03 鉄のニオイとひどい熱

 鉄のようなニオイがする。少しだけ、ガソリンスタンドで嗅いだことのあるガソリンのようなニオイもしたが、鉄のニオイが強すぎてよくわからない。


 目を開こうとしたが開かない。身体も動かそうとしたが全然言うことを聞かない。


 たしか、お父さんとお母さんと一緒に車で移動中だった気がするが、車が動いているという感じもしない。


 少し遠くからガヤガヤ音と悲鳴のような声と、たくさんの人がいる気配がする。


 遠くから救急車のサイレンの音が聞こえ、すぐ近くで止まった。


 その後すぐに誰かに声をかけられた。意識が朦朧もうろうとしているので、何を話しているのかわからない。


 少しすると車の座席から身体が浮く感じがした。その後すぐ少し硬いクッションに寝かされ、運ばれているような振動を感じる。そして、何か引っかかるような振動の後、車のドアが閉まる音がした。


 また車が動く感覚を感じた直後、救急車のサイレンがすごく近くで聞こえ始めた。まだ鉄のようなニオイがする。人の気配はするが、話し声はサイレンのせいで上手く聞き取れない。



「これはちとばかしまずいのう……魂が漏れ出ておる。わしのとお主のを合わせて使って、漏れている所だけ避難じゃ」



 突然はっきりと声が聞こえた。若い女性の声だが、喋り方が古風だ。



「たしかにこれはまずいですね。急ぎでやりましょう」



 もう1人女性がいるようで、温和な感じがしたが焦っている様子。


 救急車のサイレンが鳴る中突然温かい光に包まれ、全身が温かいと感じた瞬間意識が途絶えた。



---



 断片的だが自分の身に何かが起きたのは思い出せた。しかし、詳しくはわからなかった。


 私はまた目を閉じて思い出そうとした。


 頭痛がする。これ以上はきつい。


 おでこを触ると、ひどい熱が出ていた。


 頭がくらくらするので、少し横になった。



---



 少し時間が経っただろうか? 熱は完全に引いていた。


 うん、いずれは思い出すだろうし、熱が出ても困るね。今は触れないでおこうかな。



「うーん……とりあえず夢だと思うけど自分の意思で動けるね。郵便配達するって言ってたし、色んな人や動物に会えそう! 何か手助けとかできるかなー? なんかわくわくしてきた!」



 私はよしっと言い、着ていた服を脱いでロッカーのハンガーにかけ、制服を取ってそれを着て、帽子を被り靴を履いた。そして、扉を開けた。



「お待たせしました……」


「準備終わりましたか。はい、お似合いですね。あ、カバン忘れてますよ。はい、どうぞ」



 扉からルイが入ってきて、ロッカーに置いてあったカバンを取り、私にそれを渡した。そして扉から出てこちらですと案内をしてくれている。


 私はお世辞でも似合ってると言われて顔を緩ませながら、先に出たルイの後を追うように付いていった。

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