聖女たちによる襲撃その2です!二度目だと慣れますね!

 患者の足に刺さった木片をルードが摘出してすぐ、潜んでいる地下に轟音が響いた。


「揺れてるわ!きゃっ!」

「天井が崩れちゃう……!」

「何だ?」

「聖女だろう」


 尻もちをついたヘレンと怯えるオーギュスタに目もくれず、ヴォルフとルードは状況を把握しだした。


「また来たのか」


 ヴォルフが顔をしかめた。


「筆頭聖女はクソワガママなんだ。また行ってこいって言われたんだろう」


 ルードが加護で外の状況を把握する。


「ルードヴィグで確認した。攻撃自体はさっきと変わらないな。

 外に出たらスラムは無くなってるだろうよ」

「はぁ〜……。俺がやったことを全部壊しやがって……クソどもが」


 ヴォルフが心底ガッカリしていた。


 ──そうよね。ヴォルフさんが主導で、井戸を掘ったり、スラムのボロ小屋を住めるように改造したりしてたもんね。


 ヘレンはヴォルフに同情した。


「ここってスラムの真下?」


 土地勘がないオーギュスタが尋ねる。


「大体真下だ。もともと王都の川を地下に埋めようとして出来た空間だからな」

「ふーん」


 ドゴォン!……ドゴォン……!


 ひときわ大きな爆発音が響き渡る。


「壊れたらどうするのよ!」


 大きな揺れにヘレンはしゃがんだまま、天井へ叫んだ。


「昔に作られたきり整備もされてないからな。壊れたらあっという間じゃないか?」

「ルード!のんきに言わないで!」


 ヘレンはルードにも叫んだ。


「ゴチャゴチャと……。ケガ人部屋に戻るぞ」


 ヴォルフの提案に全員従った。




 ケガ人部屋に全員集まっていた。


「ヴォルフさん!」


 真っ先に現れたのは、東の領土であるイステールの騎士団長のスヴァンだ。

 スヴァンたち騎士団は疲弊した領土を救うため、ルードとヴォルフに協力している。


「スヴァン、こっちの様子はどうだ?」

「大きく揺れましたが大丈夫です。ケガ人たちも安定しています」

「そりゃ良かった。どうやら聖女どもが再攻撃してきたようだ」

「やはり……。加護持ちは体が疲れるまで加護を使えますからね。

 ……ここも危険です」

「場所を変えるか?ここを上に上がると王都へ繋がってる。入り口を埋めれば気づかれない」

「それなら──」

「──、──」


 ヴォルフ、ルード、スヴァンの三人はすっかり話し込んでしまった。


 そんな三人を無視して、ヘレンはケガ人たちを見回った。

 攻撃で揺れるが、ケガ人部屋は丈夫なのかオペ室ほど揺れない。


「ヤンがいるから、ここは安全なのね」


 ヘレンは逃げ足の早いヤンが寝転んでいるのを見て、少し安心した。


 ──ケガ人のお世話は騎士たちがきちんと行っているみたい。さすが統率が取れてるわ。スラムの人間だけだと、こうならないもの。


「気絶していた人は、全員起き上がれるようになったのね」


 ヘレンは壁際のポーロに話しかけた。


「騎士団が回復薬を持ってたんだ。貴重なものだから、重症者にだけ使ってくれた」

「良かった」

「ヘレンは本当に、人が助かってほしいんだな」

「当たり前よ。助かるなら助けたいわ」

「甘いわ〜。そんなんでよく生きてこれたわね」


 オーギュスタがヘレンの隣に座る。


「甘くてもいいの!」

「それがヘレンの良いところかもね」


 オーギュスタは、ヘレンを撫でながらうなずいた。


「それよりも、これからどうなるんだろう」


 ポーロは未だに話し合う三人をみている。


「移動するかもって言ってたわ。この地下空間は王都の中心に繋がっているんだって」


 オーギュスタが応えた。


「あぁ、僕が調査したやつだな。王宮の下まで入れたよ」

「そんなところまで!?」


 ヘレンは驚いた。


 ──それなら王宮に侵入出来ちゃう!?


「うん。もともと王宮の後ろに山があったんだって。

 そこを削ったから、山に貯まるはずだった水が王都に大量に流れ込むようになったらしい。

 今は水量が減ったけど、数十年前はよく氾濫して大変だったんだそうだ」

「へー、初めて知ったわ」


 オーギュスタが目を丸くしてポーロを見た。


「加護で土木工事でもしたのかしら?」


 ヘレンは首を傾げた。


 ドゴォン!


「わ、近い!」

「うるさくてイライラしちゃう!」

「この上は岩盤が硬いけど、連続して攻撃されると危険だ」


 ドゴォンドゴォンドゴォン!


「ポーロがいうから連続攻撃になったじゃない!」

「僕のせいなのか!?」

「どこかが壊れたわ!」


 ひときわ大きな揺れと音が響き、ガラガラと瓦礫が転がる音がした。


「閉じ込められた!?」


 ヘレンは絶望した。


「まさか!でも、地下に避難してることがバレるとまずい!」

「ヴォルフさん!助けてー!」


 ポーロやオーギュスタも焦る。

 ヘレンが見ると、ヴォルフ、ルード、スヴァンは何かを頷きあっていた。

 すぐにルードがヘレンに向かってくる。


「ヘレン!ジーニを出せ!」

「ジーニくん!」

『ジーニだよ!あんまり活躍してなくて寂しいよ!』

「岩は何度で融ける?」

『岩にもよるけど、800度から1200度だよ!』

「意外と低いな。炎を操る大聖女がいたらここを融かすことも出来るよな?」

『エネルギー次第だね!岩の温度を800度以上にあげるには、かなりのエネルギーが要るよ!』

「加護次第か」

「ちょっと!どういうこと?」


 蚊帳の外のヘレンがルードに詰め寄る。


「大聖女は炎を操る奴、風を操る奴、岩を作り出す奴がいる。最悪、融かした岩を流し込むかも知れないと思ったんだ」

「蒸し焼きとかグロいわ」

「ルードヴィグが見たところ、スラムは影も形もないくらい壊されてる。

 それでも攻撃を止めないのはヤケか、地下に逃げたと思っているかも知れない」

「……どうするの?」


 ヘレンは答えを待った。


「走って逃げる」

「バカじゃない?さっきの話し合いの結果がそれ?」


 ヘレンは心底呆れていた。あんなに仰々しく話し合って間抜けこの上ない。


「他の方法がない」


 ルードはブスッとした顔で言い返す。


「あるでしょ、使いなさいよ」


 ヘレンはルードに加護を使うように求めた。

 ルードの加護ならどこかへ逃げることも簡単だ。


「バレると、」

「まずいんでしょ!聞き飽きたわ。

 答えがあるのにウジウジと考える意味が分からない。知り合いを助けたくないの?せっかく助かった誰かが、また傷ついてもいいの?」

「……」


 ルードは押し黙る。


 その間にも、攻撃は酷くなる一方だ。

 最初に壊された地下の部分から広げるように壊しているのか、ずっと瓦礫が崩れる音がする。


 ドォォォン!


 ついにケガ人部屋の入り口から瓦礫が入ってきた。


「クソッ!ルードヴィグ!全員転送しろ!」

『御意』


 床に紋様が広がると同時に、黒い影が全員を飲み込んだ。

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