第11話 どうしてこうなった?

 ボクの名は<ラン>。

 天星万能戦術車両、メテオアタッカーシリーズが一号機<グラニ>のバディポットだよ。

<グラニ>はね、七機あるMAメテオアタッカーが一機、万能戦闘型特殊換装車両、MA01。

  陸地どころか宇宙でも海でも活躍できるスっゴい~マシーンなんだ。

 特に装甲や武装を換装することで多種多様な任務に対応するところがまたスゴーい!

 そしてその中核を担うAIであるボクこそ超スゴーい!

 ボクなくして<グラニ>の全性能を引き出せるのは無理だね。

 七機の中でメイン戦力となるべく開発されたMAだから、その機能はどのMAよりも抜きんでている、はずだったんだけど。

 FOGの大規模侵攻のせいで組み立てる時間が足りないから一週間がループする亜空間での組立突貫工事。ボクの計算だと完全に組み立てるには二週間かかるんだけどね、現状、亜空間内のループは一週間が限界。本来の亜空間は重圧だらけで生身じゃフツーに生きられない。偶然見つけたバグを利用してフツーに生活できているだけ。ループが代価みたいなもんだから、いじるにいじれないよね。

 突貫組み立てのせいで装甲に備えられたナノマシンによる自己修復機能の稼働率は一〇%未満ときた。

 これじゃ傷や凹みの修復にも軽く一時間はかかるよ。

 とりあえず形にしとけっていう上の指示が丸見えときた。

 肝心要のドライバーはいないわ。

 いたらいたでボクを玉っころ扱いする失礼なー人間だわ。

 加えて、この状況をどうしたものか。

 おニューな機体が出撃一時間程度でスクラップ間際になるなんて。

 ねえ、マスターイクト、いくらボクが超優秀で高性能な超AIでもキミのポンコツな思考とファ○クな現状の打開策を算出できないよ?


「どうしてこうなった?」

 イクトは<グラニ>の中、渋面で自問する。

 思い返そうと今更なこと。

 宇宙空間おける交戦を経て惑星ノイの大海原に墜落。

 交戦における損壊にて自力航行できず、漂流開始から今日で十日目が経過していた。

「どうしてこうなったんだ?」

 今一度、イクトは自問しながら<グラニ>の状態を確認する。

 バイザー裏に表示されるは痛ましい<グラニ>の姿。

 右装甲被弾による破損、左側面砲塔全壊、主砲自壊、左第二車輪欠損、右第三車輪脱落。後部装甲大気圏突入による圧縮断熱にて溶解、左サブアーム、敵粒子ビームにより破損、右サブアーム健在。斥力推進システム全ダウン。インナーフレーム損傷なし。電磁皮膜装甲、エネルギーバイパス切断により使用不能。自己修復装甲、損傷過度で使用不能。ALドライブ動作良好。車内気密異常なし。生命維持システム正常稼働。アルケミーサイクルシステム稼働率良好。

「おっさんたちが現状を知ったら怒髪天超えるぞ」

 車内温度は適温だが、背筋走る怖気にイクトは身震いする。

 レンチ片手にイクトを追い回すスタッフたちの生々しき姿が脳裏に浮かんでいた。

 心血注いで組み上げたMAを、ものの一時間で痛ましい状態にしたのだから当然であろう。

「不幸中の幸いか、今のところ浸水がないこと、どうにか水圧に耐え切れていること、後、飲食物や酸素が車両内で自己生産できることだ」

 脳内に記録したマニュアルによると、MAには単機での長時間作戦行動を踏まえてドライバーの健康と生命を維持するシステムが組み込まれていた。

 それこそがアルケミーサイクルシステム。

 これは排泄物を飲食物に変換させるシステムである。

 仕組みは機密情報に抵触するため詳細は記載されていないが、恐らく装甲に使われるナノマシンを応用したものだと読む。

 食べた人が聞けば嘔吐してしまうが実際、象の糞より抽出した水で乾きを凌ぐ、南極など極寒の地にて自身の尿を濾過して水を拾得するなど地球での実例があるのをイクトは知っていた

「どんな仕組みか分からんが、画期的なのは確かだわ」

 出しては食って出しては食ってと、感心するシステムである。

 味の方も美味くはなく臭くもない普通に食べられるときた。

 健康及び衛生問題もクリアされており、災害における避難施設に一台欲しいものだ。

「あ~どうしたもんかね」

 イクトはぼやきながらメインカメラ越しに、ノイズ混じりの青き海を見る。

「お前、ちょ~すごいAIを自称するなら、なんか打開策出せよ」

 専用ポッドに入ったまま沈黙を続ける<ラン>の表面をノックしようと反応はない。

 拗ねているのか、それともダウンしたシステムを再起動させんと奮闘しているのか、当人(?)がこの状態であるため不明だ。

「あのウサギ野郎。今度見つけたら操縦席から引きずり出して宇宙空間を漂流させてやる」

 やられたらやりかえすを地で行くイクト。

 メビウス監獄脱出直後までの出来事を思い返しては奥歯をきつく噛みしめていた。

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