第10話 これからどうします?

 黒き穴は<グラニ>が突撃したことで消える。

 部屋に残されたのは弾痕穿たれた壁面と急加速したことで床に刻まれたタイヤ痕、戦闘の影響で飛散した工具や機器の類であった。

「行ったか」

 主任の男は<グラニ>が消えた壁をただ見つめていた。

 可能性は放たれた。これでいい。これでいいのだ。

(リコのこと、任せたぞ。イクトくん)

 誰に聞かれることなく主任は呟いた。

「主任、これからどうします?」

「仮に救助が来るとしても、しばらくは来ないと思いますよ?」

「外の様子が分からないから、あの大規模侵攻の後、ノイがどうなっているかもさっぱりですし」

 スタッフたちの不安な声に、主任はどうしたものかと首を傾げて悩む。

「主任、<グラニ>に取り付けたメテオセンサーの動作を確認しました。これなら外の情報を<グラニ>を介して収集できます」

 一人のスタッフからの朗報に誰もが喜びどよむ。

 本来のメテオセンサーは通信不可の戦場だろうとタイムラグ無しに他のメテオアタッカー僚機とデータリンクを行い、連携を深めるシステムである。

 イクトには黙っていて悪いが今回、閉鎖された亜空間側からでも外部の情報を入手できるよう応用されていた。

「<グラニ>、現実世界に離脱を確認。次いで<バルムンク>の発射を確認。対象のFOG消滅しま――あっ」

 喜ばしい報告に次いで呆ける声に誰もが表情を凍てつかせた。

 あのガキなにやらかしたと誰もが瞳と肩を震えさせる。

「報告しろ」

「あ、はい、戦闘の余波でメビウス監獄の制御システムが切り替えられました。一週間から一ヶ月です」

「ふむ」

 主任はただ嘆息するのみ。食料は余裕で一年耐えられるよう備蓄されている。

 すぐ元に戻されないのは別なるFOGの襲来があったか、それとも制御システムの操作を彼が分からないか。恐らくだが後者だろう。彼の思考を踏まえれば下手な操作は悪手だと放置するはずだ。<ラン>のサポートを期待したいが経験不足は否めない。

「上手く他のメテオアタッカーと合流できれば御の字だが……」

 不安の種は尽きない。

 メテオアタッカーは全部で七台。

 万能戦闘型特殊換装車両―MA01<グラニ>

 超振動特異兵装型車両―MA02<キンナラ>

 超絶高機動戦闘型車両―MA03<レッドラビット>

 恒星間単独航行車両―MA04<ペガスス>

 自己生成型兵站補給運搬車両―MA05<ギョクリュー>

 戦場掌握型指揮官車両―MA06<ケイロン>

 強行偵察型車両―MA07<アレイオン>

 シュミレートでは一チーム七台の連携にてFOGを惑星ノイ上から一ヶ月で殲滅可能と予測演算が出ている。

 主任の懸念事項は七台全車両揃えば、の話であった。

「事前プランでは<グラニ>と同じように別個のメビウス監獄で組み立てるとあったが、こっちと同じ状況に陥った可能性も高い」

 役目を終えた以上、後はもう無事を祈るだけだ。

 祈り続けながらメテオセンサーから送られる情報に一喜一憂するループが待っていると思うと気が重くなる。

「あ~そういえば~」

 思い出すなり気が軽くなり、主任は歩き出す。

 向かう先は組み立て室に隣接された資材置き場だ。

 積み上げられた資材を見上げながら主任は唸る。

「救助が来るまで暇だし、予備のALドライブがあるから、もう一機作ってみるか?」

 資材置き場にあるのは<グラニ>の補修用パーツであった。

 補修に目をつむれば余裕で一機組み上げることができる。

 また真紅の装甲材の他に白や蒼の装甲材が安置されていた。

「本来<グラニ>は装甲を換装することであらゆる戦局に対応するメテオアタッカーだ」

 真紅の装甲は基本を抑えた万能型。

 本来なら高機動戦闘、超砲撃戦闘など装甲を交換することで作戦行動の中核を担うメテオアタッカーである。

 計画では装甲換装設備と共に製造されるはずが、FOGの大規模侵攻により頓挫。完成を最優先としたため他の装備は切り捨てとなった。

 こうして資材置き場にあるのは、ただ単に搬入資材の中に混じった結果でしかない。

「いやただ普通に組み立てるっても味気ないな」

 一週間から一ヶ月のループになった環境が主任の中に悪魔を降臨させる。

「よし、そのままメテオモニターでの情報収集を継続しろ。そのデータをフィードバックして新型を作るぞ」

 開発者だからこそ探求心は抑えられない。

 それはどのスタッフたちも同じようであった。

 救援がいつ来るか不明。

 ただ惰眠を貪りながら暇を持て余すのは技術者として腕を錆付かせるも同然である。

「やりましょう、主任!」

 走り出した者たちを止める存在など、この亜空間にいない。

 期限は一ヶ月。

 こうして邪魔な存在がいないメビウス監獄にて新たな作業が開始されるのであった。

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