転生ナースの衛生革命〜スラムに追放された聖女は復讐のために生き延びることにしましたが、スラムが不潔すぎて病気も発生したのでまずは環境の改善と感染症の予防に努めます
オーギュスタの権威はすごいです!簡単な打撲処置です!
オーギュスタの権威はすごいです!簡単な打撲処置です!
「大人しくするなら凍結を解きましょう」
オーギュスタの言葉に、みんながしおらしくなる。
「聖女様、申し訳ない」
「もうしないから早く溶かしてくれ。手が死んじまう」
「魔女でも聖女でもいいから早くしろ!」
口々にオーギュスタへの謝罪やら暴言やらが聞こえる。
「あんまり生意気言う方はそのままにしますよ?ずっと身体を凍らせていると、真っ黒になって切り落とすことになりますが」
暴言を放ったスラムの住人に、オーギュスタが言い返す。
「悪かった……俺の食い物やるから、どうにかしてくれ、痛いんだ」
一転してしおらしい態度になったところでオーギュスタはふんっと鼻を鳴らした。
オーギュスタが腕を一振りすると、一瞬で凍りついた手足が溶ける。
「ああ〜助かった」
「あの姉ちゃんがそんなすごい奴だとは、知らなかったなぁ」
「聖女様、寛大なお心遣いに感謝します」
オーギュスタはふふんと顎を上げた。
「ではスラムにいる以上、わたくしの愛するヴォルフ様に従うと誓いなさい。わかりましたね」
「わたくしの愛する……?」
ヘレンはオーギュスタの言葉にちょっとだけ引いた。
「……そうですね、今のところは大人しくいたしましょう」
出稼ぎたちのリーダー格の男、スヴァンがオーギュスタに従った。
スヴァンの手下は何かを言いたげだ。しかし、同じことの繰り返しになると思ったのか、結局何も言わなかった。
──この人、乱闘騒ぎのとき消えてたわ。
ヘレンは、スヴァンが怪しくてしょうがなかった。
「では決まりです!スラムの者たちは今まで通りヴォルフ様に従うこと!出稼ぎの者たちは新しくヴォルフ様に従うこと!以上!」
そう言い放つと、オーギュスタは自分が乗っていた氷と、人を集めるために使った氷の柱を溶かした。溶けた氷は水となり地面をさらさらと流れていった。
「オーギュスタ、ありがとう。これでイザコザが減るといいんだけど」
ヘレンはオーギュスタにお礼を言う。オーギュスタは何食わぬ顔でお礼を受け止めた。
「ヴォルフさんに聖女がついてると思わせたもの。多少は効果があるんじゃない?」
「オーギュスタ!お前やるなぁ!お前みたいな強い聖女初めて見た!」
ヤンが肉を抱えてやってきた。
「ヤン!そのお肉!」
「バカどもがビビって返しにきたぜ!」
「よかった〜。どうしようかと思ったの」
盗られた肉が帰ってきてヘレンはホッとした。
「ホッとしたから、ケガ人を治療してきます!」
ヘレンは乱闘のケガ人を治療をするため、薬を取りに行った。
「お前、それ好きだなぁ」
去っていくヘレンにヤンは呆れる。
「ヘレンはおせっかいなのね。さ、ヴォルフさんに褒めてもらわなきゃ♡」
オーギュスタはオーギュスタで、ヴォルフのもとへ向かおうとした。
「オーギュスタ!これに氷をお願い!」
どこかへ行っていたヘレンが、空の桶を持ってきた。身体には薬草を入れたカゴをぶら下げている。
「もう!氷ね、でっかいのでいい?」
「この石くらいのをたくさんお願い!」
ヘレンは足元の小石を指した。
「ほら、どうぞ」
「ありがと!オーギュスタの加護便利!」
ヘレンはさっさと患者のもとへ歩いていく。
「ヘレン、あたしの扱い雑すぎ!……なんか距離近い感じが友だちっぽい!」
オーギュスタはスキップしながらヴォルフのもとへ向かった。
「殴られた人ー!患部を冷やす氷がありますよー!
貼り薬いりますかー?骨が折れてる人はいませんかー?」
ヘレンは作り置きした薬草を持って声を張る。さながら行商人だ。
そんなヘレンに、スラムの住人は無傷でもとりあえず何かをもらおうと群がる。
「元気な人にはあげません!」
「ちぇっ」
「あ、腫れてる!氷で冷やしたほうがいいよ」
「ありがと。悪いな」
「いいえ〜」
「チッ、ヘレンは相変わらずケチだな」
「うるさい!あ、あなた腫れてるじゃない!こっちきて!」
にぎやかなスラムの住人をあしらいつつ、ヘレンは次々にケガ人の処置を行う。
「これが貼り薬?」
出稼ぎの人が、ヘレンが持つ薬草を怪訝そうに見つめた。
──あ、乱闘の原因になった手下だわ。
「球根を叩き潰したものです。破片を患部にあてて、布で巻いておくと腫れが引きます」
説明しながらヘレンは、男の顔に布でくるんだ氷をあてる。布はボロい拾い物だ。
「まずは冷やしましょう。貼り薬は患部が冷えてからです」
手際良く処置をすすめるヘレンに、男が話しかける。
「あなたは誰でも治療するのか?」
「ええ、私も元々は聖女ですので」
「なんで聖女がスラムに?」
「教会に従えなかったら罰を受けるんです。私はスラム送りで、つまり死刑なので」
「なっ!」
ヘレンの言葉に、出稼ぎの男は言葉を失った。
「あなたはそんなに恐ろしいことを行ったのか!?」
「えっと……筆頭聖女が教会に入り込んだ子猫を、汚いから殺せとおっしゃったんです。それに嫌だと言いました」
「…………それで?」
「それだけです」
「それだけで死刑?おかしくないか?」
「それが教会の当たり前なので。
私は聖女としてのランクも最下位ですし、最下位の聖女は結構追放されてますよ。
あ、追放といっても、ほぼ王都追放です。スラム送りは、筆頭聖女の気分が最悪だったときだけなので、あんまり無いです」
「……」
ヘレンは当たり前のように言った。しかし、男はヘレンを不可解なものを見る目でみている。
「……だからこその計画か……」
「え?なにか言いました?」
「いや、よくあなたのような方がここで生き延びているな、と」
「それはヴォルフさんのおかげですね。身の安全を保証してもらうかわりに、加護をヴォルフさんのために使うんです」
「熊みたいな男のくせにやり手だな」
「あははは!乱暴者ですけどね!」
治療を終えた男は、納得したような納得したくないような顔をして帰っていった。
──そういえばあの人たち、どこで寝てるのかしら?
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