第12話 自由のベリエッタ

「ステファン…。貴殿きでんが付いていながら無様なものだな…。」


ベリエッタが口を開いた。


かぶとで見えないが、ステファンはセレスの左で青ざめているようだ。


「(『ぼくがフランを守る!』

  そう決意したばかりだというのに…!)」


セレスは、歯をめた。


「そちらの貴殿きでんは…。

 データには無かったが、確かハイルペラ侯爵こうしゃく家のご子息だね…。」


ベリエッタがレイを見る。


「はい…。」


レイがセレスの右で答える。




「我が新たな主の悲願のため、君達には死んでもらう…。」




セレスは必死に考えていた。


「(自由スロイダルグ特異技能ギフトを相手にたった三人で勝つ方法はあるのか…?)」




ドサリ!


ベリエッタが、かかえていたフランを下ろした。


次の瞬間しゅんかん




ビュオン!




ベリエッタの姿が消える。




「(背後!)」


セレスは直感的にそう思った。


前方に素早くみながら体を右に回転させつつけんる。


ガキィン!


セレスのけんおそろしく重い一撃いちげきがぶつかった。


けんで受けたのにセレスの全身がぐらりとくずされる。


夢中より速くレラティヴリーファスト!」


レイがさけび、ベリエッタに向けてけんりかぶる。


ビュオン!


すでにベリエッタの姿はない。


狩人のハンターズ…!」


ドガッ!


右にいたベリエッタをり返ったステファンが、背後から飛びりを食らった。


ステファンは前のめりに大きく転ぶ。


ズダンッ!


レイは向かってきたステファンをんでかわす。


ビュオン!


ドスッ!


ベリエッタはレイがんでかわしたステファンの背中をみつけ、

レイの背後からけんりかぶっている。


ガキィン!


レイの着地の瞬間しゅんかんねらってられたけんを、

セレスが下から上にり上げたけんでギリギリはじいた。


ビュオン!


ポン。


レイがセレスにれる。


レイと共にセレスの時間も加速した。


セレスはそのままぐるりと周囲を見回す。


すでに背後からベリエッタのけんが首をねらってき出されていた。


そのけんけながら、ベリエッタの腹部に思いっ切りりを入れる。


ドゴッ!


ベリエッタの体がわずかにいて後方に下がる。


よろいの重さが加わっているとはいえ、体重は女性のそれだ。


ビュオン!


いたうえに体勢までくずれていたはずのベリエッタの姿が消える。


「なっ…!?」


セレスは再び周囲を見回した。


レイも周囲を見回す。


いない。


ちがう。


レイの上から頭をみつけようとしている。


「上だ!」


セレスはレイのうでを、グイッと引っ張ってそれを回避かいひさせる。


その動きに合わせてベリエッタがけんり始めた。


「(なんという反応スピードだ…!)」


レイに向かってられるベリエッタのけんに、セレスがけんを合わせる。


ガキィン!


たがいに体勢をくずすが、

時間が加速している分、セレスのほうが立ち直りが速い。


すかさず落下直後のベリエッタをねらって再びりをり出す。


ビュオン!


ベリエッタの姿が消えた。


セレスは周囲を見回す。


いない。


いや。


今度は下だ。


ベリエッタがセレスの背後にしゃがんで、足払あしばらいをり出していた。


セレスは、その足をえるようにしながら、ベリエッタにりかかる。


ビュオン!


ベリエッタの姿が再び消えた。


「(フェイント…!)」


ベリエッタはレイの背後でけんを上からりかぶっている。


「くっ…!」


レイが気づき、けんたてを合わせる。


ガキィン!


バッ!


けんを受けた直後、レイがベリエッタに大きくみ込んだ。


たてを持ったままの左手をひねるようにして回転させると、

ベリエッタがけんった右手に、

ガッ!と左手でつかみかかり、


苦痛より遅くレラティヴリースロウ!」


さけぶ。


れた対象の時間だけをおそくするレイの技だ。


レイがそのまま右手のけんをベリエッタにる。


ビュオン!


ベリエッタの姿が消え、レイの背後に現れた。


「なっ…!?くっ…!」


セレスは何とか反応し、ベリエッタにけんる。


ガキィン!


ベリエッタはけんでセレスのけんを難なく受けると、

タンターン!スタッ!

と後方へ宙返りして距離きょりを取り、体勢を整えた。


再びたおれているフランの近くに立った形だ。


ステファンも、あわてて立ち上がる。


「(体勢がくずれたり、時間がおそくなったりしているのに移動した…。

  どうやら自由スロイダルク特異技能ギフトは、

  ちょうスピードなんかではなく、本当に瞬間しゅんかん移動なんだ…。)」


セレスはたきのようにあせをかいている。


「ふむ…。厄介やっかい特異技能ギフトらしい…。」


息切れ一つしていないベリエッタがレイのほうを見た。


レイは、顔はベリエッタのほうを見ているが、

セレスと同様にたきのようにあせをかき、

ゼェゼェ…とかたで息をしていた。


「(魔力マナ切れ…!

  レイの特異技能ギフト抜きでどうにかするしかない…!)」


セレスは、思いながらフゥー…と大きく息を吐くと、

ベリエッタから視線を外さずに一歩前進した。


ねらいはぼくだろう…?

 フランからはなれろ…。」


セレスが静かに言う。


「いいや。君達全員さ。

 このむすめは、殺すと君達がげる可能性があるから生かしているだけだ。」


ベリエッタが冷たく言った。


その目は血走り、静かな殺意に燃えている。




と、

その時、


「いたぞ!」


ミリア達が追い付いて来た。


ベリエッタの視線がチラリとそちらに動く。


「(今だ!)」


目潰しフラッシュ!」


カッ!


セレスが左手から強烈きょうれつな光を放ち、ぶようにりかかった。




ビュオン!


「まとめて相手をしてやる。」


走ってくるミリア達の背後に立ったベリエッタが静かに言った。


セレスのけんは空をる。


ベリエッタがミリアに向かってけんりかぶる。




「その必要はない。」




ミリアがパチンと指を鳴らすと、ミリアを中心に一面がほのおに包まれた。




「きゃあああああああ…!」




ティナ、アンネが思わず悲鳴を上げ、

ベリエッタと一緒いっしょに燃えながら地面をのたうち回った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「私の勝ちということでいいよな?」


ミリアが大火傷を負ったベリエッタを見下ろしながら言った。




無事だったフランは、巻きまれたティナとアンネを治癒ちゆしている最中だ。




「お前の特異技能ギフトのタネは分かっている。

 魔力マナを予め飛ばした場所にしか飛べない瞬間しゅんかん移動だ。」


ミリアが勝ちほこったように言うと、


「!

 …ああ。…殺せ。」


ベリエッタが息も絶え絶えに言った。




バキィ!




ミリアがつえの下の部分で、ベリエッタの左腕ひだりうで腕輪うでわ破壊はかいし、


「フラン。仕事だ。」


とティナとアンネを治癒ちゆしたばかりのフランを呼ぶ。




「…治癒ちゆすればいいの?」


フランがたずねると、ミリアは、


「いや、解呪かいじゅだ。練習しただろ?」


と言った。


言われるがままにフランがベリエッタのかたわらにひざまずくと、


解呪ディスペル…!」


魔力マナを出力する。




「…!?

 私は一体…?」


ベリエッタが戸惑とまどったように言う。




「ミリアさん…、どういうこと…?」


フランがミリアとベリエッタを交互こうごに見る。


「ニキータの死に方が気になっていたんだ…。

 あれはどうやら、魅了みりょうのろいのようなものだったようだな。

 おそらく、腕輪うでわから命令が聞こえると、

 操り人形のようにそれを実行してしまうんだ。

 フラン。治癒ちゆもしてやってくれ。」


とミリアが言った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「本当に申し訳ない…。」


治癒ちゆを受けたベリエッタは、セレスとフランにひざまずき、

深々と頭を下げ、


「殺してくれても構わない。」


と言い出す。


セレスがぎょっとして、


「そんな。

 フランも無事でしたし、せっかく治癒ちゆしたのに…。」


と手と首を横にると、ベリエッタは


ちがう…。

 そうじゃない…。

 そうじゃないんだ…。」


と頭を下げたまま、




「私が君達の父君と母君を殺したんだ。

 正気ではなかったとはいえ、本当に申し訳ない…。」


なみだを流しながら告白した。




セレスは固まった。




「(今、彼女かのじょは何と言った?

  『私が父と母を殺した。』

  そう言ったのか?」




ゴッ!




フランがベリエッタをなぐった。




ガッ!




フランがベリエッタをたおした。




ドス!




フランがベリエッタにのしかかった。




ゴッ!




ゴッ!




ゴッ!




フランがそのままベリエッタを何度もなぐった。




ゴッ!




ゴッ!




ゴッ!




何度も何度もなぐった。




セレスはそれを呆然ぼうぜんと見ていた。




「(フランを止めなければ。)」




頭ではそう思っているが、体は動かなかった。




「(何と言って止めるのだ?)」




「(『そんなことをしても父さんと母さんは帰って来ない。』

  とでも言うのか?)」




「(そんなことはフランだって分かっているはずだ。)」




「(フランが正しいのではないか?)」




「(ちがう。それでも止めなければ。)」




そんな様々な考えが頭にかんだ。




だが体は動かなかった。




フランとベリエッタをはさんで、向かい側に立っているミリアが目に入った。




ミリアは険しい顔で、ただ両手のこぶしをギュッとにぎりしめて、

フランとベリエッタを見つめていた。




セレスは自分も両手のこぶしにぎりしめていることに気づいた。




フランはなぐつかれたのか、なぐるのを止め、

その代わりに声を上げて泣き出した。




「…本当に申し訳ない。」




ベリエッタがフランの下でうめくように言った。




「(いっそ魔族まぞくだったら良かったのに…。)」




セレスはなみだを流しながらそう思った。

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