第21話:嬉し楽しいコスプレイベント
◇◇◇
日曜日。とうとうコスプレイベントの日がやってきた。
仁志名とは時間と車両を示し合わせ、朝から同じ電車で行く約束をした。
俺が先に乗っている電車で二駅進み、そこに彼女が後から乗ってくる。
「ヤッホ!」
電車の扉が開いた途端、満面の笑みで片手を上げながら仁志名が乗車してきた。
大きな声なので、車内の乗客が何人かこちらを振り返る。そしてほとんどの人がそのまま釘づけになって仁志名を見つめている。
モデルかと見紛う顔とスタイル。そりゃあ目を引く。
そしてその後、俺を不思議そうに見るところまでがワンセットだ。
そんな目で見るな。
地味な俺と仁志名が一緒にいるのが、違和感があるのは自分でわかっている。
今日の仁志名のファッションはハイネックのニット。
身体にピッタリフィットしてるし、肩と胸のところにスリットがあってセクシーだ。
背中に衣裳を入れた大きなリュックを背負っているから、肩紐が腋に食い込んで、バストのボリュームがより一層はっきりわかる。
ううむ……。
スカートは腰高が高い黒いミニで、ブーツとの取り合わせがお洒落。
いつ見ても違う服だな。いったいどんだけ服を持ってるんだよ仁志名。
「どーしたの日賀っぴ?」
「いや別に」
見とれてたとは、恥ずかしくて言えない。
「そっか。今日は楽しみだねー」
「そうだな」
「楽しみすぎて、夜しか眠れなかったよぉ」
「夜眠れたら普通だろ」
「だよねー、キャハハ」
どうした仁志名。使い古されたギャグでめっちゃ楽しそうだ。
テンション上げ上げってやつだな。
「イベントなんて初めてだし、楽しみだよな」
「そうそう! 日賀っぴのおかげだよ。ありがと」
「いや、たまたま見つけただけだし」
ホントはかなり時間をかけて色々と探した結果なんだけど。
押しつけがましいのも嫌なんで、まあそれは黙っておこう。
「レイヤーさんと約束も取ってくれたじゃん」
「まあそうだけど」
「それに日賀っぴとお出かけするの嬉しいし!」
──え? 俺と出かけるのが嬉しい?
「今日もいーっぱいアニメの話ができるっ!」
なるほど。アニメ話ができるのが嬉しいわけだね。
ニッカリ笑った顔の横で両手でピースサイン。
ただでさえ美人なのに、余計に可愛く見える仕草は反則だ、と思った。
何に対する反則なのかは知らないが。
こんな感じで、コスプレイベント会場に着くまで、仁志名はいつも以上に終始ご機嫌だった。
◇◇◇
コスプレイベントの会場は、ターミナル駅から直結している大型のショッピングモールだ。3階建ての建物に、様々な種類のお店が入っている。
3階フロアに設置された受付で、二人とも手続きを済ませた。仁志名はコスプレイヤー、俺はカメラマン。
仁志名は着替えがあるので更衣室に向かう。
俺はレイヤーのくるると待ち合わせがあるから、建物の外にあるガーデンに向かった。後で仁志名もそこで合流することになっている。
エスカレーターを利用して1階に降りた。
左右に店舗が並ぶ広い通路を歩いていると、何人かのコスプレイヤーが歩いているのを見かけた。
お、あれはラブコメの大ヒット作、『イケてるヒロインの作り方』のヒロイン3人組か!
あっちは世界的大ヒットアニメ『鬼神大戦』の主人公とメインヒロイン!
日常的な景色と言えるショッピングモールに、アニメキャラがゾロゾロ歩いてるなんて。
面白い! 楽しすぎる!
うーん、来てよかった。
道行くコスプレイヤーさんをずっと眺めていたい気分だけど、待ち合わせがあるからそうもいかない。
──って言うか、今日はこの施設の至る所にレイヤーさんがいるんだった。
これからいくらでも、こういう景色を見れる。
俺は建物から裏手にあるガーデンに出た。所々に植栽や花が植えられ、ベンチもある広々としたスペース。
ここにもレイヤーさんがあちらこちらにいる。
ここではカメラマンに写真撮影してもらっているレイヤーさんも多い。
男性レイヤーも多いな。
おおーっ、太った魔人や筋肉隆々の格闘家キャラとか、結構ユーモラスなコスプレイヤーもいる。面白い。
よし。後で仁志名の写真はここで撮ろう。
「えっと……」
くるるさんから、このガーデンに時計の塔があると聞いた。
そこの前で待ち合わせだ。
ぐるっと見回すと、ガーデンの中央辺りにニョキっと白くて細い塔が建っているのが見えた。
塔の上部には時計がはめ込まれているし、きっとあれだろう。
少し歩いて塔に近づくと、そこに人だかりができているのが目に入った。
なんだろう……?
塔のすぐ前で女性のレイヤーさんがポーズを取っている。
前では男性カメラマンが一人、パシャパシャとシャッターを切っている。
その後ろにも、あれは撮影の順番待ちをしているのだろうか、カメラを持った人が何人か並んで待っている。めちゃくちゃ人気者だな。
あのコスプレは
影峰喰衣を闇堕ちさせた張本人だ。
真っ黒なドレスに所々血を思わせる真紅のデザインがカッコいい。
物憂げな表情がまるで本物の歌憐のようだし、ポーズも決まっている。
それに、背筋が凍りつくほど美しく整った顔。
──あれは……きっとくるるだ。
すぐ近くまで寄ってみたけど、くるるらしき人はずっと写真を撮られていて、声をかけるタイミングがない。
あんなところに切り込んで行く勇気は、コミュ障の俺には微塵もない。
どうしたらいいのかとぼんやり眺めるしかなかった。
「あっれぇー? 日賀くん!」
後ろからやけに明るい女の子の声が響いた。
振り向くと
金髪のウィッグに青を基調としたロングドレスの爽やかなコスチューム。
手には聖剣エクスカリバー。そしてびっくりするような美人。
うわ、カッコいい!
──で、この人は……誰?
「ほら、私だよっ! 『アニメ〜だ』で会ったはるみ!」
え? ああっ、そっか!
双子姉妹のすごく明るくて可愛いお姉さんの方。
確かにこの顔ははるみさんだ。
「はるみさん! コスプレしてたんだ」
「うん! 『はるる』ってレイヤーネームだよ。よろしくっ!」
指を二本揃えて、額の辺りで敬礼ポーズ。
可愛い。なんだこの尊さは。
闘う女の子キャラにめっちゃハマってる。
「おおっ、カッコいい!」
「ありがとーっ!」
ニッカリ笑ったはるみさん。
マジでカッコ良くて美人。
そうか。はるみさんってレイヤーさんだったんだ。
レイヤー名『はるる』か。
とことん明るいはるみさんにぴったりの可愛い名前だな。
「日賀くん、今日はたまたま来たの? それともコスプレイベント見に来た?」
「いや、くるるってレイヤーさんに会いに。コスプレのアドバイスをしてもらう約束をしたんだ」
言って、くるるらしき
まだ写真を撮られている。すごい人気だ。
だって他のレイヤーと比べても、突出してカッコいいもんな。
いや、目の前のはるみさんも同じくらいカッコいいけど。
「ええーっ!? もしかして、くるると待ち合わせしてる
「あ、うん。そうだけど。なんではるみさんが知ってんの?」
「だってくるみが言ってたもん。arataからメッセージが来て、コスプレのアドバイスすることになったって」
「ええーっ?? くるるって、くるみさんなの?」
「そうだよ! ほら、あれね!」
はるみさんが指差したのは、目の前の
やはりあれが間違いなくくるるだった。
そして……くるるはくるみさんだった!?
嘘だろ?
しばらくはその事実が信じられなくて、俺はボーっと立ちつくしていた。
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