第30話 魔神教徒の残党、教祖と再会する

 月が全部隠れている夜。


 お城の屋上でレッドと布団に包まれながら話をしていたら、ほうきに乗ったキレイなお姉さんが現れた。プラチナブロンドの髪を三つ編みにして後頭部でひとまとめにしている。


「こんばんは、若き魔王よ。ワタクシは山の大魔女です」


「こんばんは、ぼくに何か御用ですか」


「ワタクシの相棒、十億の鏡ビリオンミラーによると、もうすぐ悲しい兄妹が死に、魔界が暗黒に包まれます。アナタの大切な存在が全て死に絶えるでしょう」


「そんな!」


「ただちに魔神教エリアに向かいなさい」


 大魔女様はまるで幻だったかのように消えた。

 レッドに乗り、羽パンダのライライも連れて、西側に向かって飛び立った。


 不安な気持ちにかられる、月光の無い星空を飛んでいくと、光一つ無い廃墟と化した場所に着いた。


 広場で身を寄せ合う子供がいる。


 血で書かれたらしい真っ赤な魔法陣の真ん中で、黒いフード付きローブを着て祈りを捧げている。

 暗闇からざわざわと不気味に蠢く気配。


 夜になると現れる、生きた魔族を喰らう食魔鬼グール

 ズリズリと地を這いながら子供達に近付いていく。何人か見覚えがある。縦ロール女、ヘビ女、ギラギラ女……死んでいった魔神教の連中だ。


『アスタロ!』


「レッドの仇もいたの?」


『ああ、どうやら死んでいたようだが、ここで会ったが百年目だ!』


 レッドの内側から熱いエネルギーが湧いてくる。

 しっかり背中に捕まっていたら、口から紅蓮の炎を噴き出した。移動しながらゴウゴウと音を立てて燃やし尽くしていく。


 食魔鬼グールは光が嫌いだ。もちろん炎は天敵。

 次から次へと消し炭に変えていく。殺された怒りをこめて、生きている人を救うため。


 赤い炎に包まれた世界で、魔法陣の中にレッドと共に降り立つ。

 子供達は抱き合って怯えている。


「こんな場所にいたら凍えてしまうよ、温かい場所に一緒に行こう。この子は羽パンダのライライ。乗り心地が最高だよ」


 ライライが羽をパタパタさせると、子供達の警戒が少し解けた。おそるおそる白黒の体に触ってくる。ライライが屈むと、キョロキョロしながら背中に乗った。


「しっかり捕まっていてね」


 保育園にゆっくり向かっていく。仕事や旅行で使うロングシフトの子達もいるため、夜でも人がいる。道中、子供達は一言も話さなかった。


『トリィ、先程の魔法陣だが、自分たちが殺される代わりに食魔鬼グールに命を与えるものだった。おそらくこの子達は魔神教徒だ』


 黒いフードを深く被っていて顔は分からないけど、背丈からして八歳とかだと思う。それなのに殉教しようとしたんだ。

 それほど教祖ヴヴが大切なのだろうか、エリアには居なかったみたいだけど。



 保育園に着いた。

 子供とはいえ二人乗りは疲れるらしい。ライライは町外れの草原で夜食をするために飛んでいく。


 顔パスで中に入ると、泊まりの子達が専用のパジャマ姿で自由に通路を行き来している。黒フードの二人も興味深そうに歩き出した。


「おひめさま、こんばんは!」


「サリーちゃん。こんな時間まで働いているなんて思わなかった」


「今日はたまたま人が足りなくて」


 サトリの保育士がいると噂になったことで、サリーちゃん達を置いて逃げた母親が会いに来た。元気な我が子を見て、泣き崩れて謝罪したそうだ。


「お母さんとはその後どう?」


「まだちょっとギクシャクしてるけど、なんとか暮らしてるよ。お仕事をみんなで教えてあげてるところ!」


 サトリの子達はお城から保育園の従業員宿舎に引っ越した。親子で頑張って働いてくれている。いつか借金を返し終えたお父さんにも会えたらいいね。

 コロンは赤ちゃんにして保育園のアイドルだ。


 元気になったディアブロさんは、花束を持って奥さんに会いに行った。長い話し合いの末に無事に和解できたそうだ。ディアブロさんは四つ子を保育園に預けながら、校長先生として学校を管理してくれている。


「サリーちゃーん。シーツはどこ置くんやっけ」


 最近働き始めたポン君は、タヌキ耳をピョコンと出しながらニコニコやってきた。黒フードの二人を見て、足を止めて目を丸くした。


「アリアとソロやん。お前らも来たんか」


「「──ッ!」」


 二人はビックリして後ずさって壁に激突してプルプル震えている。ポン君はぼくの所に小走りでやってきた。


「魔王様、あの二人、肌がコンプレックスで人前に顔ぉ見せられんかったんや。治してやってくれて、ほんにありがとうやで!」

 

 ライライに乗ってきたから自然に治ったのかな。

 ポン君は二人の元に行き、ガラスを指差す。恐る恐る覗いた後、黒フードをバサッと外した。


「なんで、キレイに、なってるの?」


「魔王様のおかげやで。良かったなあ、アリアは女の子なんやから、肌がキレイに越したことないしな。まあアザあった頃から可愛かったけどな」


「あのう……」


「んー。ソロはブツブツ消えたけどソバカスなっとんな。ケド、それはそれで大人の女にウケ良さそうやで!」


「……もしかして、ウヴさま……ごふっ」


 ポン君は男の子の口を慌てて塞いだ。魔神教徒の子供と面識があるだけなら別におかしくないけど、隠そうとするのは怪しいな。


 教祖ヴヴは信者なら誰でも抱けると聞いた。

 だけど、もしかしたら全て夢だったのかもしれない。タヌキ族は化かせるそうだから。


「えーん、会いたかったです。二人で土に潜っている間にみんな居なくなっていて、寂しかったです」


「置いてってすまんかった。二人がモグラ族なん忘れてたわ!」


「わあああん!」


 泣いている二人を見て、お泊まりの子供たちが集まって来た。それぞれ手に持った何かを次々と差し出した。


「ホットミルク、のむー?」


「これ鈴のオモチャ、元気が出るよ」


「ウサギのぬいぐるみ貸してあげるよ〜」


 黒フードの子達はしっかり受け取って、笑った。


「二人ともラッキーやったな、明日はドラゴン研究センターに遠足やで。大人気のファードラゴン見られんで」


 彼らの対応は元教祖に任せて、レッドと一緒にお城に戻ろうとした時、肌の下を虫が這い回るような心地がした。


『トリィ、どうした?』


 頭の奥で何かがプツンと切れた音がした。



「帰りたくない。レッド、ぼくを連れて逃げて」

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