セレス達の一行はラーヤレーナ国へ、

先に流れ着いていた一行はインシュラ国へそれぞれ出航するのだ。




治癒ちゆ術を教えてくれてありがとね!

 お姉ちゃん達!」


クオラが言う。


フラン達とすっかり仲良くなったようだ。




「旅のご無事をおいのりいたします。」


祈祷きとう師がいのりの儀式ぎしきをして、いよいよ出航である。




「ありがとう!」


「気をつけてな!」


「がんばれよ!」


ティティク村長やクオラ、村人達がみんなで手をってくれる。




を張り終えたセレス達も、手をり返す。




村人達は、いつまでもいつまでも手をってくれた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







六日後。


早朝にセレス達一行の船は、

ラーヤレーナ国のキャスデラックという港町に到着とうちゃくした。




マルコやテオドロ船長達とは、ここでお別れだ。




「命を助けてもらっておいてなんですが、あなた達はいい疫病神やくびょうがみでしたよ。」


マルコが捨てゼリフをくと、


「お前の主人によろしく言っておいてくれ。」


とミリアも返した。




そして、




「次の目的地だが、ラーヤレーナの北東に位置するムトナシア国を目指す。

 だが、その前に…。」


ミリアはセレス達を見渡みわたすと、


「一週間以上も世間から隔離かくりされていたし、

 世界情勢がどうなったかチェックしておきたい。

 町の中心にある広場のほうまで情報収集に行く者と、

 町の東側にある鳥屋で鳥車を買ってくる者にメンバーを分けよう。」


と提案し、


「ティナ、金を多めにわたすから、

 ステファン、アンネ、ホセ、イヴァンと一緒に

 鳥屋で駆鳥くちょうと鳥車を買ってきてくれ。

 その後は食料の買い出しもたのむ。

 …あっ。あればテントも買っておきたいな。

 セレス、フラン、レイ、ベリエッタは、私と一緒いっしょに広場へ行くぞ。」


とメンバーを分けた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







セレス達が広場に近づくと、

カランカラン…とベルの音がひびいた。


タウンクライヤー。


すなわち、王宮からのおれや公報などの情報を、

町の人々に伝える役人がいるらしい。


何やら大声でさけんでいるが、

少し距離きょりがある上に、聴衆ちょうしゅうも多くあまり聞き取れない。


「ちょうどいい。

 あのタウンクライヤーに聞いてみるのが早そうだな。」


ミリアが指差したほうをセレスが見やると、

なんとタウンクライヤーは魔族まぞくではないか。


「えっ?あの魔族まぞくに聞くんですか…?」


セレスはあまり気乗りがしない。


「仕方ないだろう。人族の国で魔族まぞくが役人になるのも、今や当たり前の時代だ。」


ミリアはかたをすくめて、セレスをタウンクライヤーのほうへうながした。




セレス達がタウンクライヤーの近くまで行くと、

ちょうどタウンクライヤーの公告が終わってしまったようだ。


セレスが解散していく聴衆ちょうしゅうの間をって近づき、


「すみません、ちょっといいですか?」


とタウンクライヤーの魔族まぞくに声をかける。


「ん?何だい?今の公告に何か質問かい?」


タウンクライヤーの魔族まぞくり返る。


一目でタウンクライヤーだと分かるようにたけの長い派手な衣装を着ていて、

こしにはベルを下げている。


「あまり聞き取れなかったんですが、

 ナルグーシスがどうなっているかの情報はありますか?」


セレスがたずねると、タウンクライヤーは


「ああ。クーデターのことかい?

 それならちょうど昨日、あっちにり出したよ。」


とセレスのかたつかんでグイと動かす。


セレスはそれに従って向きを変える。


大きな宿屋の建物が見えた。


宿屋の前には、これまた大きな掲示板けいじばんがあり、

確かに公報らしき紙が何枚かられている。


「確認してみます。ありがとうございました。」


セレスが礼を言うと、


「いえいえ。冒険者ぼうけんしゃかい?

 お若いのに世界情勢に興味があるなんてえらいね。」


とタウンクライヤーはニコニコしながら言った。




セレスはミリア達の所へ戻り、


「あそこの宿に貼られているそうです。」


と報告した。




そして、




「…ああ、これだな。なになに?

 『ナルグーシスの国王マクシミリアン、並びに王族関係者が、

  隣国りんこくトルネオへと亡命。

  これを知ったナルグーシスの人族と魔族まぞくが、

  ルヴィアやトルネオへがれようと関所に殺到さっとう

  関所および周辺の町では、これらの難民による混乱が続いている。』

  だと!?」


ミリアが、公報の記事を読み上げておどろきの声を上げる。


「…確か、我々が出発する前に、

 周辺国からの軍事介入かいにゅうが増強されるという話があった。

 クーデターを鎮圧ちんあつする国王側が増えたはずなのに、

 国王側のほうが国外にげただと?

 一体どういうことだ…?」


ミリアは、アゴに手を当てて考えむ。


「もしかしたら、私に魅了みりょうのろいをかけた魔族まぞくや、

 他の能力を持つ魔族まぞくが、鎮圧ちんあつ軍に何かしたのかもしれないな…。」


ベリエッタもアゴに手を当てる。


「なるほど。有り得ますね。」


セレスがうなずく。


「しかし、この記事だけでは何とも言えないのでは…?」


レイは慎重しんちょうだ。


「そうだな…。

 念のため酒場のほうでも情報収集はするが…。」


とミリアは言いながらセレス達を見渡みわたし、


「ムトナシアに行けば、王宮で直接情報が得られるはずだから、

 まずはひとまず、ムトナシアを目指そう。

 私はムトナシアの国王とは顔見知りだからな。」


ミリアが言う。


「さすが。お顔がお広いんですね。」


レイがそう言ったその時だった。




不意に、グインとセレスは後ろに体勢をくずした。


自分で体を動かしたわけではないし、

だれかにさわれられたわけでもない。


だが、ひとりでに体が引っ張られたのだ。


「!?」


びっくりしながらも、セレスは片足を引いて姿勢をもどそうとする。


ドン!


「いってえな!」


後ろにいた通行人にぶつかってしまった。


「あっ、すみません…。」


言いながらセレスはん張ったまま後ろをり向く。


「(どうなっているんだ?

  まるで、急に地面がかたむいたみたいに…!)」


見えている景色と体にかかる力が食いちがっているので、

グラグラとセレスの姿勢は定まらない。


しかも、だんだんかかる力が強くなっているようだ。


「なんだあ?フラフラしやがって。

 っぱらってんのか?この野郎やろう。」


みょうな動きをしてしまっているセレスに通行人の男性はおこり出す。


「…どうしたセレス?」


セレスの異変に気づいたミリアがセレスに声をかける。




次の瞬間しゅんかん




ドスン!


「ぐえ!」


男性の胸からやいばが生えてきた。


背後からけんされたのだ。




「キャアアアア…!」


フランが悲鳴を上げる。


セレスもおどろき、飛びのこうとするが、姿勢がまだ定まらない。


そこにけん先端せんたんが、ジワジワとせまっている。


「あが…!あががが…!」


男性の胸元は、ジワジワと赤く染まる。


「(おかしい。)」


男性の背後には、だれも立ってはいない。


なのに、ひとりでにけんが動いているのだ。


男性はけんに引きずられるように前進し、

けん先端せんたんがついにコツンとセレスのよろいれた。


その瞬間しゅんかん、男性とセレスは解放された。


懸命けんめいん張っていたセレスは、

今度は逆に背中側にたおんでしまう。


けんに寄りかかるように立っていた男性も、

力無くドサリと前にたおんだ。


ちょうど、たおれたセレスに乗っかる形だ。


カキン!


再びけんがセレスのよろいれて、小気味いい音を立てた。




「セレス!?大丈夫か!?あなたも!」


レイがセレスと男性にけ寄る。


「…ああ、ぼくは大丈夫。ケガは無いよ。

 だけど今、何かに引っ張られるように動けなくなったんだ…。」


セレスが言い、一緒いっしょたおれた男性のほうを仰向あおむけにする。


ゴロン。


男性はすでに死んでいるようだ。


目と口を開いたままピクリとも動かない。




「周囲に気を配れ!」


ミリアがさけび、セレス達はぐるりと周りを見回す。




だが、通行人もさわぎに気づいて立ち止まった者も多すぎる。


キャスデラックは港町。


それもここは町の中央の広場だ。


働く人族も魔族まぞくもせわしなく行き来している。




セレスは立ち上がり、自分の全身を確認してみる。


今は異常は無い。


ロープや糸のような物を付けられたというわけでもなさそうだ。


「(何かの能力なのは確かだ…。)」

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