洗剤を手に入れました!ルードの加護はチートすぎます!

 ヘレンとルードは手を組んだ。互いに王を倒す目的を持っていたと分かったからだ。


「手を組んでさっそくなんだけど、洗剤になる実ってどれ?」


 ヘレンは当初の目的をようやく思い出した。


「そういやそれが先だな。ついてこい」


 ルードを先頭に、ヘレンはざくざくと落ち葉を踏んで森を歩く。

 色づいた葉っぱがハラハラと落ちていく。すべての葉が落ちてしまったら冬の到来だ。


「この葉っぱは燃料になりそう」


 森のすべてがヘレンには使えそうな何かに見えていた。


「炭はまだ生きてんの?」

「火は生きてるわ。貰った炭は灰になっちゃった。

 ヤンがシロアリにやられた材木をくれたの。あとは川から拾ったゴミを燃やしてる」

「ゴミを……」


 ルードは顔をしかめた。


「火を絶やさないように頑張ってるの!

 お湯を沸かして飲み水を作ってるくらいだからいいじゃない。……ここの枯れ枝は拾っていいかしら」

「薪売りに見つからないようにな」

「何でも誰かが売ってるのね」

「王都に近いからな。村の方だと森にあるものは取り放題だぞ。

 その代わり魔物に出会う確率は高くなる。……ここだな」

「わあ!スラムが見える」


 草むら越しにスラムをみて、ヘレンは声を上げた。


「やっぱり汚いところね」


 離れたところから見るスラムは、とても汚かった。

 ガラスが無くガランとした窓や、崩れた壁、その近くに座り込んだ汚い格好の人間が逸れを強調させているようだ。


「この木だ」


 ルードがとある木の前で止まる。ヘレンが上を見ると、まるでぶどうのように実がついていた。ときどき、ボトッと実が落ちてきた。


「クルミくらいの大きさなのね。名前は?」

「ソープナッツって言ってる。この辺はスラムに近いから、気味が悪いって誰も来ない」

「取り放題!」


 ヘレンはうきうきと拾い出した。


「持てない……」


 あっという間に両手をいっぱいのソープナッツを手にして、ヘレンは途方に暮れた。


「ルードヴィグ」


 本当になんにも持たないヘレンを哀れに思ったのか、ルードが加護を使う。


『御意』

「わ!籠!」


 ヘレンの足元に籠が現れた。縦長で肩から下げられるサイズだ。


「ありがとう!加護で?ブフッ」

「そう。なんで笑う」

「だって加護で籠って」


 ヘレンの笑いのツボに入ったらしく身体を震わせて笑っている。

 ルードはちょっとイラッとした。


「ルードヴィグ、取り上げろ」

「すみません!ごめんなさい!」


 ヘレンは籠を取られないようにしがみついた。しかし、ルードの影からスルッと手が伸びて、あっという間に取り上げてしまう。


「あぁっ!」

「ルードヴィグ、渡してやれ」


 ヘレンの絶望した顔に満足したルードはさっさとヘレンに籠を渡した。


「さっきから思ってたんだけど、ルードヴィグって王子だったときの名前でしょ?何で加護につけてるの?」

「俺の影だから。俺の一部なら俺の名前でいいだろ」


 ルードがそういうと、ルードの影が嬉しそうに震えた。


「こいつは俺で、親でもあり、教師でもある。土砂崩れに巻き込まれても、こいつがいたから生きてこれた」

「恩人ね」


 ソープナッツを籠に入れながらヘレンは返事をした。


「まあな、加護のおかげで腹が減ったこともないし、ケガや病気もしない。

 風呂に入らなくてもいつも清潔だ。衣食住で困ったことが無い」

「今の私には当てつけにしか聞こえないわ」


 さりげないルードの自慢に、ヘレンはジト目でにらんだ。


「だろうな。ある意味、俺は甘やかされて育った。人と会うまではそれが普通だと思っていた」

「人と交流がなかったの」


 ヘレンは驚いた。加護に育てられた少年。演劇にありそうなタイトルだ。


「そう。森の奥深くでずっと加護と住んでたんだ。でも、他人の存在を知って人里へ向かってみた。

 自分以外のやつを見て俺は不自由を知ったんだ。

 他人との交流は腹立つし、ムカつくことが多かった。いや、ムカつく事しかないな。

 でも楽しい。存在すら知らないことを教えてもらえたり、一緒に作業や行事に参加することで満たされるものがあると知った。

 隣人愛ってやつを知ったんだと思う。

 そのうち、加護のおかげでなんでも満たされていた俺に、困ったことが起きた。

 人と話すときの話題がない。あるある話について行けないんだ」

「あるある話?」


 黙って話を聞いていたヘレンは首を傾げた。


「晴れそうだから洗濯したら曇ったとか、便所を我慢してたら尿意が消えたとか」

「あー。傘持ってると雨振らないのよね」


 ヘレンはうんうんとうなずいた。


「そういうのが俺には全く無かった。だから俺は今不自由を体験している」

「不自由を体験って、神々の遊びじゃない」


 ヘレンが生きるために必要だと思うことは、ルードにとって苦労を経験するためのレクレーションなのだ。


「意味分かんねぇこと言うな。俺は不自由を体験するために集団のなかで働いて、薬草を採りって暮らしてるんだ」


 ──充分に神々の遊びだわ。


 ヘレンはルードの常識をここにきて初めて疑った。

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