第15話 カヴェドにて

手漕てこぎの救命ボートにぎゅうぎゅうめで乗りんだセレス達と乗組員達は、

夕日を背にしずみゆくロイダヤ号を見守っていた。




ヒューゴの代理人であるマルコは、


「積み荷をいくつか救命ボートに乗せられないか!?」


とテオドロ船長にせまっていたが、


「無理だ。あきらめてくれ。」


とキッパリ言われると、ガックリとかたを落としていた。




「それで、どこに向かう?

 エイレントまでもどるのか?」


ミリアがテオドロにたずねる。


「いや、あそこに島が見えるだろう?」


テオドロが南のほうを指差すと、

中央に高い山のあるほぼ左右対称たいしょうの島が一つかんでいた。




「あそこは、ニブロセルという島だ。

 製鉄や刀剣とうけん作りが盛んなカヴェドという村があって、

 国としてはインシュラ国に属するんだが、

 エイレントにも時々あそこから船が来ていた。

 大陸にもどるよりずっと近いし、ひとまずあそこを目指すぞ。」


とテオドロが言った。


「ニブロセル…。」


ベリエッタがつぶやいた。


「何か知っているんですか?」


セレスがたずねる。


「いや…、

 『聞いたことがある地名だな。』

 と思っただけさ。

 何でもないよ…。」


ベリエッタは首を横にった。







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夜もけたころ、ようやく一行はニブロセルの砂浜すなはまに降り立った。




オールをぎ続けたセレス達のうでは、疲労ひろうでパンパンだ。


大陸にもどっていたらとても体力が持たなかっただろう。




たいまつを持ったテオドロが先陣せんじんを切って砂浜すなはまから岩場にけ上がり、


だれかいるか!?」


と声を上げる。




返事は無い。




テオドロは辺りをキョロキョロと見回すと、


「東のほうに明かりが見えるな。

 おそらくあれがカヴェドだろう。

 足場が悪いから注意しろ。」


と言い、歩き出した。


みんなもたいまつを手にテオドロに着いていく。







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カヴェドの村はかなりの大きさの集落だった。




セレス達が村へ近づくと、

インシュラ国の本土から派遣はけんされたのであろう二人の兵士が、

たいまつとやりを手にやってきて、


「ここで何をしている?」


たずねてきた。


「ラーヤレーナ国へ向かう途中とちゅう、近くの海で魔族まぞくおそわれ、船がしずんだ。」


という内容をテオドロが伝えると、

兵士達は、


『またか。』


という表情で顔を見合わせ、


「村長にもあいさつしてもらいますが、

 しばらくは野宿を覚悟かくごしておいてください。」


と言い、セレス達は村の中へ通された。







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「ふむ。またか。」


ティティク・イヴェフと名乗った村長は、

そう言うと大きなあくびをした。


白髪しらがに白い眉毛まゆげ、白い口ひげとアゴひげがあり、

背は小柄こがらだがガッシリとした体格だ。


同じく白髪しらがに白い眉毛まゆげ小柄こがらな女性、

ドレイスと名乗ったティティクの妻とテーブルに着いている。


セレス達一行はカヴェド村にある、

広い会議室のような建物に通されていた。




「実は村の男達も何人もその魔族まぞくおそわれていてな…。

 さらに、おとといも同じ魔族まぞくおそわれたという一行が流れ着いとるんじゃ。」


と耳の後ろあたりをポリポリかきながらティティクが言った。


「船はしずみましたが、その魔族まぞくたおしました。ご安心ください。」


セレスが言うと、


「なんと!?」


ティティク達は目を見開いておどろく。


「だから、船さえあればもどれるんだ。

 金なら出すから船を売ってくれないか?」


ミリアが言った。


「うーむ…。」


ティティクは考えむような顔をし、


「船はあるにはあるんじゃが、大型のは二隻にせきしか残ってなくてのう…。

 金はいらんから、先に流れ着いた一行と一緒いっしょに、

 次の船の建造に使う材料を集めるのなんかを手伝ってくりゃせんか?」


と頼んでくる。


「と言うと?」


ミリアがたずねる。


「つまり…、

 その二隻にせきを持っていかれると、

 ワシらやこの兵士達がインシュラや海外に行くのに使う船が残らんのじゃ。

 おまけに村の男達の船がやられた時にケガ人や死人が何人も出ていてな。

 次の船を作ろうにも、村の仕事をこなそうにも、人手が足りてないんじゃ。」


ティティクが説明した。


「そういうことなら力になろう。

 それと…、ケガ人ならこちらにおられるお方達に任せてみてくれないか?」


ミリアはそう言うと、フランとアンネをり返った。


「ふむ?治癒ちゆ士ということか?

 ならば助かるが、その前に…。」




ティティクがゴソゴソとペンと大き目の紙を用意すると、

テーブルの上にその紙を広げた。


「まず、このニブロセル島は、ほぼ丸い形じゃ。」


ティティクが紙に丸をえがきながらそう言い、

さらに丸の中心でYのような状態になるように、三本の直線でその丸を区切った。


「島の中心にはニブ様。つまり、火山がある。」


ティティクが三本の直線がYになった部分を指でトントンとたたく。


「そして今いるこの村、カヴェドが島の北のここじゃ。

 他に村は無い。」


ティティクがYで区切られた上のエリアを指でトントンとたたいた。


「そして、この三本の直線はそれぞれ川じゃと思ってくれ。

 西のビーブ川は、生活用水として使っておる。」


ティティクがYの左上の直線をなぞりながら言う。


「東のラバール川は、製鉄の素になる砂鉄を土砂から取り出す設備がある。」


ティティクがYの右上の直線をなぞりながら言う。


「南のキュロス川は島では神聖な場所じゃ。

 よそ者は決して川が見える距離きょりまで近づかんことじゃ。

 場合によっては罪人としてあつかう。」


ティティクがYの下の直線をなぞりながら言い、こちらをジロリと見つめた。




「…次に、島で注意すべき生き物についてじゃ。

 ビーブから西には、タッオテがおる。

 体は大きくて、海を泳いで魚を食ったりはするが、

 人には害は無い。

 ただし、群れの子供を守るためなら攻撃こうげきしてくる。」


ティティクがYで区切られた左のエリアを指でトントンとたたいた。


「ラバールから東には、ヴォイジドやクファッナがおる。

 肉食で、人がおそわれることもある。」


ティティクがYで区切られた右のエリアを指でトントンとたたいた。


「毒ヘビと大型のトカゲです。」


と片方の兵士が付け加えた。


ティティクがうなずき、


「島で注意すべき生き物については、こんなところじゃな。

 それから…、」


と話を続けようとすると、

不意にゴゴゴゴ…!という低い音と共に建物がれだした。


地震じしんか!?」


セレスがさけぶと同時に、


「キャア!?」


フランとティナがセレスにきつく。


と、

ティティクがおもむろに立ち上がり、

窓から外を、ニブと呼ばれる火山のほうをじっと見つめた。


妻のドレイスはそれを心配そうに見ている。




地震じしんが止まりしばらくすると、ティティクは席にもどり、


「…今のようにれた時は、ニブ様が噴火ふんかすることもある。

 その時は大急ぎで海までげることじゃ。」


と耳の後ろあたりをポリポリかきながら言った。




「何の話じゃったか…。

 ああ、ケガ人の治癒ちゆや、手伝ってもらう仕事のことは、

 明日また改めてでいいわい。

 昼前までにここへ来ておくれ。

 準備もあるからのう。」


とティティクはセレス達を見渡みわたして言い、


「それから…、申し上げにくいんじゃが、お主らの船は商船じゃろう?

 商人やその関係者を村にめることはできん。

 村のおきてでな。

 居付かれても困るからじゃ。

 すまんが、比較的ひかくてき安全なビーブの下流ででも寝泊ねとまりしてくれ。」


と締めくくった。







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村を後にしたセレス達一行は、

西にあるビーブ川の下流近くまで兵士二人に案内してもらった。




たき火の明かりが見えてくる。


おととい流れ着いたという、別の商船の一行のものだろう。




セレス達は一応、あいさつに向かった。




向こうの一行は男ばかり十人ほどで、

セレス達を見ると、


「すげぇ美人だらけだ…。」


などと色めき立ったが、ミリアが


「私はミリア・マロジョテスという者だ。

 火の賢者けんじゃと言えば通じるか?

 何かある時は、私か船長のテオドロ・ヘルナンデスを通してくれ。

 でないと…、殺す。」


ほのおをメラメラさせながら言うと、

シーンと静まり返った。




鳥車すらない完全な野宿はセレス達も初めてである。


星が美しい。


食料やたき火はあるが、屋根やかべが無いのはどうにもならない。


雨が降らないことをいのりつつ、

セレス達は、たき火の番を交代でしながらねむりについた。







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翌日。




セレス達一行と、別の商船の一行は、

再びカヴェド村へぞろぞろと向かった。




昨日は暗くて気づかなかったが、

村のずっと東のほうには、ひときわ大きな建物があり、

モクモクとけむりが出ている。


きっとあれが製鉄や刀剣とうけんの製作をする場所なのだろう。




村の会議室に入ると、

すでにティティクと、他に四名の男性が待っていた。


「昨日ぶりじゃな。よくねむれたか?」


ティティクはそう言うと、四名の男性と必要な仕事をそれぞれ紹介しょうかいしてくれる。


一人目は木こりのリーダーで、

船の材料と、製鉄に使う木炭の材料になる木材を伐採ばっさいする手伝い。


二人目は製鉄のリーダーで、

製鉄の材料に使う砂鉄を集める手伝い。


三人目は狩人かりうどのリーダーで、

タッオテをる手伝い。


四人目は祈祷きとう師で、

ケガ人の治癒ちゆの手伝い。


ということだった。




祈祷きとう師?おいのりでケガを治すの?」


とフランが質問すると、


「おずかしながら、村には治癒ちゆ士がいません。

 ですのでニブ様にケガや病気が良くなるよういのったり、

 包帯や薬草で出血や痛みをおさえる程度のことしかできないのです。」


祈祷きとう師が答えた。


「ふーむ…。」


ミリアがアゴに手を当ててしばし考え、


「タッオテのりとやらは毛皮も目的かい?」


と質問すると、


「毛皮ももちろん使うが、

 もし武器で傷が付くことを気にしてるんだったら、大丈夫だいじょうぶだ。

 小さい皮にも使い道があるからな。」


狩人かりうどのリーダーが答えた。


「なるほどね。」


ミリアがうんうんとうなずき、


「…では、

 セレス、ティナ、ステファンは、木こりのリーダーの手伝いだ。

 レイ、ベリエッタは、製鉄のリーダーの手伝いだ。

 ホセ、イヴァンは、私と狩人かりうどのリーダーの手伝いだ。

 フラン、アンネは、祈祷きとう師の手伝いだ。

 それから、テオドロ船長。

 乗組員達は、木こりと製鉄のリーダーそれぞれの手伝いに半々で分けてくれ。」


と全員を見渡みわたしながら言った。

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