第31話 そして歴史は繰り返す

 城下町の端っこにある宿屋。


 お城に帰りたくないと言ったぼくの為に、レッドが連れてきてくれた。

 ドラゴンと一緒に寝られる部屋と希望を言ったから、かなり広々としている。部屋の真ん中で抱き合ってキスをした。


 ヒョイと持ち上げられてベッドに押し倒された。フワフワの毛皮に包み込まれて、眩暈めまいがするほど気持ちいい。


「ドラゴンの卵でも産ませる気?」


『……君のような心身共に未成熟な者に無体を働くパートナー達がおかしいのだ』


 レッドの眼差しの前では何も隠せない。ううん、何も隠したくない。


「ぼくはただ、フリーとワイファがムリヤリ結婚させられるのが可哀想で、それならぼくが守ればいいと思ったんだ」


 二人から好意を感じていたし、ぼく自身も好意を抱いていた。だから問題ないと思った。


「子供が欲しいとワイファに抱かれて、イヤではなかったよ。だけどさ、その結果あちこちに亀裂が入った気がする」


 そもそも関係を持つつもりは無かった。プロポーズをしたけど、海の大魔女様に見せるデモンストレーションのつもりだったのに。


「フリーからも求められて、応じなければ目を覚まさないと思った。二人に子供が出来て安心していたら、次はキョウ君が情緒不安定になった」


 仕事で信じられないようなミスを連発して、料理長から苦情が来た。彼はずっとぼくの一番の座を狙っていて、他の女の子を連れて来てまで言わせたがったから、仕方なく公の場で愛の告白をした。


「一度体を許したら毎日求めてくる。引っかくし噛み付くし、さっきなんか首まで絞められた」


 命の危険を感じて屋上に逃げ出した。

 そこで気持ちを落ち着けるためにレッドと話していたところで山の大魔女様から指令を受けたんだ。


「三人とも大好きなのに、体を求められるのが今は耐えられないぐらいに辛い。ぼく、どこで間違えたのかな……」


『君にちゃんと性教育をしなかった私の責任だ。同情や、相手に求められたからといって関係を持ってはいけないと伝えるべきだった』


 爪が尖っているから、翼の方で頭を撫でてくれる。その優しさが嬉しい。


『本当に好きな一人とだけして欲しかった』


 たまらない気持ちになって、フカフカの首に手を回してキスをする。ドラゴンになってしまう前に、全力で気持ちを伝えるべきだった。


「大好きだよ。結婚したいのもエッチな事をしたいのも、ずっとレッドだけだよ。もうどうしたらいいのか分からない!」


 抱きついてワンワン泣いた。

 ぼくはヒドイ男だ。勢いで結婚して、流されるままに子供を作って、なんとなく魔王になって、空気を読んで体を許して。


 そして本命のレッドさえいれば、他はいらないとまで思っている。



「君の好きな場所に連れて行って……お願い……!」


『痛い思いをさせる事になるが、良いか?』


「いいよ」


 一瞬で喉元を食いちぎり、頭から食べてくれるのかな。君の一部になって生きていけるのなら、こんなに嬉しい事は無い。

 爪の先で首の後ろを叩かれて気を失った。




 ゆらゆらした感触に目を覚ました。

 視界に入る天使の羽はライライで間違いない。


『おはよう。気分はどうだろうか』


「レッド……ここはどこ。何をするつもりなの?」


『君が夜の見回り中に食魔鬼グールに食われて死亡したように偽装した。鼻が効く人狼を騙すために、城下町にある墓地に、君自身の血を大量に残した』


「ああ、だから目がグルグル回ってるのか」


『今から西の洞窟に入り、人間界に向かう』


「レッドがずっと憧れていて、修行先に選んだのに結局行けなかった場所だね」


『私が間違えていた。あんな胡散臭い男に言われる前に、最初から君と一緒に行っていれば良かったのだ。だからやり直す』


「レッド、嬉しい!」


『危険な場所かもしれん。すぐに死んでしまうかもしれん。だが君と一緒に居たい』


「もちろん、どこへでもついて行くよ!」



 ぼくが居なくなっても、魔界はきっと大丈夫。


 パトロールはドラゴン騎士団と魔王兵団がしてくれて、保育園と学校にはディアブロさんがいて、お城にはメイド長さんがいる。


 フリーとワイファは王子と姫の母親なんだから、これからもお城で暮らせるだろう。お城のメイドさん達は保育士スキルがあるから安心だ。


 キョウ君にはお似合いのダークエルフがいる。

 ぼくが居なくなれば、きっと彼女とうまくいくんじゃないかな。怖ーい弓を持っているから、ヒドイ事も出来ないだろうし。



『中は複雑に入り組んでいる。気をつけてついてきてくれ』


「待って」


 ふらつく頭をおさえながらライライから降りる。長く一緒にいたんだ。ちゃんと挨拶をしたい。


「ぼく達は遠い場所に行くから、ここでお別れだよ。ライライを大好きな家族から引き離すわけにはいかないから」


「キュウ?」


「大好きだよ。今までありがとう。元気でね」


 大きな顔に抱きつくと、ぺろぺろと顔を舐められた。そして鼻を使って器用に背中に乗せられた。


「キュウ!」


『どうやら家族より君がいいらしい。私の一番のライバルはライライかもしれぬな』


 洞窟の中に入り、まずは守護獣ガーディアンのドラゴンにご挨拶。その先は迷宮だった。右、左、右、落とし穴にわざとハマって、左、隠し通路で魔法陣ワープ。まっすぐ、よじ登る。針山の一つを折って進む、下、どんでん返し、斜め……。


「なにこのルート。複雑すぎない?」


「勇者避けにこうなっているらしい。父上から何度も聞いておいて良かった」


《オレ様は全然覚えてないから期待すんな》


「キュウキュウ!」


 もう二度と戻れないだろう道を、レッドとライライとスカイブルーと一緒に進んでいく。


「見よ、出口だ」


 知らない場所、知らない世界、少しだけ怖いけど、すごくワクワクしている。

 洞窟の先は光に満ちている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る