第3話 プレゼント

 パープルが夢中になって食事をしているとき、ヴィクセンが小さな声でオリバーに言った。

「よく見てよ、この部屋」

「え?」

 言われて、オリバーは部屋を見渡した。


 何も敷いてないむき出しの床。ベッドの上には薄い布団と古い毛布。洋服ダンスには着替えが何着か掛けてあるが、どれも平民でも着ないような粗末な物だ。

 部屋の隅には便器と小さなバスタブ。他には何もない。とてもじゃないが、女の子が住んでいるとは思えない部屋だ。


 オリバーは拳を握りしめ、こみ上げてくる怒りを抑えて言った。


「ねえ、ヴィクセン。彼女はこれまでクリスマスプレゼントをもらったことがないだろ? これはサンタクロース協会の落ち度でもある。だから、彼女は十年分のプレゼントを受け取る権利があると思わない?」


「ええ、そうね。あと十個はプレゼントをもらえるはずよ!」


「そんな、この食事だけでも十分なのに」

 

 遠慮するパープルにヴィクセンが言う。


「いいからもらっておきなさいよ。何か欲しい物を言ってみて」


「……それじゃあ、布団と毛布を」


「よおし。暖かい布団と毛布、出てこい!」


 オリバーの持っていた白い袋から、フカフカの布団と暖かそうな毛布が飛び出した。この袋は、たくさんの物を収納できるサンタクロースの必須アイテムだ。


「次は何?」とヴィクセンがあおる。


「ええっと、じゃあ絵をかきたいから、クレヨンと画用紙が欲しいわ」


「じゃあ、この『いくらかいてもなくならないクレヨン』と『最後の一枚になると百枚に増える画用紙』がいいかな」


「うわぁ!」

 パープルの目がキラキラと輝く。


「ほら、まだ終わりじゃないわよ」


「じゃあ、ヴィクセンみたいなトナカイのぬいぐるみが欲しい!」


「まあ、可愛いこと言うのね。オリバー、わたしによく似たぬいぐるみを探して!」


「えー、そんなのあるかなあ」

 オリバーが袋に顔をつっこみ、ごそごそと探す。

「あ、あったよ。はい、どうぞ」


 ヴィクセンのような焦げ茶色の毛をしたトナカイのぬいぐるみを渡されると、パープルは「フワフワだわ」と、嬉しそうに抱きしめた。


「次はぼくが決めていい?」

 オリバーが、赤いチェックのテーブルクロスを出し、テーブルの上に置いた。


「このテーブルクロスの上にお皿を乗せて十数えると、料理が出来たてのように温かくなるよ」


「あら、気が利くじゃない」


「すごいわ。魔法のテーブルクロスなんて! これからはずっと温かい料理が食べられるのね」


 よほど嬉しかったのだろう。パープルは目をうるうるさせている。


「次はわたしに決めさせて」とヴィクセン。

「トイレとバスタブの前に衝立ついたてを置かなきゃ。あれじゃあ、ドアを開けたら丸見えよ」


「ほんとだ。だけど、衝立なんてあったかなあ――衝立、出てこい!」

 

 オリバーが呼ぶと、白い衝立が袋の中からボワンと飛び出した。

「ちょうどいい大きさのがあって良かった」

 オリバーは、便器とバスタブが見えないように、衝立で上手に隠した。


「これでよし」

「ほんとに何でもあるのね」


 パープルがクスクスと笑うと、オリバーも嬉しくなった。


「あとは何かしらね……そうだ、着替え! こんなボロ雑巾みたいな服じゃなくて、かわいいお洋服を出して」とヴィクセンが言う。

 

「うん。かわいい服ならリクエストが多いから、たくさんあるはずだよ」


 オリバーが何着か洋服を出すと、パープルは地味なベージュの服を選んだ。


「これにする。暖かくて着心地が良さそうだし、あんまり派手だとばれちゃうかもしれないから」


「それじゃあ、あと二つね。どうする? 王女さま」


「そうだ! 本が読みたいわ」


 パープルは三歳で字が書けるほど優秀だったが、それも養母ははうとまれる原因のひとつだった。


「どんな本がいい?」

 オリバーにきかれて、パープルは考えた。


「絵がきれいな本や、世界中を旅する本。他にも、冒険物とか、魔法使いの話とか、色々な本を読んでみたい」


 オリバーは、袋の中から次々と本を取り出し、パープルは時間をかけて、その中から二冊を選んだ。





 

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