第3話 事件は起こっていました
「あの……一年前の夜会は?」
何かあったはずだ。小説通りなら、悪役令嬢である私がヒロインに毒を盛ってそれをリュディガー様が介抱したはず。そんな事件もあってヒロインはリュディガー様との仲を深めて悪役令嬢は、断罪イベントまっしぐらだった。
でも、私は毒など盛ってない。そもそも、私は断罪されたくなくて、昔からヒロインに近づかないようにしていたし意地悪もしなかった。
私は、なにもしませんよ! というアピールも含めて殿下との一夜の過ちを狙っていたのに。
普段から、ヒロインとばったりどこかで会わないように極力外出も控えていた。それも含めて田舎の別邸への引っ越しを企んでいたのに。
魅了の魔法にかかっていたせいで、この一年の記憶もモヤがかかったような感じだが、思い出せば夜会で何かはあった気がしてきた。
リュディガー様にまとわりついていて、途中で彼はどこかへと行っていたはず。私は、庭のやバルコニーなどを探し回っていて、気がつけばリュディガー様が戻り「帰ろう」と連れて帰られた気がする。婚約者だから、私を邸まで送ってくれたのだ。
できれば、その時にヒロインとベッドインしていて欲しい。はかない願いを込めるが、過ぎた出来事には何の意味もなかった。
「あの時は、ずっとそばにいられなくて残念だったな……誰かに取れればどうしようかと思っていたんだ。魅了の魔法をかけておいて良かったよ。勝手に殿下に迫られてはたまらないからね。クリスに手を出せば、俺が謀反者になるところだった」
それは、私があの時に殿下と一夜の過ちを犯していれば、リュディガー様は殿下を暗殺するところだったということですか!?
さっきから、怖い情報が明らかになる。
「あの……その時にリュディガー様はどこかに行かれていましたよね? 私は浮気をする男は嫌いなのです! ですから……」
「あぁ、あの時は毒殺未遂事件が起こっていたんだ。グラスに毒を仕込んだらしくてね……ほんの少量だったから、秘密裏に事件を片付けていたんだ」
事件は起こっていました。
一体誰がそんなことを!?
私が盛らなくても、毒殺イベントは起こるのが普通なの!?
何のために、毒殺未遂事件など起こさないように離れようとしていたのか……一体この世界はどうなっているの?
しかも、マリアンナ様と一緒ではないし。ヒロインをガン無視って、どうなの!?
それに、毒殺事件は誰が毒を盛ったのだろうか。そして、誰が毒を盛られたのだろうか?
小説通り考えれば毒殺未遂の被害者はヒロインのはずだ。だから、私を夜会に置いてリュディガー様は仕事だと言ってどこかへと行ってしまったのではないのかしら。
「あの、マリアンナ様は大丈夫なのでしょうか?」
「クリスは優しいね。自分を毒殺しようとした女を気にするなんて……でも、もう大丈夫だ。マリアンナはすでに捕えている。二度とクリスには近づけさせないから安心するといい」
「リュディガー様……今なんと?」
「クリスは優しい……と言ったが?」
「その前ですよ! 私を毒殺しようとした!? マリアンナ様が!?」
初めて聞く情報に混乱する。毒殺未遂の犯人が反対になっている。というか、ヒロインが悪役令嬢を毒殺しようとしてどうするんですか!?
ヒロインとは、もっとこう……儚い感じではないのですか!?
誰か教えて!
「でも、私は毒なんて飲んでませんよ!?」
「当たり前だ、クリスにそんな恐ろしい物を飲ませるわけがないだろう。マリアンナは、以前からクリスを悪者にしようとしていたから、いつかなにかをやらかすかと思って見張っていたんだ。マリアンナの動向はいつも把握していたから、毒を入手したことも掴んでいた。一緒にいることも疲れてきたところだったから、そろそろ退場してもらおうと思ってね」
恐ろしい。マリアンナ様を私に近づけないために彼女の動向を知っていながら尻尾を出させるとは……まさか、リュディガー様がマリアンナ様と一緒にいたのがそんな理由だったなんて驚きですよ。
というか、マリアンナ様。あなたはヒロインなのに一体なにをしているんですか。
私が、普段からヒロインに近づかないようにしていたことが、マリアンナ様からすれば意地悪の標的にならなくて困っていたのですか?
私が、いつまでもリュディガー様の婚約者だからのような気がする。
でも、この人は別れてくれないんですよ。
だからといって、悪役令嬢である私を毒殺しようとしないでください。
そのうえ、まさかの断罪イベントが私が魅了の魔法にかかって知らぬ間に終わっており、小説のヒーローがヒロインを断罪するなんて思い浮かばなかった。
私の幼い頃からの苦労は一体なんだったんだろう。この断罪イベントをどうかわそうかと何年も頭を悩ませていたのに……魅了のせいで、この一年は忘れていたけど。
「いつも追ってきているクリスも可愛いかったけど、その怯えた顔も可愛い……でも、怯える必要はないだろう? 俺たちは、幼い頃からの婚約者だ。それに、浮気だと思っていたということは、やはり俺が好きなのかな?」
そこは前向きな考えに到達するところですか!?
「嬉しいよ」
「ひゃ!」
垂れかかり私の肩に乗っているリュディガー様の頭が動くと、首筋がチクンとした。
首筋に痕が残るものを付けられたのだ。
「い、いやーー! 離れてください!!」
突然のことに思いっきりリュディガー様を突き飛ばした。それでもほんの少ししか離れない。意外と彼は頑丈だった。混乱しすぎて涙目になる。
「か、帰ります!!」
そのまま部屋を飛び出した。だから、聞こえなかった。「絶対に逃がさないよ」というリュディガー様のひそやかな発言が……。
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