第12話:ギャルは友達を大切にする
◇◇◇
「いやぁ、めっちゃくちゃ楽しかったぁ! コスの直しもやってもらえることになったし、日賀っぴ、今日はマジありがとね!」
最寄り駅まで一緒に歩いていると、仁志名は横を向いて、俺の目を見てそう言った。
目の奥が輝きに包まれているって言うか、本当に嬉しそうな柔らかな眼差しだ。くっきりとした二重の大きな目が、さらにキラキラと輝いて見える。
学校イチの美人ギャルとお出かけするなんてのは最初は抵抗があったけど、こんなに喜んでくれているなら、がんばって出てきた甲斐もあったというものだ。
最寄り駅はこの大都市の誇る大型のターミナル駅で、駅に近づくにつれて大勢の人で混雑する中を歩くことになる。
すれ違う人を避けるために、俺と仁志名は少し離れたり近づいたりしながら、駅に向かって歩いていた。
すると突然、男性の声に呼び止められて仁志名が歩を止めた。
「おい、
「あ、
「ああ。今日は中学ん時のダチで集まってさ。これからカラオケ行くんだよ」
「へぇ、そうなんだ。みんなお久ぁ~!」
「おお仁志名! 相変わらず美人だなぁ!」
「いやいや、お世辞言ってもなんも出ないからっ!」
「お世辞じゃねぇって!」
「あははっ、そっかありがとっ!」
なるほど。仁志名の中学の友達か。男ばっかり4人。
全員カッコいいし、いかにもリア充だって感じのチャラチャラ……いや陽気なヤツばっか。彼女が仲良くしてたってのが納得できる顔ぶれだ。
仁志名の方も楽しそうに笑ってるし、ノリが合うって感じ。
俺だけコミュ障のオタクで、なんだか場違いな気がした。
「
「そうだそうだ、仁志名も来てくれよ! 行こうぜ行こうぜ!」
コスプレショップに行くっていう俺たちの用事はもう済んだし、これから一緒に電車に乗って帰る予定だったけど……そういうことならここで仁志名とは別れることになるな。
仁志名だって、気が合うコイツらと遊びに行った方が楽しいだろうし。
「ごめーん、みんな。今日は友達と一緒だからさ。今から一緒に帰るんだ。だから今度また行こーね!」
──え? なんだって?
「いや仁志名。今から帰るだけなんだから、彼らとカラオケ行けばいいよ」
「なに言ってんのさ日賀っぴ。一緒に帰る約束だったじゃん。一緒に遊びに来たんだから、最後まで一緒に行動すんのがれーぎってもんでしょ」
えっと……コスプレショップに行く目的で同行したんだと思ってたけど、俺達一緒に遊びに来たんだったっけ?
それに最後まで一緒に行動するのが礼儀だなんて、どんだけ律儀なんだよ。
「ほらほら、そいつもいいって言ってんじゃんかよ柚々。そんな地味なヤツほっといてさ、俺らとカラオケいこーぜ!」
「……は?」
いきなり仁志名が低くて不機嫌な声を出した。
一瞬で場が凍りついた。
いつも陽気な仁志名が、眉間にしわを寄せている。
どうしたんだ?
「こら勇太! あたしの大切な友達をそんな言い方すんな! ほっていけるはずないじゃん!」
「あ、いや……」
「あんたってそんなヤツだっけ? 友達大事にする人だって思ってたよ。もしあんたがあたしの友達を蔑ろにしろって言うんなら、あんたとは友達の縁を切るかんね!」
「あ、スマン
イケメン男子が両手を合わせて頭を下げてる。真剣な顔だ。
周りのヤツらも「今のは勇太が悪い」って口々に言っている。
「柚々の友達君。悪かったよ。ごめんな」
はっきりとモノをいう仁志名も凄いけど、すぐに間違いを認めて謝る男子も凄い。
俺には無理だな。あはは。
「いや、大丈夫だよ」
失礼なヤツだって一瞬思ったけど、やっぱり仁志名が仲良くしていた友達だ。いいヤツだ。
「じゃあ柚々、また今度カラオケ行こうぜ! また連絡するわ」
「うん、ごめんねぇ、みんな! じゃ、またっ!」
友達連中はみんな笑顔で手を振って、繁華街の方に去って行った。
「ホントによかったのか仁志名?」
「もっちろん! さっき言ったとーりだよ。大事な友達の日賀っぴ置いて、遊びに行く気になんてなれないし」
「そっか。ごめんな」
「なに謝ってんのさ。こっちこそごめんね。あたしの友達のせいで、嫌な気分にさせちゃって」
「いや、俺なら全然大丈夫だ」
強がりでもなんでもない。仁志名があそこまで言ってくれたんだ。
勇太ってやつの言葉でちょっと嫌な気がしたけど、仁志名のおかげでそんな気分は一瞬で吹き飛んでしまった。
それにしてもさっきのセリフ、カッコよかったな。
仁志名って可愛いだけじゃなくて、カッコいい女の子なんだと実感した。
「じゃあ帰ろっか日賀っぴ」
「ああ、そうだな」
「あれっ? ニヤニヤしてどーしたの?」
「いや別に。今日はコスの直しも頼めたし、色々と学ぶこともできたし、充実した日だったなぁって思っただけだよ」
「うん、そーだね! 今日はとーっても充実した日だったぁ!」
さっきの仁志名のセリフが嬉しかったせいだよ、なんて、照れ臭くてとても言えなかった。
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