ここはどこでしょうか?

 国王とその娘の筆頭聖女を倒すという目的のために共闘している元聖女のヘレンと元王子のルード。

 ヘレンがお世話になっていたスラムが、筆頭聖女の命令で攻撃されてしまう。

 スラムにいる仲間と、訳あってスラムに潜伏していた東の領土の騎士たちを含める全員の命が危なくなったその時、ギリギリまで加護を出し渋っていたルードがようやく加護を使いどこかへ転移した。





「ぎゃあぁぁぁぁあ!」


 ヘレンの色気がない声が響く。


「うわぁぁぁ死ぬ!!」


 ポーロも同じように叫んでいた。


「うるせぇ!」


 ヴォルフがヘレンとポーロの口をふさいだ。

 そんなヘレンたちを尻目に、スラムに潜伏していた騎士団長のスヴァンがルードに問いかける。


「ここは……イステールではないか?我が領主の城にそっくりだ」

「当たりだ。聖女共も王都から2週間もかかる場所に逃げたとは思わないだろう」


 ──イステール⁉初めて来たわ。


 ヘレンはヴォルフに口を塞がれたまま、目だけで辺りを見渡した。

 ヘレンたちがいる場所より少し遠くに石造りの堅牢な城がそびえている。王宮のような美しい城ではなく、もっと実用的な要塞ともいえる無骨な城だ。

 さらに遠くには城壁が見える。


 ──国境を越えて魔物が入らないようにしてるんだわ。本当に王国の端っこなのね。


 ルードたちの会話が聞こえたオーギュスタが叫ぶ。


「はぁっ⁉イステール⁉東の田舎じゃない!ルード凄いわね!」

「田舎……。ま、まあ聖女たちからしたらそうだろう。ここは王都のような華やかなものは何もないからな」


 スヴァンが口を引きつらせて答えた。


「おい!騎士共がこっちに来るぞぉぉ!殺される!」


 ヤンが叫びだした。ヤンを中心としたスラムの人間たちは、スヴァンの部下たちにそれとなく見張られているので逃げることは出来ない。

 ぎゃーぎゃーとわめくヤンにつられてヘレンもそちらを見ると、数十人の騎士がこちらへ向かって走ってきている。


「落ち着け。あれは我らの仲間だ。私が話をつけてこよう」


 同僚の姿を見て少し気の緩んだスヴァンが、向かってくる騎士に向かって歩いて行った。

 その隙にオーギュスタがヘレンに耳打ちする。


「ヘレンちょっと来なさい」


 ヘレンがオーギュスタの方へ行くと、集団から少し離れた場所へだった。オーギュスタの他にヴォルフとルードもいた。


「まだみんな混乱してるからいいけど、この転移をどう説明するわけ?」


 オーギュスタが声を潜めてルードに問いかけた。


「そうだな……。聖女の加護が暴走したことにしようと思う」


 ルードは苦し紛れに言った。


「お前が加護を呼んだのは近くにいた奴らが覚えてるんじゃねえのか?」


 ヴォルフが指摘した。


「……そうだった……。よし、ルードヴィグで記憶を誤魔化せばいい」

「また加護頼みかよ」


 ヴォルフが呆れた。


「一番楽だろ?スラムの奴らにばれるとうるせえからな」

「それもそうか。スラムには教会と通じてるやつもいるからな」

「ちょっと何それ聞いてないわよ!ヴォルフさん!」


 オーギュスタが小声ながら騒がしく話に入ってくる。


「スラムはワケありが住むところだ。そいつらの中には俺を嗅ぎまわっている奴がいる」

「ヴォルフさんを?まあ当たり前ね!こんな素敵な人を見逃すバカはいないわ!」

「今までは特に問題なかったがルードのことを知られるとマズい。俺の成り上がり人生計画が崩れる」

「やん♡計算高いヴォルフさんも素敵♡」


 オーギュスタはさり気なくヴォルフにすり寄る。


「話がおわったならいくぞ」

「ルード、待って置いて行かないで」


 白けた顔のルードに置いていかれないよう、ヘレンは後をついていった。





 それからヘレンたちは騎士の宿舎へ案内された。

 一棟丸々空いていたのは先のスタンピードで人が減ったからだそうだ。


 ──つまりそれだけ犠牲が大きかったのね。そんなことが起きていたなんて教会にいたのに知らなかったわ。


 ヘレンは己の無力さを痛感した。


 ──私の加護は大したことないけど、教会にいる聖女たちが力を合わせたら何とかなったはずなのに。


 ヘレンがそんなことを考えているうちに、スラムの人間の処遇が決まった。

 もとからいたスヴァン達騎士団はともかく、よそ者のヘレンたちはしばらく監視されることになったようだ。


「まあ妥当だな」


 ヴォルフが条件を飲んだため、スラムの人間は騎士に従うことになった。


「ずいぶん統制が取れてますね」


 少しは反発されるだろうと踏んでいた騎士たちは拍子抜けしていた。


「スラムは俺がルールだ。俺に歯向かうやつは躾けるだけだ」

「……なるほど……」


 騎士が「野蛮だな」と呟いたのを聞き取れたのはヘレンだけだった。

 その後部屋を案内される。


「少々手狭かと思いますが、こちらの大部屋をお使い頂きます」


 宿舎は空いていたが、すべてを使わせてくれる訳ではないらしい。

騎士たちが監視しやすいように何部屋かにまとめて滞在するようだった。

 簡単な説明の後、案内をしていた騎士はルードへ向き直る。


「ではルード様、お部屋へ案内します。こちらへ」


 ルードは宿舎に滞在しないようだ。


「ちょっと!ルードだけ特別扱いなの!?」


 またオーギュスタが割って入る。スラムにはいつの間にか、聞きたいことはオーギュスタに言わせておけという雰囲気が出来ていた。


「領主のお知り合いですから」

「俺も最近知ったが親戚だったんだ」

「はぁ!?世間狭すぎ!」


 オーギュスタは絶句した。

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