第14話 利己のキールと恐怖のマカール

「ようやく当たりの船を引いたな。

 マカール、今度はよくねらえよ?」


キールが肩車かたぐるまされた姿勢のまま前かがみになり、

ポンポンとマカールのかたの辺りを右手のひらでたたく。




マカールが海面に一瞬いっしゅん引っんだかと思うと、


「フンヌ!」


ザバッ!とキールを空高く放り投げた。




キールは空中で体を丸めて回転しながら、

ジャキッ!と全身からトゲを生やす。




「ステファン!」


ベリエッタがさけぶ。


と、

セレスはドン!と体当たりされた。




ズ ガ キ ィ ン !




セレスに体当たりしたステファンにキールが命中する。


ステファンがセレスをかばったのだ。


「ぬあ!?」


ズダダン!


ステファンは甲板かんぱんの反対側のほうまではじき飛ばされる。


キールの落下で手すりと甲板かんぱんの一部が破壊はかいされた。


ミリアが、


紅蓮の投擲槍クリムゾンジャベリン!」


り出す。


ボゴッ!


ほのおやりが命中したが、トゲとからおおわれたキールは動じない。


風刃ウィンドブレード!」


今度は、ティナが風のやいば攻撃こうげきする。


ズバズバ!


命中したが、これにもキールは動じない。


「フッ!ハッ!」


ベリエッタが目にも止まらぬ速さでトゲにりかかる。


ガキガキィン!


トゲにも傷一つ付かない。


「ハハハァ!効かねぇぜ!」


ジャキッ!タタタターン…ドボーン!


トゲを引っめたキールが再び海中に姿を消す。


ステファンにかばわれた際に転倒てんとうしたセレスは、ようやく起き上がる。


「ステファン無事か!?」


ベリエッタがさけぶと、ステファンも、


「ゲホッ…!何とか…。負傷はありません…。」


と言いながらヨロヨロ立ち上がる。


おそろしくかたからとトゲ…。

 ソリアード国一のけんも通用しないとは…。

 厄介やっかいだな。」


ミリアがつぶやく。


「あっちのマカールとかいう魚人マーマンねらうのはどうだ?」


ベリエッタがミリアを見る。


「やってみよう。」


ミリアがうなずく。




ザバッ。




再びキールとマカールが海面に姿を現した。




「ハハハァ!次は外さねぇ!」


キールが笑う。




目潰しフラッシュ!」


カッ!


セレスが左手から強烈きょうれつな光を放つ。


「なっ!?」


キールとマカールはたまらず顔を背けた。


すかさずミリアが、


紅蓮の投擲槍クリムゾンジャベリン!」


り出す。


ボゴッ!


「熱っ!」


胸に命中したマカールが体勢をくずし、キールが後ろに落下する。


ドボン。


マカールは、体表面が海水にれているせいか燃えはしなかったが、

ベリエッタはそのすき見逃みのがさない。


左手をかざすと、


ビュオン!


マカールの真上に瞬間しゅんかん移動して、マカールに乗っかる。


「食らえ!」


真下に向けたベリエッタのけんが命中する瞬間しゅんかん


雷撃サンダーショック!」


バチバチバチバチ…!


マカールの全身が激しく光り、火花が飛び散った。


「ぐわああああああ…!?」


ベリエッタがのけぞり、けんは届かない。




ヒュドッ!


「痛え!」


マカールの右肩みぎかたに矢がさった。


ステファンだ。


雷撃サンダーショックが止まる。


ビュオン!


「うぐぐ…。」


解放されたベリエッタが甲板かんぱんもどり、ドサリとたおむ。


「平気か、ベリエッタ!?」


セレス、ミリア、ステファンがけ寄る。




ザバッ。




「プハーッ!

 うぉい!マカール!てめぇ!

 ビリビリにオレを巻きむなっていつも言ってんだろ!」


キールがポカポカと下にいるマカールをたたいている。


「た、たたかないで…!キールの旦那だんな!謝るから!」




魔族まぞくにも効く毒を矢にっていたんですが、

 あの魚人マーマンは平気のようですね…。」


ステファンがつぶやくくように言う。




ガクン!


突然とつぜん船が傾いた。


甲板かんぱんななめになり、積まれた木箱がくずれながら横滑よこすべりしはじめる。


「チッ。マズいな…。

 最初の一撃いちげきで船底に穴でも空けられていたか…。」


ミリアが舌打ちしながら言う。


「ティナ!キールの落下位置をずらせるか!?」


セレスがさけぶ。


「!

 やってみるわ!」


ティナが応じた。


「フンヌ!」


マカールがキールをセレスの頭上へ放り投げ、

キールは全身からジャキッ!とトゲを出す。




減速ヘッドウィンド!」


ティナが風を巻き起こす。




ズ ガ ン !


キールが甲板かんぱんさる。




セレスは間一髪かんいっぱつでキールを回避かいひし、


「タァッ!

 トォッ!

 ハァッ!」


と光の魔力マナに包まれたけんを素早くり回した。


バキィ!

ベキィ!

ボキィ!


キールの左太もも辺りのトゲが次々と折れ飛ぶ。


折れたトゲは、灰のような色になってサラサラとくずれていく。


「(光の魔力マナは有効だ!)」


「何ぃ!?」


キールがジャキッ!とトゲを引っめ、げようとする。


がすか!」


ガシガシィ!


ベリエッタとステファンがキールに飛びかかり、組み付いた。


「クッ…!邪魔じゃまだぁ!」


ジャキッ!ドスドスドス!


キールが再びトゲを出す。


ベリエッタとステファンは大きくはじき飛ばされる。


が、

先ほどセレスが折った左太もものトゲは、折れたままだ。


ドスン!


セレスはその部位に思いっきりけんした。


「ぐあっ!?」


キールが声を上げる。




炸裂ブラスト!」


ドパァン!


セレスが剣先けんさき爆発ばくはつを起こした。


「があああぁっ…!」


キールの左脚ひだりあしが根元からき飛んだ。


傷口とちぎれ飛んだ左脚ひだりあしは、灰のような色になってサラサラとくずれ、

青い血がき出す。


血を甲板かんぱんにほとばしらせながら、キールが転がった。


旦那だんなぁ!?」


マカールが海面から姿を出し、さけぶ。


ジャキッ!


キールが再び丸まってトゲで身を固める。




「うぐぐ…。

 おい!マカール!オレはもうだめだ!

 …だが、救命ボートをねらえ!

 救命ボートをこわしちまえば、こいつらは泳ぐしかねぇ!

 お前だけでもきっと勝てる!」


キールが丸まったままゼェゼェ言いながらさけぶ。


セレスは、そのキールのかたの辺りのトゲをバキィ!ベキィ!とけんで折る。


「そんな!?オイラが今助けるよ!」


マカールは涙目なみだめだ。


「ダメだ!

 救命ボートをねらえ!」


キールが再びさけんだ時、




断罪ジャッジメント!」


セレスが目にも止まらぬ速さでけんり下ろした。


カッ!


かみなりが落ちたように一瞬いっしゅん辺りが明るくなり、次の瞬間しゅんかん


ズバッ!


と切断音がひびく。




キールの首が飛んだ。




「だ、旦那だんな!?

 うそだ…。

 う…、うわああああ…!」


マカールがさけんだ後、海面に一瞬いっしゅん引っんだかと思うと、




ザバッ!




勢いよく飛び出した。




ねらいは救命ボートだ。




雷撃サンダーショック!」


バチバチバチバチ…!




「(かみなり防御ぼうぎょしながら体当たりするつもりか!?)」




加速テイルウィンド!」


ティナが風を巻き起こした。




ズ ダ ン !


「ぐえっ!」




マカールは救命ボートを飛びし、甲板かんぱん激突げきとつした。




その下半身は、完全に魚のそれだ。




どうやらうまく起き上がれないらしく、ジタバタしている。




だん…。」


ようやくマカールがキールのほうをり返った。




キールの体はすでに灰になっていた。




「あ…ああ…。うっ…ううっ…。」


マカールは泣き出す。




紅蓮の花クリムゾンフラワー!」


ミリアがつえき出すと、激しいほのおがマカールを焼いた。




「すまねぇ…。旦那だんな…。

 オイラ、やっぱりあんたがいないとダメだったよ…。」




マカールが動かなくなると、ミリアはほのおの出力を止めた。


甲板かんぱんまでプスプスと焼けげている。




「ベリエッタさん!ステファン!」


セレスがけ寄ると、キールのトゲにはじき飛ばされていた二人は立ち上がる。


よろいを着ていたおかげで命に別状は無いようだ。




「この船はもうダメだ!

 みんな、食料を持てるだけ持て!

 救命ボートを出すぞ!」




一部始終を操舵室そうだしつから見ていたテオドロ船長が、甲板かんぱんに出てくるなりさけんだ。

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