患者を戻します!ルードの加護が二人にバレました!

「めんどくせぇな。忘れてろよ」


 ルードは手を洗いにオペ室を出た。


「ちょっと!逃げるの!」

「ルード!待ちやがれ!」


 オーギュスタとヴォルフがルードを追いかけていく。


 ヘレンはそんな二人に目もくれず、患者の容態を確認した。


「呼吸、脈は正常。心音も異常無し。麻酔代わりの麻痺薬も、ルードの加護で抜けてる。

 このままケガ人部屋に移動させていいわね」


 ヘレンは患者に被せていた布を取り払う。


「血のシミがちょっとついちゃった。ジーニ君、洗って使い回せるかな?」

灰汁あくの洗剤で洗うといいよ!血の汚れはアルカリ性で落ちるよ!』

「なるほど!さすがジーニ君!

 とりあえず、かまどの灰をつけとこう!あとはオペ道具……。しばらくぬるま湯に漬けないと落ちないなぁ」


(ジーニ君豆知識:油はお湯、血は水で洗うよ!二つの汚れを同時に洗うときは、ぬるま湯がベスト!まな板とかね!)


 ヘレンはパシャンと足元の水たまりを踏んだ。

 患者の足の汚れを洗った水だ。薄ピンク色の血溜まりになっている。


「日本だったら床にディスポの防水シーツを敷けたのに……。まあいいや、ルードに手伝わせよう」


 もはやヘレンにとってルードは便利道具扱いだった。


「俺がそんなことするか。お前が洗え」

「ゲッ!」


 手を洗い終えたのかルードが戻ってきた。


「じゃあ排水溝を作って」

「ポーロに掘らせろ」

「うぅ……正論……」


 すげなく断られヘレンはしょんぼりした。


「そんなことより!答えなさい!」


 割って入るのはオーギュスタだ。


「オーギュスタっていつも横入りしてくるわね」

「待ってても順番なんてまわってこない!」


 オーギュスタはキッパリと言いきった。後ろでヴォルフがうんうんとうなずいている。


「どうせヴォルフには言うつもりだった。

 オーギュスタ、お前も大聖女だっけ?加護に詳しいんなら伝えておく。

 俺の加護は神の寵愛と呼ばれるものだ」

「えぇ──────」


 驚きのあまり叫ぶオーギュスタの声が消えた。ルードが声を消したのだ。


「騒ぎを起こすなら記憶を消すぞ」


 ルードに睨みつけられ、オーギュスタは大慌てで口を手でおさえた。


「聞いたことあるな。この世の全てを手に入れられる加護だと」


 ヴォルフがアゴを手でこする。


「何でもできるからな。人を生き返らせるのと、時を戻すこと以外は試した」

「……カネも作れるのか?」


 思いつきをヴォルフは試しにたずねた。


「あぁ」


 ルードはうなずく。


「なるほど、ルードが浮世離れしてるワケだ。そりゃ簒奪さんだつにも自信があるよな」


 ヴォルフはニヤニヤといやらしく笑う。ルードがヴォルフから目をそらした。


「加護の力で成り代わっても意味がない。俺は加護に頼らない国に変えたい」

「「……!」」


 ヘレンとオーギュスタは息を飲んだ。

 加護に頼らないということは、ヘレンやオーギュスタたち聖女が、何の変哲もない人間に戻ると言うことだからだ。


「ガハハハ!国の根本をひっくり返すってか!?そりゃいい!やっちまえ!」

「ヴォルフさん声を潜めて!」


 思わずヘレンは注意したがヴォルフは気にしない。


「反国王派の奴らはまだ知らない。イステールの奴らも、もちろん知らない」

「それがいい。バカなことを言って疑われるのは無意味だ。そんなフザケたことで俺の取り分が減ったら困る。

 いいなお前ら、だまってろよ」


 ヴォルフがヘレンとオーギュスタに凄む。


「もちろんです」

「愛する人を裏切るなんてあたしには出来ないわ♡」


 二人が返事をするのと、外から声がするのは同時だった。


「何やら大声が聞こえたのですが大丈夫ですか!?」

「イステールの奴か。クソ真面目め」


 ヴォルフが顔をしかめた。


「入れ。処置は終わった」

「失礼します」


 イステールの騎士は二人一組で考動する。二人の男がオペ室に入ってきた。


「ここは暑いですね」

「ケガ人のために暑くしていました。今はだいぶ薪を抜いたんですけど」


 ヘレンが答える。


「木片は抜けましたか?」

「こちらに」


 ヘレンが皿に入れた木片を見せる。騎士たちは顔をしかめたが、きちんと見てくれた。

 ちなみにオーギュスタは怖いからと絶対に見ようとしなかった。


「素晴らしい。木片を取ったばかりか、足に傷一つないように治せるだなんて」


 騎士の一人が感動している。


「傷が治ったのは回復薬だ」


 ルードがしれっと嘘をついた。


「なるほど!しかしこのように治せる方がいるのは心強いです!」


 騎士たちはルードを尊敬の眼差しでみている。

 居心地が悪そうにルードは頭をかいた。


「こいつはもう大丈夫だからケガ人部屋に連れて行ってくれ」

「はいっ!」


 二人はきびきびと担架を持ってきて、あっという間に運んでいった。


「バカはバカなりに使えるな」


 ルードは真顔で言った。


「バカ同士気が合うだろ。良かったな」


 ヴォルフが皮肉で返す。


 その時、轟音が地下空間を揺らした。

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