第28話:アフターが楽しすぎる!
***
コスプレイベントの会場だったショッピングモールから出て、アフターの約束をしていたカラオケルームに到着した。
くるるからメッセージで教えてもらった部屋番号を探して、ルームの扉を開けた。
「おおーっ、主役のご到着だぁー!」
一歩中に入ると、はるるが大きく両手を広げて俺たちを歓迎してくれた。
既に三人とも到着していて、俺と仁志名がラストになってしまった。
数多くのカメラマンから撮影をリクエストされるとは想定外だったしな。そのせいで、遅くなってしまった。
「遅くなってごめんちゃいー!」
なんなんだよ『ごめんちゃい』って。
わけのわからないセリフも仁志名が言ったら、みんなが笑って許してくれる。
明るくてあっけらかんとした仁志名の性格のおかげだ。
俺がそんなセリフを言ったら、きっと「ふざけんな」って睨まれて終わりだな。
それにしても、さっきまでアニメキャラのコスプレをしていた三人が私服に戻っている姿は、なんだか違和感がある。不思議な感覚。
だけどトップモデルのような雰囲気の美人だからすごくカッコいいし、やっぱり素敵な女性って感じだ。
男装コスプレが似合うのも納得だよな。
はるるは元気少女ってイメージがぴったりのミニスカートスタイル。
くるるは繊細な性格を表すかのような、清楚綺麗なワンピース。
顔は同じなのにまったく違う印象の二人。
そのどちらもがすごく可愛い女の子。
待ってくれ。
ここはカラオケルームという閉鎖空間。
そんな閉じられた空間に、こんな美人達と一緒に俺がいるなんて。
これは現実なのか?
俺は夢を見ているのか?
それとも実は、ここは異世界なのでは?
これっていったいなんのファンタジーなんだよ?
なーんてアホなことを考えていたら、横から大声が響いた。
「うっわぁーっ、美味しそーっっっ!!」
テーブルに狭しと並べられた食べ物を目にして、仁志名がにんまりと笑っている。
何種類ものパフェ、ショートケーキ、パンケーキ。
なんだこれ。スイーツの大名行列かよ。
「お店の人が季節のスイーツキャンペーンだって言うからさ。ゆずゆずが来る前に、甘いものたっくさん頼んどいたよ!」
「うっわ、はるるさんきゅ!! これヤバ。エグいて!」
「まあまあゆずゆず。そんなとこでよだれを流して突っ立ってないで、とりあえずドリンク入れて来なよ!」
「誰がよだれを流してるってぇ〜!?」
お前だよ仁志名。
よく見たら、マジで唇の端によだれが浮いてるぞ。どんだけ食いしん坊なんだよ。
「ほら、行くぞ仁志名」
「ああーん、待ってよ日賀っぴぃ〜」
俺たちは二人でルームを出て、ドリンクコーナーに行った。
飲み物をグラスに注いでると、仁志名が話しかけてくる。
「アフター、めっちゃ楽しそーだね! 誘ってもらってよかったぁ!」
「そうだな」
仁志名とはるるのテンションの高さに、俺はビビってるけどな。
常識的で大人な
もしも仁志名とはるるだけの面子だったら、俺はきっと居づらくて逃げ出してるところだ。
ドリンクを手にルームに戻り、ソファ席の空いているところに仁志名と並んで腰をかけた。
するとなぜかくるるが俺の隣に移動してきて、ちょこんと座る。そしてメニューを渡された。
「なにか好きな食べもの……注文すればいい」
「あ、ありがとう」
──優しいな、くるる。
リモコンを使って、俺はポテチとかお菓子の盛り合わせを注文した。
仁志名は予想通り、既にテーブルに並んでる季節のスイーツを虎視眈々と狙ってる。
食べる気満々だな。
「それじゃあ乾杯しましょか」
「みなさん、イベントお疲れ~!」
「お疲れ様でぇーす!!」
「お疲れーしょん!」
もちろん最後の変な掛け声は仁志名。笑える。
こうしてコスプレイヤー達とのアフターが始まった。
***
──なにこれ、楽しい。楽しすぎるっ!
まずはみんなの推しアニメ、推しキャラの話題から会話が始まった。
大人っぽくて知的で、作品の衣装に滅法詳しい
明るくて作品愛が身体中から溢れ出す、はるる。
コミュ障で口数は多くないけど作品知識はピカイチのくるる。
そしてアニメ話をする相手を渇望していた仁志名と、アニメさえあれば他は何も要らない俺。
個性も様々な5人だけど、全員が知識も豊富で、作品愛に溢れたディープな会話が繰り広げられる。
仁志名は「たのしーっ!」を連発している。
彼女のリア充友達はあまりアニメに興味がなくて、アニメの話をガッツリできる友達が欲しいとずっと望んでいたんだ。
こんなに楽しくアニメ話をできて、きっとものすごく嬉しいんだろうな。
いつも以上にキラキラと目を輝かせているもんな。
そして会話の流れは自然と、コスプレの話になる。
コスプレをやりだしたきっかけは、全員が全員『大好きなキャラに成りたいから』だった。
仁志名もそう言っていたし、コスプレをしている人の多くは、そういう気持ちなんだろうな。
「ところでゆずゆずって、まだコスプレやりだして間もないのに、そのクオリティは凄いねぇー!」
「ありがとー! でもこれは、てんごくさんのおかげなんだよっ」
「いやいや。ゆずゆずの完コスを目指す熱意がすごいからだよ。それに……」
「そーなんだよっ。日賀っぴのおかげっっっ!」
いや、待って。仁志名もそんなふうに俺を見るから、はるるとくるるも俺を凝視してるじゃないか。
美女4人に見つめられて、俺はどこを見たらいいのかわからん。
思いっきり目が泳いでしまった。
「うん。arata君の存在は大きいね」
「いいなぁ。私も日賀君みたいなパートナーがいればいいのにな」
「わ、私もarata様がほしい……」
くるるのセリフは誤解を招きそうで怖いけど。
三人とも嬉しいことを言ってくれる。
でも──
今日のコスプレで、仁志名の完コスしたいって目標は限りなくゴールに近づいた。
しかも大好きなアニメを語り合える友達が欲しいって望みも同時に叶えてしまった。
つまり。仁志名のパートナーとしての俺の役割は、これで終わりだってことだ。
仁志名の望みが二つとも叶って、とても嬉しい。
そして陽キャなギャルに振り回される日々も、ようやく終わる。
仁志名のコスプレ撮影は、もしかしたら今日がラストかもしれない。
そう。これでいいんだ。
これできっと、俺の平穏な日々が戻ってくる。
俺にとっても嬉しい……はずなのに。
わいわいと楽しそうな美女4人の姿が、どこか遠くの光景のように感じた。
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