第22話:くるるの正体
「まさか……だってメッセージでやり取りしたけど、くるるはめっちゃ明るい人だったぞ?」
「ああ、それね。くるみって対面だとコミュ障だけど、文章だったらすっごく明るくて饒舌なんだよ」
なにそれ?
あ、でもわかるかも。
俺もそういうところはある。
「それにくるみってコスプレしてる時はそのキャラになりきるから、人が変わったみたいになるからね。後でびっくりしないように!」
「そ、そうなんだ」
あの無表情であまり喋らないくるみさんが、いったいどんなふうになるのか、ちょっと……いやかなり興味がある。
「双子姉妹でコスプレしてるんだね」
「そうなんだよぉ! 双子レイヤーの『はるるとくるる』でーすっ!」
金髪のウィッグに青を基調としたロングドレスの爽やかなコスチューム。
なにこの可愛さ。
ダメだ。魂を抜き取られた。
「えっと……日賀君?」
「えっ? あ、はい?」
「ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。あまりに素敵なジャンヌなんでフリーズしてた」
「ええーっ? やったぁ! 日賀君に褒められたら嬉しいなぁ!!」
ガッツポーズしてる。
ホントに嬉しそう喜んでくれるなぁ。
こっちまで嬉しくなる。
これだけ美人でスタイル良くて、このクオリティのコスプレ。
誰だって褒めるしかないでしょ。
「それにしても待たせてごめんね。もうすぐカメコさん切れるから、そしたらくるみを呼ぶよ」
「えっと……カメコさん?」
「ああ、カメラマンさんのこと。カメラ小僧の略でカメコ。レイヤー用語かな」
「へえ、そうなんだ」
「さっきまでずらっとカメコさん並んでたんだけど、あと一人で終わりだからね。ちょうどタイミングよかったよ」
カメコか。なんだか可愛いな。
そう言えばカメラマンさんもあと一人で終わりそうだ。
──
我らが
基本的に無表情だが、時折ふと見せる物憂げな微笑。
その美しくも生気のない瞳の奥には、どことなくもの悲しさが漂う。
くるみさんが演じる
衣装も表情もポーズもめっちゃ雰囲気あっていいな。
「いやあ、それにしても日賀君が
くるみさん扮する
「うれ……しい?」
「うん。私もくるみも、arataの写真は凄いねっていつも言ってたんだ。私たちarataの大ファンだよっ!」
「えぇっ、大ファン?」
「うん」
面と向かってそこまで言われるとめっちゃ照れる。
「そっか……ありがとう」
ここにも俺の写真のファンがいた。
ずっと人には言えない恥ずかしいオタク趣味だと思って、ひっそりと一人でやってたフィギュア撮影。
だけどこうやってファンでいてくれる人たちがいるんだ。嬉しいな。
「この前『アニメ~だカフェ』で喋った時も、日賀君ってタダ者じゃないって思ったし」
「いや、別にそんな大したもんじゃないでしょ」
「いやいや! あそこまでDALバナ語れる人ってなかなかいないよ。作品愛が溢れてた! だから話してて、めっちゃ楽しかったよ!!」
確かに俺は、DALへの愛はダダ漏れするくらいに溢れてる。それは間違いない。
だけどそう言うはるみさんも、とても作品愛に溢れた人だ。
くるみさんも同じく。
だからこの人たちと話していると、そりゃもう幸せの極致に浸れる。
しばらくはるみさんと雑談していると、やがてくるみさんを撮っていたカメコさんの撮影が終わった。
カメコさんはくるみさんに丁寧に頭を下げてから立ち去って行った。
「さ、行くよ!」
はるみさんが突然俺の手首を握って、くるみさんの方に歩き出した。
いや、あの。
可愛すぎる女子に手を握られるなんて、心臓が破裂したらどうしてくれるんだよ。
──なんて俺の心配をよそに、くるみさんの前までぐいぐいと引っ張られてしまった。
「くるる! ほらっ!」
はるみさんはくるみさんに向かって、俺を指差す。
俺に気づいて、くるみさんは無表情な目をこちらに向けた。
その氷のような冷たい視線にドキリとする。
おおーっ、さすがだ。
アニメの
成り切ってるな!
「あ、こんにちは……」
演技だとわかっていても、ちょっとビビりながら挨拶をした。
「誰だ貴様は?」
「……は?」
低温で感情のない声。
そして突き刺すような鋭い視線。
マジでビビる。
「その間抜けな顔をわらわの前に晒すのは、いい加減にしたらどうだ。
「えっと……」
確かに
だけど目の前で言われたらグサッとくるものがある。
オタクの心は繊細なんだよ!
「こらっ、くるる! いい加減、
はるみさんが漫才のツッコミのように、手のひらでくるみさんの額をパシっと叩いた。
「あ痛っつつつ! ごめん……」
顔をしかめて両手でおでこを押さえるくるみさん。
急に普段の声に戻った。
そしてここにいるはずのない俺を不思議そうな顔で見た。
「なんで日賀君がここに?」
「あのさ、くるる。聞いて驚けっ!」
「えっ? びっくりした」
「まだ何も言っとらんわい!」
またはるみさんが手のひらでくるみさんのおでこに、パシッとツッコミをいれる。
「痛っつ……」
再び両手でおでこを押さえるくるみさん。
なんだこれ。姉妹漫才かよ。
しかも超クラシックスタイル漫才。
正ヒロインの『精霊のジャンヌ』と、悪のヒロイン『
ある意味尊い。
しかも二人とも超絶美人。
こんなのアニメでは絶対に見れない。
うわ、楽しすぎるっっっ!
「あのさくるる。今から言うよ! なんとフィギュア写真家の
「え……? ホントに? 日賀君がarata様?」
くるみさんが俺を見る目が、なんだかキラキラ輝いたような気がする。
「いや、arata様ってなんだよ?」
「くるるはarataの写真を崇拝してるからね。まあそれくらいのリアクションになるでしょ」
「え? くるみさん、マジで?」
「うん……」
キラキラした目でコクコクと頷くくるみさん。
どうやらマジな話らしい。
いや、めっちゃ嬉しいんですけど!
嬉しすぎて、俺どうしたらいい?
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