桃太郎って面白い?

「なあ天才漫画家さんよ。アンタ桃太郎って話知ってるか?」


 そう言われても、その天才漫画家ことこの俺、幡賀海斗はただただ答えに詰まるばかりであった。

 なにしろ俺の意識は質問よりもまず、見知らぬ最高品質の部屋と、目の前の銃口と、それを構える女性に向けられている。

 いかにも高級品!みたいな調度品で構成された、総額いくらなのか想像もつかないような部屋。

 その部屋のスゲー高級な絨毯に俺は転がされており、目の前ではスゲー高級な椅子に座ったいかにもガラの悪そうな女性が、いかにも質実剛健な殺人装置の筒をこちらへと向けている。 

 ちゃんとした銘柄まではわからないが、それが一回の発射で人体を蜂の巣にできるようなやつであることは俺も知っている。いわゆる散弾銃。この部屋のものならどれだって壊せるやつだ。もちろん、俺も含めて。

 つまり、俺が肉塊へ変わる距離が果てしなく接近中というわけである。

 そしてもう一点、強く目を引くのはその銃を構える女性。

 眩しいほどの金髪を雑に頭の上でくくり、碧い瞳で目つき悪くこちらを見る。

 しかしなにより異質なのはその耳だ。

 いわゆるエルフのような長く大きな耳。作り物であるとも思えず、何もかもがわからない。


「で、どうなんだ? 桃太郎。まさか知らないとは言わないよな?」

「そりゃ、知ってますよ……」

「なら良かった。ひとまず今お前さんを撃つ理由がなくなった。で、その桃太郎だが、天才漫画家の目から見てどうよ? 面白いと思うか?」

「えっ……?」


 思いがけない質問だった。

 桃太郎が面白いかどうか。

 いわれてみると確かに意識したこともなかった。

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漂流物置き場(未完の大地) シャル青井 @aotetsu

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