7月(その1)

   

 六月末に狂犬病の予防接種を済ませて、ようやく家の敷地から外へ出せるようになり……。

 初めての散歩は、七月に入ってからの出来事だった。


 雨が降っていない限り、朝昼晩の食事のたびに、食前の運動として散歩に出かける。朝は父が、昼は私が担当で、夕方は日によって私か父のどちらか片方。たまに両方で行く、という感じだ。


 うちの子犬は、元々庭で遊んでいた頃から、近所の人や犬が通りかかると喜んでいた。垣根越しに遊んでもらう場合もあった。

 また、私の家は公園の隣にあり、庭も公園から見えるので、公園で遊んでいた子供たちが犬に手を振ったり、ボールを投げたりしてくれることもあった。

 だから散歩を始めた時点で既に、うちの子犬は、少し近所の人々と顔見知り。他の犬の散歩と遭遇して飼い主さんから声をかけてもらったり、学校帰りの子供たちが遊んでくれたり。人懐っこいトイプードルにとっては最高の幸せのようで、散歩が大好きになった。


 特に赤ちゃんのうちは「人懐っこい」という性質も強いのだろう。

 散歩をしていて人や犬を見かけると「遊んで! 遊んで!」と飛び跳ねる。前脚はダラリと突き出して、後脚だけでピョンピョン跳ねるのだ。昔の映画にあったキョンシーの歩き方みたい……といっても、若い人には通じない例えかもしれないが。


 先ほど「朝昼晩の食事のたびに、食前の運動として」と書いたように、散歩は原則として一日三回。近所の住宅街をぐるっと回って、だいたい三十分程度だ。

 散歩以外にまだ庭で遊ぶ時もあったが、誰か通りかかったわけでもないのに、ジーッと外を眺めたりする。よほど散歩へ行きたいらしい。


 なお「一日三回」というのは「原則として」であり、朝食と昼食の間や昼食と夕食の間に、さらに散歩へ行く場合もあった。一日で五回も散歩に出かけた日もあったが、さすがにそれは一度か二度だけだったと思う。


 あまり何度も散歩に出かける日は散歩の距離が短くなり、うちの隣の公園で済ませることもあった。

 私が落としたペットボトルホルダーをおもちゃにして、草の上で寝転んでいる子犬。そんな姿を見ると「こんな遊び方ならば、わざわざ散歩に出ずに家の庭でも十分だろうに」と思うのだが、それでも散歩へ行きたがるのが、犬の習性なのだろう。

   

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