04 売店本日も開店中。ご来店お待ちしております。

 ロビー前ゲート。



 付いていった先は、いくつかゲートがあり、たくさんの人が入場している。


 皆、名札をかざして、開いたゲートの中へと入っている。


 1度だけ、友人を見送った時に見たことのある空港のゲートに似ている。



「ここから中に入るの?」


「はい。あのゲートからロビーへと行くことができます。わたくしの案内はここまでとなります。何かありましたら気軽にご連絡ください」



 とルイは言い、スマートフォンのような携帯端末を渡してきた。



「この端末は、土の男神が現世のスマートフォン? というのをモデルにして作ったそうです」



 私はそれを受け取り、電源を入れてみた。

 

 スマホとは違い、『連絡』と『地図』のアイコンしかなかった。アプリを入れるためのアプリも無い。

 

 私は端末の画面にある『連絡』をタッチし、電話とメッセージと出てきたので電話をタッチした後にルイの名前を選択した。すると、ルイが持っている端末が震えたようで、取ってくれた。



「テストは大事ですね。うまく機能しているようです」



 電話を取ったルイはそう言ってきた。


 次に『地図』のアプリを開いてみた。


 そこには星間郵便局のマークがあり、その上に人型のアイコンが立っているのが分かった。



「それもうまく機能してるようですね。使い方は簡単ですので、現在地と局の位置がわからない時に使ってください。あと、端末を見ることのできない状況でしたら、わたくしがサポートいたします」



 ルイは端末を覗き込んで確認をしてくれた。そして、



「局長をお返しします。それでは道中お気をつけて」



 私はゲンを受け取り、ルイは一礼をする。



「うん終わったか。じゃあ早速行こうか」



 いつから話を聞いていたのか、ゲンが動き出しフヨフヨと私の周りを浮いて回っている。


 私はゲートを開けるために局員証をかざし、ゲートをくぐった。



「ぬいぐるみでも飛べるのね。見えない糸でもある?」



 歩きながらフヨフヨ浮いているゲンを見て聞く。



「いやいや。その糸は誰が持っているんだよ。ぬいぐるみの中に魂が入っているからスイスイ飛べる。あと力持ちだぞ」



 ゲンは笑いながらフヨフヨしながら進む。



---



 星間郵便局ロビー。



 ゲートをくぐると、とても広くて壁一面ガラスで、外が見える部屋に出た。


 外は真っ暗で、ポツポツと星らしき物が見えているが、ここからだとはっきりとは見えない。


 よく見ると複数のゲートがあり、そこからのんびりと入ってくる局員の人と、出て行く人それぞれいた。


 見た感じ高齢の人が多い気がする。



「何か忘れている気がするが、早速外に出ようか」



 ゲンは出発ゲートの方へと向かう。



「あれ? ちょっと待って。何か手続きとか、持っていく物とかはないの」



 私は何か足りない気がしたので呼び止めた。



「いや特にない」


「お手紙はまだ預かってないんだけど、どこで受け取れるの」



 私はカバンを指して言った。



「うん? もう入ってると思うけど見た?」



 私はそれを聞きカバンを開ける。


 ゲンはカバンを覗き込んだ。



「あ! いつの間にか入ってる! 私が見ていないうちに誰かが入れた?」



 開けるとびっくり。そこにはたくさんの手紙が入っていた。私は周囲をキョロキョロ見る。



「いやこれなー、実はムウだけのカバンではなくて、全局員と中身を共有しているものなんだ。この出発ロビーに入ると中身が見えるようになる。もし、自身で必要なものを持ち運びたいんだったら、もう一つカバンを持たないといけない」



 そう言った後ゲンは、あ! とか言いながら続きを話す。



「忘れていた。あっちにある売店にいろんなカバンが置いてあるから、もし必要だったら選んでみるといいよ。あと、初日だから必要なものを買い込むといい」



 ゲンは、ゲートがない方の壁を指した。そこには、売店とは言えない大きさのお店があった。


 看板に『売店』って書いてあるけど、どう見てもスーパーマーケットだ。



「売店本日も開店中。ご来店お待ちしております……」



 売店入り口横に、でかでかとそう書かれた懸垂幕が掛かっていた。つい口に出して読んでしまった。


 その売店の横に行列ができているけど、まあいいか。あと、食堂らしき場所も隣にあるね。


 私は、ポケットに入れていた端末を取り出す。



「荷物とか入れるものが欲しいから買いに行きたいな」


「さっき貰ったお金が使えるから、それを使うといい。ついでに食べるものも用意しておこう」



 そう言いながら私達は売店の中へと入った。



---



 売店。



 看板に『売店』と書いてあったスーパーマーケット。


 売店は外から見るよりも大きく、奥行きがあった。


 食べ物コーナーや、さっき言ってたカバンコーナー、靴や制服まで置いてあるようだ。


 他にも便利グッズがあるようで、郵便配達の時に、役に立ちそうなものばかりが置いてあった。


 ロビー側の入り口には、さっきくぐってきたゲートがあり、入場が制限されていた。


 反対側にも入り口があるがゲートは無い。


 そこから頭に角の生えた人達も出入りしていることから、局員以外の人のロビーへの入場を制限しているものと感じられる。



「この食べ物とかいろいろものがあるけど、これってどこから来るんですか?」



 私は野菜・果物コーナーの一画にあった物を指し、ふと思った疑問を聞いてみた。


 死後の世界なのか夢の世界なのかわからないけど、ここの置いてあるものがちゃんとしたものじゃないと怖い気がするからだ。



「ここに置いているものは、全部現世で死者へと捧げられたものや捨てられたものだよ。これらは全て物の魂だ。料理は別だがな」



 と言ってゲンは、1つのリンゴを手に取る。


 たしか、日本では物にも神様が宿るという八百万の神の神話があったな。それがもしかしてこの事かな?



「あと、ここで使われている通貨も、現世で燃やされて送られてきたものだよ。1部の地域であの世のお金として、紙を燃やす所があるんだ。その亡くなってこっちに来た人のためにって燃やして送るみたいなんだけど、その人もずっとここにいるわけでは無いから、お金だけ残っちゃう。年々増える物だから、金の男神が管理して調整をしている。お金の価値が薄まっちゃうから大変だよって言われたわ」



 とゲンは呟いている。


 その一部地域って沖縄だったかな。


 家族が亡くなった後、あの世のお金として度々燃やす習慣があるって聞いたことある。


 沖縄の友達が、おじぃのために打ち紙ウチカビ燃やすーって言ったな。



「そうなのね。あ! これいいかもー」



 そう言いながら、私は近くにあった少し大きめの良さげなカバンを手に取った。



「それでいいのか? もっと大きいやつあるぞ」


「そんなにたくさん持たないからいい。食べ物と財布と端末が入ればいいから」



 そう言って、買い物カゴの中にカバンを入れる。



「へー、ムウはそうなんだね。他の人はできるだけたくさん買い込んでもっていくと言う人もいたなぁ。まぁ、あれはすごく重そうだったけどね」



 ゲンはすぐに食べられそうなものを選んではカゴに入れてを繰り返している。


 あと、旅に使いそうな物も入れた。



「よし、会計行くぞー。他に欲しいものあるか?」



 ゲンは買物かごを下から持ち上げて、会計に持っていこうとしている。



「あ、欲しい物があるから、あっちも見ていい?」



 と言って、私はアクセサリーコーナーへと向かった。普段はアクセサリーとか着けないけど、なぜか必要だと感じてしまった。



 まずは指輪。石はルビーとサファイアの2つを選んだ。


 次にバングル。これには、それぞれに太陽と月の刻印が入ったものを2つ選んだ。


 次に時計。金の懐中時計を選んだ。


 次にネックレス。これにはエメラルドのはめ込まれたものを選んだ。


 次に髪を束ねるために必要なかんざしを選んだ。色は水色の珠がついた金色の物だ。


 次に工具コーナーに向かう。ゲンはなぜ工具? と呆れた顔をしている。


 選んだのは金槌かなづちを1本。何に使うかは不明。



「こんなにアクセサリーを買い込む人初めて見たわ……。あと金槌を買う人も……」



 ゲンは、カゴの中を見て呆れている。



「何となく、必要になりそう」



 と言い、私は買物カゴに入れた。



「一体いくらになるんだ……考えるだけでも怖いわ」


「大丈夫。足りているよ」



 私はなぜか自信の満ちた返答をした。



「……ま、まぁ最初が肝心と言うからな。必要な物だったら買うといいよ」



 それを聞き、私は最後に財布を選んで買物カゴを会計へと持っていく。


 会計にたくさんの人が並んでいるが、スムーズに進んでいるようだ。


 並んでいる人の年齢は、見た感じだと高齢の人が多いが、中には私のような若い人もいた。


 食べ物を買い込んでいる人やたくさんの物を買っている人もいて、買物カゴの中は個性が出るなと感じる。



「相変わらず混んでるな。最近レジのシステムを変えたから前より混雑は良くなったが、それでも客は多いからな……。結局並んでしまう」


「そうなのね」


「現金しかないからしょうがない」



 とゲンが呟いている。


 そうこう言っているうちに、私の番となった。


 レジ係なのかわからないが、メイド服に似た服を着た女の人が2人いた。たくさんの会計がある割少ない。だが、その2人は特に忙しそうにしていない。たまに高齢の人の相手をしているようだ。よく見ると、レジ係の人はルイと同じような角の生えた人のようだ。


 私はカゴを持ちながらゲートのような物をくぐった。すると、ピピー! とエラー音のようなものが聞こえた。


 他はピンポンと鳴るだけなのに、なぜ私だけ……。



「あれは何?」


「あれが最新のレジシステムだ。ゲートをくぐると商品のシールタグを読み込んでくれるという仕組みらしい。あとはあの機械で支払うだけだ」



 ゲンは、見たことのあるレジの形をした機械を指している。



「あ、局長おつかれです! 買い物ですか! 珍しいですね!」



 お金を払おうとレジに近づくと、メイド服のレジ係っぽい人が話しかけてきた。頭の右にぶら下がってるサイドポニーテールが激しく動いて、すごく自己主張が激しい。



「姉さん、口は動かさなくていいので確認をお願いします」



 逆に大人しそうなもう1人は、高齢の客の相手をしているようだ。こっちは左側にサイドポニーテールがあって、やはり大人しい。2人はとてもそっくりで、双子じゃないかなと思うほどである。



「新人の付き添いだぞ、俺の買い物ではない」


「そうなんですね! 新人割引を適用しておきますです! ……あ、局長! 新人用のタグ渡し忘れてますです! 後で渡しておいてくださいです!」



 どうやらレジ係だったようだ。その人はポチポチと操作をしている。


 私は、ディスプレイに表示された金額を見る。とても払えそうにない金額が表示されていたが、新人割引というものが追加され、普通に買えそうなくらいまで減った。



「あ、漏れがあったかすまんすまん。ほい、これ新人用のタグだ。7枚の切手を集めるまで有効だ。それにしても80%オフかよ……それでも万単位行ってるんだが、どれだけ高い買い物してるんだよ」


 ゲンはどこから出したのか、『新人』と書かれたタグを渡してきた。


 私は表示された金額を袋の中からお金を出して払った。残りわずかだが、たくさん配達はするだろうし、大丈夫だろう。



「払えたのかよ! 通常支給だと足りないはずだが、特別支給があったのか?」



 ゲンは驚いている。


 たしか、貰った時に特別支給って言ってた気がする。



「うん、貰ったよ。もしかしたら沖縄の友達が送ってくれたのかな? あ、でも家族にしかやらないって聞いたことあるし、この封筒何か違う気がする……」



 私は封筒を見ながら言った。



「ああ。あの世のお金って燃やす習慣のある所はだいたい家族にしかやらん。いいよなー」



 とゲンが呟いている。


 私の出身ってどこなんだろう? 自分自身の事を思い出そうとするとさっきみたいに頭痛がする。友人とかは憶えているけど、その友人と自分に関する思い出もダメだ。


 私はお金を見ながらそう思う。



「新人さん、お名前はなんて言うんです? ボクはクルリというです。そしてこっちが妹のノルリです。よろしくです」


「よろしくね」



 そう言いながら、彼女たちは手を振っている。



「私はムウといいます。よろしくお願いします」



 私はペコリと頭を下げて挨拶をする。


 他の高齢の人に呼ばれていたので、邪魔にならないようにお店を出た。



---



「ここの人たちは皆、頭に小さい角があるけど、人間?」


「あぁ元人間だ、俺も含めてな。あ、ちなみにさっきの2人は生前双子だったぞ」



 ゲンは説明し、終えた後、買い物袋の中にある饅頭まんじゅうを1つ取り出し、それをゆっくりとかじった。



「そうなんですね。残る手段もあるんですね……。人間だったらなぜ角があるんですか? 局長の好み?」


「俺が作ってるんじゃねーよ? あの世の世界っぽいとか土の男神が言ってたけど、よくわからん」



 物語とかによく出てくる、閻魔えんま大王の近くにいる鬼のことかな?


 私は首を傾げながらロビーの椅子に座って帽子を膝の上に置き、購入したアクセサリーをつける。指輪はそれぞれの中指に、バングルも両手首に、懐中時計はポケットに、ネックレスは首にかけ、金槌はカバンに入れた。そして、後頭部で長い黒髪を束ねてかんざしを挿し、お団子ヘアを作った。お団子ヘアを作った後、膝の上に置いていた帽子を被った。



「全部つけたんだな。てっきり日によって変えるものだと思ったよ。こんなにたくさんつける理由はあるの?」


「うん。胸の奥からこれだけ揃えてつけなさいって言われた気がする。私はそれに従っただけ」



 饅頭を食べながら問われたので、私はそれに答えた。



「ふーん……生前の記憶か何かしらの力が働いたのかもな。まあわからんけどな」


「そうなのかな?」



 私は買い物袋の中身をカバンに移して、お金の入った袋からお金を取り出してそれを財布に入れ、おにぎりを1つだけ取ってそれを食べた。



「ん! おいしい……あれ? 味がする」


「味するのは普通でしょ。死後の世界では味のしないご飯を食べるとかなると可哀そうだろ」



 と言い、うめーとか言いながら饅頭の残りを食べている。


 夢なのに味がする……? あ、でも味がする夢を見る人もいるって聞いたことある。そう思い、納得しておくことにする。



「さて、そろそろ行こうか」



 ゲンは饅頭を全て食べ終え、フヨフヨと浮き始めた。私もおにぎりを食べ終えたので立ち上がる。



「まずはどこに向かえばいいの?」


「えっとたしか、手紙の入ったカバンに手を入れてみるといいよ。そしたら勝手に手紙が手のひらに入ってくるから」



 早速手紙の入ったカバンに手を入れてみる。すると



「あ、入ってきた。すごい!」



 カバンから出した手のひらには、1通の手紙が載っていた。



「未練と未練が引かれあう現象だからな。その手紙の場所とムウの未練の1つが似ているってことだ」



 私は手紙をじっくりと見る。封筒は定番の白い封筒で、切手に何かが刻まれている。



「お、よく気づいたな。切手は今から行く先の風景が映し出される。だから、それを見て事前に準備もすることができる。長旅になりそうな場合は食料を買い込むのも大事だぞ」



 と言いながら、私の横から切手を覗き込んだ。



「今回は畑と家が見えるな。そこまできつい場所ではなさそうだ」



 田舎という感じの風景が描かれていた。



「じゃあ、持ち物は特に増やさなくてもいいね」


「ああ」



 それを聞き、私は出発ゲートへと足を進める。


 出発ゲートに近づくと、たくさんの人が列を成していた。


 私はその最後尾に並ぶ。


 待つかと思いきや、すんなりと進み、あっという間にゲートの前。



「ここもさっきと同じように局員証をかざしたらゲートが開く。やってみろ」



 言われた通りに名札をかざした。すると、閉じていたゲートが開き、外がはっきりと見えるようになった。


 私は開いたゲートの中へと入り、外へ出た。そこには、たくさんの飛び立つ人、着地する人、そして満天の星空が見えた。



「うわー! すごい! これ全部星?」



 私はその場から飛び立ち、無重力遊泳をしながら周囲の星々を眺める。


 まるで星の海を泳いでいる感じがする。



「ああ、この星々の半分くらいは『夢の星』だ。そして、これからムウが暮らすことになる『夢と現と輪廻の狭間の世界』だ」



 満天の星空の下、ゲンはくるくると宙を回り言った。


 こんなにたくさんの星を旅することになるんだ! 大変そうだけど、楽しみになってきた。


 私がわくわくしている様子をわかったようで、ゲンはニヤリと笑った。



「んじゃ、今日からムウは局員の一員だ!……夢と現と輪廻の狭間にある、星間郵便局へようこそ!」

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