異世界が転生
「お前は誰だ?」
「先日救っていただいた異世界でございます」
朝一番、玄関先に突然現れたその美少女は、口を開くなりそんな訳のわからないことをいうのだった。
現代日本からあからさまに浮いた純白のドレス姿に、キラキラと音がしそうなほどに輝く、現実離れした美しさと無垢さを持ったその表情。
そしてなによりその言動。
ひと目でわかる。
こいつは関わってはいけないやつだ。
トラックとの衝突事故から奇跡的な生還を果たし、半年近い昏睡状態から覚醒してから三日後、俺の生活はまだ平穏とはいかないらしい。
「えーっと、いろいろと言いたいことはあるが、まず、まず一つだけ確認させてくれ。さっきも聞いたが、お前はどこの誰だ?」
「先程も言いましたが、私は先日あなた様に救っていただいた異世界です。救っていただいた恩返しがしたいと思い、こうしてあなた様の元へと駆けつけたのです」
同じ質問をぶつけると同じ答えが返ってきた。
この少女が、俺が救った世界だって?
なにをいっているのかまったく意味がわからない。
「とりあえず、よくわからないということはわかった。このことに関してはもっとちゃんと話し合いたいところだが、あいにく俺には時間がない。また後日、ゆっくり話をしよう」
それはこの明らかに関わり合いになってはいけない少女から逃げ出すための方便であったが、実際、呑気にもしていられない状況である。
なにしろ久しぶりの学校なのだ。退院してからはじめての登校である。まさか復帰初日から遅刻するわけにもいかないだろう。
「ああ、その点についてはご心配ありません。現在、外の時間は止めてありますので」
わけのわからない少女がわけのわからないことをいう。しかもわけのわからなさが一段階上がった気がする。
「これも、あなた様が世界を救う際に再発見された魔法ですよ」
にこやかな笑みを向けられてもこっちは唖然とするしかない。
さっきからこの少女の発言にまともだったものは一つもないのではないか?
そう思ってちらりと時計を確認すると、まるで少女の言葉を肯定するかのように秒針が止まっていた。
どういう魔法なのかわからないが、とりあえずわけのわからない状況なのは少女だけでなくこの世界そのものだということらしい。
「わかった、とりあえず話を聞こうじゃないか。中に入れよ……」
こんなわけのわからないことになっているなら、折れるのはこちらしかないじゃないか。
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