第17話 キュロスにて

会議室のテーブルに並んだ料理は、セレス達だけではとても食べ切れないので、

テオドロ船長達や先に流れ着いた一行も交えて、ありがたくいただいた。


村人達も何人か料理や酒類を持ち寄って飲み食いし始め、

ステファンが村人に早食い勝負をいどまれたり、

アンネが持っていた酒と村人達の酒とを交換こうかんして飲んだりと、

最終的には宴会えんかいのようになった。







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食事を終えたセレス達は、ティティクの案内で島の南側へ移動する。




キュロスと呼ばれる川の上流が見えてきた。


と、

様子が何だかおかしい。


川の表面からはモワモワとけむりが。


いや、湯気が上がっている。


「これは…。」


セレスがおそおそる水面をさわってみる。


熱い。


「お湯ですね?」


セレスがティティクをり返りながらたずねると、


「そうじゃ。

 ここには温泉がき出とるというわけじゃ。」


とティティクはニカッと笑い、


脱衣所だついじょもほれ、少し下ったそこにあるから使ってくれ。

 女性が上流のほうの建物じゃぞ。」


と指差した先には、確かに二つの建物がある。




セレスはレイ、ステファンと共に下流のほうの建物に入る。


建物の中はカゴのような物が並べてあるたながあり、

そこにいだ衣服を入れておくようだ。


身体をく布やバスローブのようなものも、しっかり置いてあった。




大自然の中で全裸ぜんらである。




開放感がものすごい。




だが、何となくセレスは布を巻いて下半身をかくしていた。




「ハハハハ…。

 セレス、どうしてかくしているんだい?

 ずかしがることなんてないさ。」


レイが笑いながら言うが、


「いや、何となく自然に対して失礼な気がして…、ハハハハ…。」


とセレスは愛想笑いを返し、そのまま川にかった。




とても温かい。


途中とちゅうで立ち寄った町やエイレントの宿でも入浴はできたが、

断然こちらのほうがつかれが取れている感じがした。




上流のほうをチラリと見る。




木の板でかべのような物が作られていて、見えないようになっていた。




が、

キャハハハ…とフランの笑い声がひびいてくる。




ティティクが、


「ワシは会わせたい人間を呼んでくる。

 そのままリラックスして待っといておくれ。」


と言い、どこかへ歩いて行った。




「ミリアさんもティナさんもお胸大きいよねー!

 あっ!ベリエッタさんもかなり!」


フランが大声を出す。


セレスは頭をかかえたくなった。


レイとステファンは、ククク…と笑いをこらえている。


「セレスは、かなり私やミリアさんの胸に視線が来てるわよね。

 きっと大きいのが好きなのよ。」


ティナが、なぜか得意気に語っている。


セレスは死にたくなってきた。


「(この布では少々短い。

  どこかに首をるのに手頃てごろなロープはないだろうか?)」


「まあ大抵たいていの男というのはそういうものだ。

 女同士でも、けっこう私の胸をジロジロ見る者はいるしな。」


とミリアはフォローのような、そうじゃないようなコメントだ。


「大きいのが好きなら、私にもチャンスがあるということか。」


ベリエッタの声だ。


「えっ!?ベリエッタさんもセレス兄のことを!?」


フランがまた大声を出す。


「いや、かれには限らないが。

 ただ、私から君を助けようとした時のかれ

 あれは勇敢ゆうかんだったぞ。」


「(いいぞ。ベリエッタ。その調子だ。)」


「ちょっと静かにしやがれ。

 どうすればこの島にトレトス教を布教できるか考えてんだ。」


っぱらっているアンネは、全然話を聞いていないようだ。


のぼせないように気をつけてほしい。




「でもミリアさん、本当スタイルもいいし美人だしいいわよね。

 モテるでしょう?」


ティナが言う。


「こらこら。行きおくれをそんな風にからかうもんじゃないぞ。フフフ…。」


ミリアが笑う。


「おはだもすごくきれいだもんねー。

 あの川で一緒いっしょてたのに、虫刺むしさされもなさそうだし。」


フランが不満げに言うと、


「虫がきらにおいのする香油を使っているからな。」


とミリアが言った。


「何それ!?ずるい!私も欲しい!」


フランが要求する。


「あー。あのスッとする香りね。

 『どこの香水だろう?』

 って思ってたのよね。

 私も欲しいわ。」


ティナも同調する。


「無事に帰れたら分けてやるよ。フフフ…。」


ミリアは笑った。




「しかし、大層な手のひら返しだったな。村のかれらは。」


ベリエッタが言う。


「おお、そうだ。ケガ人は何人くらいいたんだ?」


ミリアがたずねる。


「大人の男の人ばかり二十人よ。みんな大ケガだったわ。」


フランが答える。


「オレ様の出番は無かったぜ。」


アンネだ。


うと一人称いちにんしょうまで変わるらしい。


「そうかそうか。

 フラン。よくやったぞ。」


ミリアが言う。


「えへへ…。

 ミリアさんがめてくれるのめずらしいね。」


フランが照れたように言うと、ミリアは


「そりゃあそうさ。

 本来は気難しい連中だからなかれらは。

 ドワーフ族だぞ。」


と言った。


「えっ!?」


フランとティナとアンネがおどろく。


「やはりそうか。」


ベリエッタは納得したように言った。


「と言っても、あの村長が良くてハーフかクォーターというところだろうな。

 もうほとんどの村人は、普通ふつうの人族と変わらないだろう。

 三百年前の大戦の時、洞窟どうくつや鉱山を好んで住んでいたドワーフ族の大半は、

 魔族まぞくにやられてしまったからな。」


とミリアが付け加えた。




と、

ザッザッザッザッ…とだれかがセレス達のところへ走ってくる足音がした。


セレスは音のほうをり返る。




やたらそでの長い、真っ白な民族衣装を着た、

フランよりやや高い背で色黒な、かわいい感じの少女がいた。


「あなた達ね!?私と勝負したいっていう精霊せいれい使いは!?

 今すぐ勝負よ!絶対に負けないんだから!」


と息を切らせながら、その少女がさけぶ。




「…えっ?」


とセレスが言うのと、少女が


「先手必勝!超渦巻きハイパースクリュー!」


さけびながら両手のひらを前に出したのは同時だった。




ザッブーン!と川のお湯が激しく回転を始めたかと思うと、

ブシュ―!と上向きに打ち上がった。


セレス、レイ、ステファンはその勢いで宙をう。




ズデーン!


ステファンは、川原の砂地に落下した。




バシャーン!


レイは、川の下流のほうに落下した。




バシャーン!


セレスは、川の上流の女性じんの目の前に落下した。







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「本当にすまん…。

 クオラは、昔から全然話を聞かない孫でな…。

 しかも血の気が多くていかん。」


ティティクが耳の後ろあたりをポリポリかきながら謝った。


クオラと呼ばれた少女は、その横でふてくされているが、


「ほれ。お前も謝らんか。」


とティティクに言われると、


「…勘違かんちがいで攻撃こうげきしちゃってごめんなさい。」


と謝った。




セレスはというと、バスローブを羽織った女性じんの前に正座して、

頭を下げさせられている。


ちかって言います。何も見てないです。」


セレスが言う。


「(事実だ…。)」


「などと被告人ひこくにんは供述していますが、どうしますか?

 ティナ裁判長?」


フランが言う。


「見てないってのも、それはそれで失礼な話よね。

 死刑しけいよ。

 ウフフフフ…。」


ティナが判決を下し、笑い出す。


「(ひどい話だ。減刑げんけいを求めたい。)」


「トレトス教的には死刑しけいはアウトだぞ。終身刑しゅうしんけいだな。」


アンネが言う。


「(それもほとんど死刑しけいじゃないか。)」


「私は別に見られても構わんがな。」


とベリエッタは言うが、


「間を取って、むち打ちのけいというのはどうだい?」


とミリアが楽しそうに言う。


「(ミリアさんならやりかねない。)」




「すみません、そろそろお開きにして治癒ちゆしていただけると…。」


ステファンが助けぶねを出してくれる。


かなりの高さから砂地に落下したステファンは、

額をザックリ切って流血していた。


「あっ、はいはい。」


フランがけ寄り、治癒ちゆをしてやる。


あっという間に傷がふさがった。


「えっ!?すごい!」


クオラがおどろく。


「そうじゃろう?

 村の男どもの大ケガも、ぜーんぶ彼女かのじょ治癒ちゆしてくださったんじゃ。

 お前とそうとしも変わらんだろうに。

 たのむからお前も、攻撃こうげき術ばかり練習してないで、治癒ちゆ術も練習してくれんか?」


ティティク村長がクオラに言いふくめるように伝える。


「なるほどね。そういうことか。」


ミリアがうなずくと、ティティクもうなずき


「水の精霊せいれい使いは本来、治癒ちゆもできるはずなんじゃ。

 現にワシの祖母がやっておったしな。

 そこで、この子の治癒ちゆ術の練習を手伝ってもらいたいという相談じゃ。」


と言った。


「確かに。水の賢者けんじゃイガラシも、活性治癒ちゆは得意とするところだな。

 この子が治癒ちゆもできるようになれば、村人達は安心だろう。

 その相談、け負うよ。

 フランとアンネも手伝ってくれるよな?」


とミリアが言うと、フランは、


「分かったわ。」


と言って大きくうなずいた。


アンネも同様だ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







翌日。


ミリアは、フランとアンネと共に、

クオラに治癒ちゆのやり方を教えに行った。


治癒ちゆの練習台として体力のあるステファンも同行している。


ミリアがナイフでかれにケガをさせて、それを治癒ちゆするんだそうだ。


クオラは、普段ふだんはキュロスの上流にある建物で、

ニブ様が噴火ふんかしないよういのりをささげたりお供え物をしたりする巫女みこなのだという。


村の十五さい以上の女性の中で、最も若い者がその役をやる決まりらしい。




村の製鉄や刀剣とうけんの作成、造船は、さすがに素人では手伝えないということで、

武器もないセレス、レイ、ベリエッタと、

ティナ、ホセ、イヴァンを交えたチームは、

ラバール川の下流近くに、木炭を製作する手伝いに来ていた。




木炭のかまどは、丸く一周囲んだかべのようなものだけが設置されていて、

木こりのリーダーが木炭の製作方法を教えてくれた。




まず、切ってきたやわらかい木を、二、三週間ほど乾燥かんそうさせる。


乾燥かんそうさせた木を、かまどにかせて入れる木と立てて入れる木に分ける。


立てて入れる木は、かまどの高さより若干短い長さに切りそろえる。


立てて入れる木はさらに、こぶし程度の太さになるようおの薪割まきわりのように割る。


かまどにかせる木を最初にゆか部分の長さに合わせて切りながら並べていき、

その次に立てて入れる木をおくから順番に並べ、

最後に再度かせる木を天井部分に並べていく。


ゆかの近くと天井の近くは、あまり良い木炭にならないのだそうだ。


木を並べ終わったら、レンガと粘土ねんど

空気が通る穴を真ん中に残して、かまどの天井をふさいでいく。


天井をふさいだら、かべに一か所だけ開いている、たき口と呼ばれる穴から火を入れる。




火を入れる作業も、素人では手伝うのは難しい上、

三、四日かけて行われるということで、

セレス達は乾燥かんそうできている木を使って、かまどの天井をふさぐまでの工程を手伝った。


かなりの人数で作業したが、二つのかまどを準備するのにほぼ一日がかりの作業だ。




「おつかれさん。助かったよ。

 後は火を入れるだけだ。

 その作業は、村人でしっかりやるからな。」


木こりのリーダーが言った。







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日も暮れたころ、ティティクに呼び出された。


けん再刃さいばが完成したそうだ。


セレス、レイ、ベリエッタ、ステファンは早速けんを受け取る。


ティティクは、


「ついでに試しりしていくか?」


と、村の外にワラで作った的を用意してくれた。




いつもの感覚でけんってみる。




スパン!




おどろくほどれるようになっていた。


以前は、たたつぶすようなイメージで当てながらでないとれなかったものが、

表面をなでるだけでれるようになった感じである。




四人は顔を見合わせて笑い出す。




ティティクや周りにいた村人達も、それを見て満足気にニコニコしていた。

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